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俺、異世界平和にするんで  作者: 圭
森精種編
29/73

俺、体好きにされすぎなんで

 窓の外が、少しずつ明るくなってきた。

 小鳥のさえずる声が聞こえる。


 ……一睡もできなかったぜ。


 一晩中俺は減量中のボクサーの気分を味わっていた。


 腹って減りすぎると気分悪くなるんだね。食ってホント大事。


 リーリャが俺の腕に抱き着いていた件だが、リーリャの涙が止まってしばらくしたら、リーリャは俺の腕を解放して寝返りを打ってひもの向こう側に戻っていった。


 なんだよ、ほっときゃ戻るのかよ。焦った俺があほらしいわ。


 俺は三人を起こさないようにそっと起きて、階段を下りた。


 昨日の残り物とかないかな?


 「おや、起きたのかい。若いのに早いのう」

 「あ、村長さん」


 一階のリビングに入ると、村長さんが分厚い本を読んでいた。


 「おはようございます」

 「おはよう。ほっほっほ、よく眠れたかい?」


 「いや、まあ。村長さん、朝早いんですね」

 「年寄りは朝早いのじゃ。どれ、そこに座りなさい」


促されて俺は村長さんの前に座った。


「それにしても昨日は災難だったのう。ヒナミから聞いたよ」


 俺がリーリャに気絶させられたことだろう。


 「いえ、俺がリーリャをからかいすぎたんです」


 「昔はもうちっとおとなしかったんじゃが」


 「へえ、そうなんですか」


 「ああ、あの子が変わってしまったのは――」


 村長さんが何か言いかけたが、ぐうっと俺の腹が鳴ってしまった。


 「あ、すいません」


 「ほっほっほ、そういえば君は昨晩何も食べておらなんだのう。どれ、そこで待っていなさい」


 村長さんは立ちあがり、部屋から出て行った。


 しばらくすると、大きな鍋を持って村長さんが戻ってきた。


 「昨日の残りじゃが。まあ、食べなさい」


 鍋のふたを開けると、蒸かしたジャガイモがごろごろ入っていた。


 「いいんですか?」 


 「もちろん」


 「では、いただきます」


 俺はそれを一つ手でつかみ、かぶりついた。


 「おお! うまいですね」


 一晩たって冷めてしまっていたが優しい味わいで、心がなんだか温かくなった気がした。


 味付けはおそらく塩コショウだけなのだが、それがイモ本来の味を引き出していた。


 「そりゃよかったわい。これはのう、リーリャが作ったんじゃ」


 「へえ、リーリャが」


 そう言われると、確かにリーリャらしい料理だ。


 一見するとイモを蒸かしただけのそっけない料理だが、なんていうのかな。


 「リーリャの愛がこめられている気がしますね」


 「そんなものこめていない。黙って食え」


 そんな冷たい声とともにリーリャが階段を下りてきた。


 「あ、リーリャおはよう。これ、うまいよ。リーリャ料理上手いんだね」


 「うっ……そ、そんなことを貴様なんぞに言われてもまったく嬉しくない。むしろ不愉快だ」


 ひゅうっ、あいかわらずの切れ味だぜ。たぶん紫レベル。


 「そういえば君のこと、わしらはまだよく知らんのじゃ。リーリャもいるからちょうどよい。少しわしらに君のことを話してくれるかの?」


 「俺のこと?」


 「なぜ我も聞かなくては……」


 「いつも言っておるじゃろ? その人のことを判断するには、肩書だの身分だの種族だの、そういうものではなくその人自身のことを見なさい、と」


 「それはまあ、わかっているが……」


 「まあよいじゃないか。ソウマ君は異世界の人。興味深い話が聞けるかもしれん」


 「……わかった。では聞いてやろう。さあ、ぱっとまとめて話せ」


 「ああ、俺が話したいかどうかは無視なのね。まあいいけど」


 俺はとりあえず話せることは全部話すことにした。自分のこと。家族のこと。こっちの世界に来てからのことなんかを。


 ただ一つ、俺が死なない身体だというのは、言い出せなかった。


 怖がられたり、気味悪がられたりしたら、嫌だから。






 「おぬしもいろいろ苦労しておるようじゃのう……」

 「その若さで貴様、両親を……」


 俺の話をしたら部屋の雰囲気が暗くなってしまった。


 おっかしいな~いろいろ冗談も交えて話したんだけどな。


 「まあでも今は結構幸せですよ。ヒナミもメグミさんもいい人ですし。あ、それにリーリャも村長さんも!」


 俺はこの部屋の雰囲気が気にいらないので、ことさら明るく言った。


 「ふっ……おぬし、なかなかできた男じゃのう……。リーリャよ」


 「ん? なんだ?」


 「ヒナミとメグミを起こしに行ってくれるかい? そろそろいい時間じゃからのう」


 「ああ、わかった」


 リーリャは二人を起こしに二階に上がっていった。


 「あの、村長さん……」

 「ん、なんじゃい?」


 一つ、俺には聞いておきたいことがあった。


 「ヒナミの両親は、ご存知でしょうか?」


 「もちろんじゃとも。彼らはわしらにとって本当に、命の恩人じゃ」


 「そうですか。その……彼らは、その、爆撃に巻き込まれて、亡くなったと……」


 「ああ。不幸なことじゃ……」


 「この村にいたときだったんですか?」


 「いいや。ここではない。ここから東にしばらく行ったところに昔、村があっての。そこに彼らが怪我人の治療に向かったときに……の」


 「ああ、そうだったんですか」


 少し疑問に思っていたんだ。ヒナミの両親が亡くなった村にしてはこの村は、どうにもきれいだなと。


 戦争の爪痕が、見えないなと思っていた。


 「彼らのことをわしらは敬意をもって、こう呼んでおる。『医神(いかみ)』と」


 「医療の、神……」


 「ああ。彼らに助けられた命は、数え切れんよ」


 すると階段から足音が聞こえてきた。


 「おはようございます。村長さん、ソウマ」


 「若いのに君は早いなあ。ふわ~」


 「おはよう。ヒナミ、メグミさん」


 二階で着替えてきたのだろう。二人とも動きやすそうな恰好をしていた。


 ちなみに俺は昨日気絶させられたので昨日着ていた服のまま……ってあるぇ⁉


 「ちょいちょいちょい! なんで俺パジャマ姿なんだよ! いつだれが着替えさせた⁉ ってかこれ誰の?」


 俺はいつのまにか見覚えのないパジャマ姿に変わっていた。


 「呆れたな。貴様、今頃気づいたか」


 ふっと鼻で笑って、小馬鹿にしたようにリーリャが笑った。


 「それは昨日、我が着替えさせた」


 「な、なにゆえ!?」


 「決まっているだろう。汚い恰好のまま我の部屋で寝られても困るし」


 リーリャはにやりと口の端を歪めて続けた。


 「それに、貴様の筋肉を見たり触ったりすることができるチャンスをみすみす逃すわけないだろう?」


 だろう? じゃねえよ!


 「ま、まさか下着も⁉」


 下着、っていうか業界で言うとこのツーパンまで着替えさせられていたら俺はもうおとこのことして生きていけない……。


 「い……いや、それは……なんというか。さすがに、無理だった」


 「あ、そか。なんか……ごめん……」


 てっきり「不埒者!」とか言われると思ったのに、リーリャが普通に照れるからこっちも恥ずかしくなって、俺は謎の謝罪をしてしまった。


 「あ、えと、そ、そうだ。このパジャマ誰のだ?」


 「それは、我の兄のものだ」


 「え、お兄さん……?」


 それは……昨晩の……。


 「ほら、貴様も着替えてこい。着替えは二階に置いてある」


 「ああ、わかった」


 リーリャに促され俺は二階に上がり、着替えようとして……リーリャが俺の体を見に来ないか階段を見て確認し、リーリャはどうやら朝食の用意をしているようなので急いで着替えた。


 一階に降りるとすでに朝食の用意はできていた。


 さっき食ったのと同じ蒸かしたジャガイモと、野菜がごろごろ入ったスープ。


 ついさっきイモを食ったばかりだが、その匂いをかいだらまた食べたくなってきた。


 「すまんのう。あまり豪勢ではなくて」


 村長さんがそう言うと、ヒナミがいえいえと首を振った。


 「とてもおいしいですよ。わたしはガラ村に来るたびに、リーリャさんの料理を楽しみにしているんです」


 「ヒナミ殿が、そんなことを言ってくれるなんて。たとえお世辞だとしても、我はとても嬉しい。ありがとう」


 リーリャは優しげな微笑みを浮かべていた。


 俺がさっき料理のこと褒めたら不愉快だとか言われたんだが……。


 「ヒナミちゃん。朝食が終わったら、昨日の健康診断の続きをするのだろ? 私たちに何か手伝えることはないか?」


 メグミさんが横に座っているヒナミに聞いた。


 「そうですね。では今日はメグミさんとソウマに一緒にいてもらって、サポートをしてもらいましょうか」


 「わかった。ソウマ君、君もいいだろ?」


 「ええ、もちろんです」


 俺はメグミさんにそう言ってうなずいた。


 「いつもいつもありがとう、ヒナミ。しかしわしらには何も返せるものがない……。ヒナミのご両親にも、わしらは何もできなかった」


 とても申し訳なさそうに村長さんは言った。


 「いえ、そんな! わたしはただ自分がしたいからしているだけで、それに……お父さんとお母さんのことは仕方がなかったんだと思うので」


 「しかしそれでは我らの気がおさまらない。どうか、我らにできることがあったらなんなりと言ってくれ、ヒナミ殿」


 リーリャはそう言うと、深く頭を下げた。


 「どうかヒナミ殿の力にならせてほしい。我らはただ口を開けて餌を待つ雛鳥ではないのだ」


 「そ、そう言われても……」


 「我らはもう、恩人の力になることができないあの無力感を味わうのは、まっぴらなのだ」


 そう言ったリーリャに俺は、自分を重ね合わせていた。

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