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俺、異世界平和にするんで  作者: 圭
邂逅編
15/73

俺、獣人種に軽めの説教するんで

「はぁ……はぁ……」


正直かなり疲れた。早く帰って飯食って風呂入って寝たい。


 こいつらはまあ、ほっときゃそのうち目を覚ますだろ。あ、でもこりずにまた同じことしたらどうしようか。それにメグミさんもまだ気を失ってるし。


 すると後ろからヒナミが近づいてきた。


 「なあヒナミ。この状況、どう片づけたら――」


 言いながらヒナミのほうに振り替えると……。


 パーン、とほほをはたかれた。


 はたかれたほほは、じんじんと痛んだ。


 「……え?」

 「何でここにいるんですか⁉」


 ヒナミは、俺をにらんでいた。潤んだ瞳で。


 それにしても俺をよく叩くし、それによく泣く女の子だなあ。

 なーんて。

 俺は叩かれた理由も、ヒナミが泣いている理由もなんとなくわかった。


 「こんな危ないところに来て、わたしなんかをかばって、何もなっていないからいいものを、死んでいたらどうするんですか! というか何で生きてるんですか⁉ 真後ろにいたわたしは見てましたよ。ビチャーって! ビチャーってなってましたよ! どうなってるんですかいったい!」


 「ごめん。心配かけて、ごめん」


 「ホントですよ……ホントに心配したんですから。しかも一人で三人を相手にして」


 「ごめんなさい」


 「まったく。でも……ありがとうございました。助けてくれて、守ってくれて」


 「いや、まあ別に」


 「それにしてもさっきの動き、飛び上がったり、回転したり。あれ、何ですか? 見たことありません、あんな動き」


 「ああ、あれか。あれはまあ、プロレス技なんだ」


 「プロ……え?」


 プロレスはこの世界にはないのだろうか。


 「プロレスだよ。俺のいた世界にある格闘技で、ざっくり説明すると魅せる格闘技ってところかな」


 「ソウマは、格闘家なんですか?」


 「そんなまさか。違う違う」


 俺みたいなのと一緒にしたら、むこうに失礼だ。

 俺が諦めかけた時走馬燈で見た『彼ら』というのは、俺が元の世界でずっと見てきたプロレスラーのことだ。


 「じゃあ何であんなことできるんですか?」


「俺の母さんが、プロレスが大好きだったんだ。俺は小さいころからずっとプロレスを見て育った。そして真似をするようになったんだ、選手の動きを。そんな俺を母さんも応援してくれて、俺が新しい技ができる度に喜んでくれた。俺はそれが嬉しくて、次々といろんな技を身につけていったんだ」


 中学に上がったころ、母さんは身長百九十センチ、重さ百キロの人形を作った。自作だ。俺が投げ技なんかを練習できるようにと作ってくれた。関節も自在に動くし、直立だってする。正直言って呆れたが、それのおかげで技のバリエーションは増えた。


 「それに自分で言うのもなんだが、身体能力は小さいころから抜群だった。それはおそらく父さんの影響だ」

「いなくなったっていう……」

 「そう。俺の父さんは、自衛隊にいたんだ」

 「じ……じえ?」

 「自衛隊。俺のいた国にある、ええっと……わかりやすく言えば専守防衛の軍隊だな」


 まあ実際は軍隊ではないのだが。


 「その父さんの影響かどうかちょっとわかんないけど、俺は筋肉のつき方がいいんだ。背はそんなに高くないけど」

 「そうだったんですか」

 「まあそうだ。さて、こいつらどうすっかな」


 足元には獣人種三人と、少し離れたところではメグミさんが気を失っていた。


 「ヒナミはメグミさんを診てくれ」

 「わかりました」


 ヒナミはメグミさんの容体を見に行った。


 では俺はっと。


 俺はライオン型に近づいて頬をぺちぺちと叩いた。


 「おい、起きろ。おーい」

 「……グッ」

 「おう、目を覚ましたか」

 「お前は……何者ダ」

 「人に聞く前に自分が名乗ったらどうだ」


 これは、ちょっと言ってみたかったセリフだ。言えたぜ。

 「ふん。俺は……シャンだ。フオ・シャン」

 「俺は内東想真だ。それでだ、あ、シャンって呼ばせてもらうが」

 「勝手にしろ」


 「それでだシャン、これからどうする?」

 「どうするとハ?」

 「もう一戦するか?」


 「いいや、体に力が入らんシ、もう一度やったところで同じ結果だろう」

 「いい判断だ。俺もやりたくない。疲れるし。それにお前ら他種族と戦うのは嫌だ」

 「戦うのが嫌だと?」

 「ああ、嫌だ。だって俺は、お前たち他種族が大好きなんだから」


 シャンは眉をひそめた。


 「そんな人間がいるものカ。人間はどいつもこいつも、偏見に満ちていて、俺たちの声には全く耳を傾けなイ。俺たちにしたことを忘れ、のうのうと暮らしているだけダ」

 「まあそうかもな」


 「だから俺たちはテロなんてことをしているのダ。俺たちの現状を、子供たちが今日食うものにすら困っている現状ヲ、声を上げても全く聞き入れられないから、もう暴力に訴えるしかないのダ」


  さっきシャンが何回か言っていた『あの子たち』とは、獣人種の子供たちのことだったのか。


 「本当はしたくないんだな」

 「当たり前ダ。だが、我慢ならんのだ。女子供が飢えていることが。あの子たちが何をしたというのだ……。実はナ、ヴァンジャンスから出る指令を一つこなすと金や食料がもらえるのダ」


 「動機は憎しみだけじゃなくて、生活のためっていうのもあったのか」


  でもそんなこといつまでも続けさせるわけにはいかんよな。


 「……すべての人間がお前らのことに無関心だとか、嫌ってるとかいうわけではないぞ」


 「お前のことカ? お前は特別というか変わっているだけだろ。何故だか他の人間とお前は匂いが違ウ」


 俺はこの世界の人間とは匂いは違うのか? 他にもどこか違うところがあるのかもしれない。だが異世界出身というのは軽々に口にすべきではないだろう。


 「まあ俺が変わり者だということは認めるが、俺だけじゃない」


 俺は少し離れたところにいるヒナミを指した。


 「このことは他言無用にしておいてほしいんだが、あの子は森精種の国のとある村に住んでいる人たちの健康管理のために、その村にたまに行っているそうだ」


 とある村落の出張看護(デリバリーナース)だな。ところでデリバリーナースって、そこはかとなくいやらしいと思います。コスチュームプレイは割増だよ!

 おっといけないいけない今はシリアスシーンだ。自重自重。


 「何だと⁉ そんなことがばれたラ、すぐに殺されるか、よくて一生牢獄ダ」

 「そうだ。だがそんな事重々承知であの子は活動しているんだ。そんな人間がいるんだっていうことを、覚えておいてほしい」


 「…………」


 シャンは黙ったまま、じっと考え込んでいるようだった。






 その後立ち上がれるようになったシャンは、シカ型のトゥイとクマ型のリーチューを起こした。彼らにはシャンから話をしてもらった。彼らはアーデル語は使えないからだ。

 彼らはシャンの、撤退するという意志に同意したようだ。


 ヒナミによると、メグミさんはまだしばらく起きないようだが、命にかかわる

ようなことはないということだ。


 俺とシャンは最後に向かい合って話をしていた。


 「さっきも聞いたが、これからお前らはどうするんだ?」


 「一旦は国に帰る。それからのことはむこうで考えるが、少なくともテロ行為はもうしない」

 「そうか」

 「稼ぎ方は、また別の方法を見つけねばナ。だがヴァンジャンスには残る。あそこには、親しいやつらが大勢いるからナ。ほっとくわけにもいかン」


 「できればヴァンジャンスのやつらにも、こんな人間がいるんだって話をしてほしいんだが。あ、実名は伏せて」


 万が一ばれたらとんでもないことだ。


 「できないこともないが……」


 シャンは眉間にしわを寄せた。

 「ヴァンジャンスには、俺たちとは比べ物にならないほどの傷を抱えたやつらがいる。身体だけでなく、心にも。あいつらには、生半可な言葉では何も伝わらないと思ウ。……お前らが、ソウマとその子が直接話してやれば少しは変わるかもナ」


 シャンは俺と、俺の横で話を聞いていたヒナミに目をやった。


 「わかったよ。きっと行ってやる」

 「ええ。複雑な悩みを抱えている方が、たぶんそこにはいらっしゃるんでしょう? わたしにできることがあるのなら、力になれるなら、断る理由はありません」


 「無理なことを言ってすまなイ。だが彼らを救えるのは、おそらくお前ら……いや、君たちだと俺は思う。あ、そうダ」


 シャンは突然後ろで待機していたトゥイとリーチューの二人を呼んだ。


 「ヒナミさん」

 「は、はい?」

 「本当にすまなかった」


 するとシャンたちは地に膝と手をつき、深々とヒナミに向かって頭を下げた。


 「え、ええ⁉ ちょ、ちょっと頭を上げてください」


 「いや、こうでもしないと俺たちの気が済まなイ。俺たちは今まで、ヒナミさんのような人間がいることを知ろうともせず、ただ人間を憎み、テロをしていタ。だがヒナミさんのような人間がいるというその事実が、俺たちの考えを改めさせタ。ヒナミさんの行動は、森精種だけでなく、俺たちも救ってくれタ。ありがとう」


 「い、いえ。わたしだってさっき事情も知らずに失礼なことを……」


 「いや、あの言葉は常に亜人種のことを考えてくれているからこそ出てくる言葉ダ。さっきは頭に血が上ってしまったが、よく考えたらあなたの言う通りダ。俺たちが間違っていたのダ」 


 なおも頭を下げ続ける彼らを前に、ヒナミはあわあわとしていた。


 彼らだって、根は悪いやつらではないのだろう。ただ今回は、仲間への想いが強すぎて、それがあらぬ方向に行ってしまい、間違ったことをしてしまっただけなんだ。


 世の中に、本当にただ悪いだけのやつはいない。

 みんなそれぞれ事情がある。


 ただ悪いだけのやつがいれば、それほど楽なことはないんだけどな。


 「なあ、そろそろ出発したほうがいいんじゃないのか。暗いうちに移動しといたほうがいいだろ」


 俺は困っているヒナミに助け舟を出した。


 「ああ、そうだナ。その通りダ。では、またいつの日か会おう。君たちが世界に、平和を作ることを願っているよ」


 そう言って彼らは工場から出ていった。

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