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俺、異世界平和にするんで  作者: 圭
邂逅編
1/73

俺、異世界行くんで

題「私の夢」二年一組 内東想真(ないとうそうま)


 私の夢は、エルフダークエルフハーフエルフ獣人種吸血鬼人魚妖精天使堕天使エトセトラの方たちがいる世界に行き、男性とは友情を語り合い、女性とはキャッキャウフフしながら平和に暮らすことだ。おいちょっと待てお前、何を考えているのだ、不可能だ、馬鹿なことを言うんじゃないと、そうおっしゃる方もいるだろう。いや、この世のほとんどの方がそう言うかもしれない。だが、馬鹿なことを、不可能なことを言わずして何が夢か。大空を目指したかのライト兄弟のように、かつて偉大な発見、発明をした偉人達も、当時は周囲に理解されず馬鹿にされた。それでも彼らはあきらめずに夢を追い求めた。そして最後には夢をかなえた。だから、私もどれだけ馬鹿にされようとも絶対に夢を叶えてみせる。



 という作文を提出した次の日、俺は担任、学年主任、教頭、校長、果ては養護教諭にまで呼び出しをくらった。わ~オールスターだ~豪華だ~。ここはマツダスタジアムかな?


 彼らから放たれる言葉はどれも似たようなものだ。


 「何か悩み事があるんじゃないのか、なんでも正直に話しなさい」

 「現実を見るんだ。まったくこれだからアニメやゲームで育った連中は。何を考えているかさっぱりわからん」


 言い方に違いはあれど、内容的には大体こんなものだ。


 ふざけんな。


 何を考えているのかわかっていないのならわかってから指導しろ。あとアニメやゲームは悪くない。それに、思ったことを正直に作文にしたのになぜ心配されにゃならんのだ。


 心の中でドレッドヘアの俺に、


 「ちっ、うっせーな、反省してまーす」


 と言わせていたのでいくらか気はまぎれたが、それにしたって納得がいかない。


 まったくこれだからノーマル人間は。何を考えているのかさっぱりわからん。


 「ただいまー」


 一人暮らしのためおかえりー、とは返ってこないのだが、気分の問題なので一応言う。っていうか返ってきたほうが怖い。


 二年前に母さんは他界したので、高校は寮があるところにした。父さんは……まあ、うん。


 そんなことより……なぜ高校にも亜人種がおらんのだっ!


 小中学校はまだ我慢してたよ、うん。成長途中の耳とか見られるのは恥ずかしいから隠してすごしてるんだろうなって思ってたし。


 でもさあ、高校生になったらある程度は成長してるでしょうよ。


 なのに、入学当初見学しに行った陸上部で活躍している獣人もいなければ、吹奏楽部でハープを弾いているエルフもいなかった。


 普通の人間しか……いなかった。


 まったくこの世界は何をしている。仕事しろ。


 入学当初は亜人種のことばかり考えていたので、友達を作る機会をすっかり逃した。


  学校という場所ではそうそう最初にできたグループに入ることはできない。


  おかげでクラス替えのないこの学校で、俺は二年になっても一人だ。



  ん? よく考えたら小中学校でもなんだかんだで一人だった。


  ヒトリです……昼休みと体育の時間が一番困るとです。

 

  ……でもまあ普通の人間に興味ないし別にいいがなっ!


  フレンドゼロとか流行の最先端すぎる。ほら、最近カロリーゼロとか糖質ゼロとか流行ってんじゃん。違うか。



 そんなことを考えながら飯を作り飯を食い風呂に入り、世間一般にはファンタジー小説だと言われているノンフィクション作品を読み、眠くなってきたので寝た。







「お父さん、ぜったいかえってきてね」

 「ああ。母さんのこと頼むぞ」


 「うん! ぼく男だから、お母さんをまもる!」

 「ははは! 頼もしいな」


 大きな手が俺の頭の上に置かれる。


 「……あなた、気を付けてね」

 「ああ。行ってくる」


 「「いってらっしゃい」」


 大きな背中が遠ざかっていく。








 ああくそ眠い太陽爆発しろ。

 そんなあほなことを考えながら起床する。


 ……変な夢を見ちまった。何であんな奴の夢なんか。

 朝っぱらから気分が悪いぜ、ったくよー。


 これからは枕の下に亜人種が描かれたカードを入れて寝ようかな。せめて夢の中でくらい気分よくなりたいもんだ。


 窓からはギンギラギンに全くさりげなくなく朝日が射しこんでくる。朝から太陽本気出しすぎだ、自重しろ。


 今日も今日とて学校だ。行きたくなかろーがなんだろーが学校なのだ。


  ……えっ、マジで今日も学校なの?


 と思ってカレンダーを見ると水曜日だった。平日も平日、直球ど真ん中だ。

  

  しかも六月なので祝日の可能性もない。



  しゃあねえな、用意すっか。と思い着替えを取るためにタンスを開けた。


  ちなみに俺の部屋のタンスは引き出しではなくいわゆる観音開きだ。さらに無駄にでかく、俺の制服と普段着が少しだけなので中身はスカスカだ。



  だからいつもなら、タンスの奥というか後ろの板が見えるはずなのだ。薄い茶色の木の板が。だけど、


 「は? なんだこれ?」


 なんだろう……なんていうか


 「真っ黒っていうか、真っ暗?」


  タンスの奥が真っ暗って言っても、おめーそりゃタンスの奥は暗いだろうとかいうクソリプを飛ばしてくる輩がいるだろうからスマホのライトで照らしてみた。が、


 「暗いなあ、なんなんだろな……はっ!」


 と、そこで俺は天啓を得た。


 「これってもしかして、あれじゃね、異世界への入り口なんじゃね?」


 まじかあ、とうとうきちゃったかあ。


 「どうしよっかなー!」


 と、くねくねしながら興奮していた。なんなら膝蹴りとかくりだすレベル。滾るぜ。


 っていうか、タンスから異世界ってナニニア国物語だよ。


 でもまじめな話どうするかだな、これ。


 もちろん俺的には異世界に行って亜人種に会えるのなら行きたい。近しい親戚とか友人とかいないから、この世界に未練もない。あっちは危険かもしれないが、この世界だって地震やら火事やらが起こる可能性がないことじゃないし。


 あれ? いかない理由なくない? なくなくなくない?


 じゃあ早速準備だ!

 四十秒で支度しな!


 でもこういう場合何が必要なんだ?


 海外旅行にも行ったことないしな。とりあえず着替え? 食料? まさかパスポートはいらんだろう。


 まあとりあえず思いつくものはリュックに入れておいた。


 服装は……制服でいいか。ファンタジー小説もといノンフィクション作品の先達もほとんど制服だったような気がする。


 ま、細かいことはもういいか。


 さてそれでは紳士淑女の皆様、お待たせいたしました。


 タンスの中にレッツラゴー!(死語)

 


 「うわっ!」

 「きゃあ‼」


 あっぶねえ……。けっこう勢いつけて飛び込んだものだから急に向こう側に飛び出しちまったぜ。


 まあ、なんだかやわらかいものに受け止められたので怪我はない。よかったよかった。しかし俺の顔がそれに埋もれてしまって前が見えないのだが。


 それにしても何だこのやわらかいの? ん、おお、けっこういい匂いだな。


 俺はそのやわらかいものを手で触れて確認してみた。


 「あっ……!」


 うーん、なんだかこう、心が落ち着くなあ。この世のすべてのことがどうでもよくなってしまいそうだ。


 ただ触れるだけでは物足りないような気がしてきたので、掴んだりなでたりしてみた。


 「ちょっ……! やめっ……! んん……⁉」


 なんと! ただやわらかいだけではない。はりがあるのでしっかりとした手ごたえを感じる。ふわっふわでもっちもちだ。



  ちなみに顔はまだ上げていない。埋もれたままだ。


  なぜか?



  匂いを嗅いでいるからだ。ずっと嗅いでいたくなるような不思議な匂いだ。こいつはすごい。グレートですよ、こいつはぁ。


  くんくん、くんかくんか、ふんふん、ふんすふんす、はすはす。



  「くぅっ、息がっ……⁉ かかって……」



  しかしこれは触り心地といい、においといいなぜか母性を感じる。

暖かく優しい、母親の。母さんの。


 「へ……へ……!」


 ったく、さっきから誰だか知らねえけどうるせえなあ。集中できないじゃないか。まったく何を考えているんだ。


 と思って顔を上げると。


 レースがあしらわれた水色の布地と、桃色がかった肌と、こぶしが見えた。って、こぶし?


 「変態‼」

 「ひでぶっ!」


 俺の顔面にこぶしのようなこぶしがめり込んだ。ってかこぶしだった。グーパンですね。


 そんな世紀末のような悲鳴を上げて俺の意識は薄れていった……。

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