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アゲハの開拓街  作者: 天界
第1章 長いお散歩編
9/25

009 防御、トラウマ、そして荒療治




 スキル辞典と睨めっこを続ける事数時間。

 結論として、『魔力障壁』を取得した。


 この『魔力障壁』、なんと前提条件となるスキルが2つもあるなかなか条件が厳しいスキルだ。

 『魔力制御』と『硬化』の2つを取得していないとスキル辞典に載ってくれさえしない。

 スキルを色々組み替えてなんとか見つけ出したのがこの『魔力障壁』なのだ。


 効果のほどはというと――

 注ぐ魔力の量に応じて持続時間と耐久力が決まる透明な壁が作れる、という仕様。

 時間経過で耐久力も減っていく感じなので持続時間と耐久力が直結しているのだ。


 ちなみにLv1ではざっくりとした形でしか『魔力障壁』を展開できない。

 LVを上げていくと展開できる形や距離、注ぐ魔力での持続時間と耐久力も効率がよくなるみたいだ。


 ボクのお城パートツーの中で一通りためしてみたけれど、魔力が続く限り障壁を展開できる数は無限っぽい。

 魔力チートのボクとしてはなかなかいい感じだ。

 でももちろんデメリットも色々ある。

 『魔力障壁』をボクを包むように球状に展開すると外からの攻撃をシャットアウトするのは当然として、中から外へのものもシャットアウトしてしまう。

 ただ空気とかは問題ないみたい。息苦しくなったりすることもなかった。



 Lv1ではざっくりとしか展開できないので魔法を今までみたいに体の近く――手の先から出す感じ――で使うと『魔力障壁』の内側に当たって耐久力を減らしてしまうのだ。

 この辺は『魔力障壁』の外から打ち出すようにすれば問題ないが、最初のうちは意識してやらないと内側にあてそうだ。

 Lvを上げればいいんだろうけど、生憎そんなにスキルポイントはない。

 他にも取得しておきたいスキルがいっぱいあるからね。


 一先ずは防御面は『魔力障壁』でなんとかなりそうだ。

 これを外では常に展開し、不意打ち対策とする。

 まぁ不意打ちだけじゃなくてそのまま通常防御にも使えるけどね。


 もちろんファンタジー生物達に対してどの程度耐えられるかも実験するつもりだ。

 ちなみにボクの魔力総量の約3割――通常展開するならこれくらいにするつもり――を注いで作った球形状の『魔力障壁』に風の刃を当てて耐久力のテストもしてみた。


 さらにログで『魔力障壁』にどの程度のダメージが入ったか確認できるようなので、耐久力を数値として知ることも出来た。

 ボクの普段使いの風の刃は1枚で約3700程度のダメージを与えられる。

 3割程度の魔力を注いだ『魔力障壁』ではなんと18枚まで耐え切ってくれた。

 19枚目で硝子が砕けるような音がして『魔力障壁』が虚空へ消えていったので、約7万ダメージくらいなら耐えられるみたいだ。


 そしてログにはボクを攻撃したヤツの情報も少しだけど残っていた。

 名前は『Unknown』となっていたけど、受けたダメージ量はなんとたったの『218』。

 218のダメージでボクは死に掛けたのだ。


 ……ボクのHPってどのくらいなんだろうね。ちょっと知りたいような知りたくないような……。


 そんなわけであの攻撃ならボクの『魔力障壁』なら300回以上耐え切れるという事になる。


 あ、ちなみに持続時間は約5時間だ。すごいよね。

 1度展開すれば減った分の魔力は持続時間終了前までには余裕で回収できる。


 でもおかげでスキルポイントの余裕がまったくなくなってしまった。

 いやそれどころか『耐性:精神』が取得できなくなってしまったくらいだ。


 ……でも命には代えられない。


 もうちょっと頑張ればきっとベースレベルも上がるのでそれでなんとかやりくりできるだろう。

 もうしばらくここを拠点にすることになりそうだけど、別に全然急いでないからね。

 なんといっても絹糸が手に入っているというのが大きい。

 着替えというのはとても心地よい余裕を生み出してくれるのだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 死に掛けると言う手痛い授業料を払って、『魔力障壁』という強固な盾を手に入れた翌日。

 ボクはお城にあけた入り口から出るのを躊躇している。


 ボクのお城パートツーはとても安全なのはわかっていたし、さらに6割くらいの魔力を注いで持続時間を10時間にも伸ばした『魔力障壁』で覆っておいたので安全度は桁違いに跳ね上がっている。

 でも外は違う。


 堀の上に架けてある土の橋に向かって1歩を踏み出そうとすると、どうしても心の底から震えが来るのだ。

 1歩を踏み出そうとして戻り、踏み出そうとして戻りをもう30分くらい繰り返している。


 ……やばい。このままでは外に出れない。


 理性では外でレベル上げをしなければいけないことはわかっているのだが、心の奥底に刻まれてしまったトラウマが完全に拒否してくる。

 無理やりに1歩を踏み出そうとすると吐き気がこみ上げてくるのだからこれはもう完全にトラウマで間違いないだろう。


「……吐き気?」


 ……そうか。もしかしてこれもアレが効くかもしれない。

 でもアレを取得するにはどれか取得しているスキルを解除してスキルポイントの空きを作らないといけない。


 現在の総スキルポイントは19。

 取得しているスキルは『体力強化』Lv1、『身体能力強化』Lv2、『魔法:風』Lv1、『魔力強化』Lv1、『魔法イメージ強化』Lv1、『魔力制御』Lv1、『硬化』Lv1、『魔力障壁』Lv1。

 この中で解除しても問題ないのは『魔法イメージ強化』Lv1しかない。

 他は必須といえるスキルだし……。


 でもなんとも都合がいいことに残りスキルポイントは1で『魔法イメージ強化』Lv1を解除すると戻ってくるスキルポイントは2。

 つまりはアレ――『耐性:精神』がLv1でなら取得できるのだ。


 魔法を使うときに若干魔力消費が多くなって発動までの時間が延びるけれど、致命的と言うほどでもない。

 むしろ解体とかするときまず1番最初に解除対象となっていたのは『魔法イメージ強化』だったのだから問題ない。

 まぁ解体には魔法いらないから、という理由もあるけれどね。


 そんなわけで『魔法イメージ強化』Lv1を解除し、『耐性:精神』Lv1を取得して1歩を踏み出してみた。

 心の底から来る震えが若干マシになって、吐き気も起こらなくなった。


 ……でも涙がにじみ出てくる。手足もぶるぶる震える。


「れ、ひっく……レベルたりなひ……うぅ……」


 ビクビクおどおどしながらも、なんとか外に出れるようになったわけだけど……これなんて拷問ですかね?

 このままではレベル上げなんてとてもできない。

 小動物みたいに周りをきょろきょろ警戒しながら土の橋を渡り、そして……やっぱり引き返した。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 あれからもやっぱり行ったり来たりを繰り返している。

 もう一体どのくらいの時間そうしているのかわからない。でも少しずつ、ほんの少しずつではあるがマシになってきているのではないだろうか。


 その証拠に手足の震えがほんのちょっとマシに……いやだめ無理かえるぅ!


 ……そんな感じに何度も何度も土の橋を渡っては、こみ上げてくる涙と震えに我慢できずに戻っている。

 がっくりと重い溜息を吐いて項垂れるが、これをどうにかしないことには始まらない。

 ずっとここに留まり続けることはできなくはないけれど、それは正直どうなのだろうと思うし。


 未だにこの世界の人に1人として会っていない。会うのはファンタジー生物ばかりだ。

 いつの間にか連れて来られたとはいえ、せっかくの異世界。楽しまなければ嘘だろう。だからこんなところで躓いてはいられない……いられないのだ。


 そうやって勇気を振り絞って何度目かになるかわからない回数、土の橋を渡ったときのことだった。


 トラウマの原因であるあの羽音が突然聞こえ、腰を抜かして動けなくなったところに『魔力障壁』に何かが激突した。

 咄嗟に何も出来ずに頭を抱えて縮こまっていたボクだったけれど、いつまで経っても痛くない事に不思議に思って目を開けると……そこには見たこともないファンタジー生物が落ちていた(・・・・・)


 地面に落ちたファンタジー生物と自分が無事であったこと、そこに大きな……とても大きな前進を見た気がする。


 ――その確たる証拠にあれほど震えていた手足の震えが止まり、溢れ出そうとしていた涙も止まっていたのだ。


 震えや涙が止まっていた事も重要だけど、目の前のファンタジー生物をどうにかするのも非常に大事だ。

 すぐに風の刃で地面に落ちたファンタジー生物を真っ二つにしようとして『魔力障壁』に当てるというハプニングを挟んで、次は気をつけて風の刃で切り裂いて止めを差しておいた。

 さっきまで滑稽なくらい怯えていたボクが嘘かと思えるくらいに落ち着いている。


 真っ二つになったファンタジー生物が今はもう脅威でもなんでもないという事実だけが真実で、その真実がボクのトラウマをどこかに蹴り飛ばしてしまったようだ。

 ……これも一種の荒療治だろうか。


「……これは……顎……蜂……?」


 というわけでUnknownに名称が設定されました。

 ボクにトラウマを植えつけた正体は顎が異常に発達している蜂だった。

 大きさは30センチメートルくらいと蜂にしてはすごく大きい。

 顎の大きさは全体の3割にも達するほどで、代わりに針があるお尻部分がずいぶん小さくなっている。


 念のため『耐性:精神』を解除してみたところ、特に問題もなかった。

 本当にトラウマを克服してしまったらしい。いやトラウマだったのかも定かではないかもしれない。

 ただ単に怖かっただけかもしれない。


 とにかくこれでレベル上げはできそうだ。


 倒した顎蜂は虫だからか、死骸でも大して気にならない。

 でも一応『耐性:精神』Lv1をもう1度取得してから『解体』Lv1を取得して、解体してみた。


 獲れたのは大きな顎の部分と小さな複眼だけだった。

 顎の部分はとても硬そうだし、歯の部分は鋭い。1匹分では大した量ではないので武器も防具も作れなさそうだけど、生産系スキルを使えば多少劣化しても1つにできるだろうから用途も広がるかな?

 複眼はよくわからない。何に使うんだろう?

 でも『解体』が自動で選別して切り出したんだから何かしらに使える物なんだろう。磨り潰して薬とか?


 素材をボクのお城パートツーに運んで、やっとレベル上げ再開だ。


 ……と意気込んだ瞬間に自己主張を始めるボクの可愛いお腹の虫。


「……まずは10秒チャージかなぁ」


 絞まらないけれどこれがボクなんだから仕方ないよね。


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