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アゲハの開拓街  作者: 天界
小さな弟子編
22/25

022 ギルドマスター



「まずはソラさんのこれからの方針としては、色々見て回りたいということでいいか?」

「そうですねぇ、ボクとしては迷宮にも興味あります。

 もちろん色々珍しいものとかも興味ありますね。あ、美味しいものとかも食べたいです」


 ボクの力になってくれると明言してくれたこともあり、ボクからもしっかりと要望を伝える。

 遠慮する段階はもう終わったと思うのでここからはボクもガンガン行かせてもらおう。


「なるほど。ではひとまずは迷宮都市ラバドゥーンを拠点にするのがいいかと」

「迷宮都市っていうだけに迷宮は満たしてると思いますけど、他は?」


 迷宮都市ラバドゥーンについては当然ボクもHow to ミジェスギラで検索していてある程度は知っている。

 でも黎明の雷はラバドゥーンに拠点を置いて活動しているのだ。生の声が大事だということは骨身にしみてわかっている。


「ラバドゥーンには様々な迷宮があるために冒険者達が集まり、冒険者が持ち帰る魔物の素材や迷宮で採れるたくさんの資源を求めて商人が集まる。

 人が集まるところにはたくさんの物が集まり、物が集まるところにはさらに人が集まる。

 ラバドゥーンの西には港街ローゼンガイリ。

 東には鉱山都市ガナッシュレイズ。

 さらには北に王都リトリスと、3方への交通の要所ともなっているところなんだ。

 迷宮だけではなく、交通の要所となっているのもあって各方面から様々なものがたくさん集まってくる。

 リトリス王国内のものだけではなく、周辺諸国の珍しいものだって集まってくるところなんだ。

 ぶっちゃけて言ってしまえば王都よりも活気がある。

 珍しいものや美味しいものが食べたいソラさんには最適だと思うぞ?」


 交通の要所だということは知っていた。

 でもまさか王都よりも活気があるとまでは知らなかった。やっぱり生の声って大事だ。


「なるほど。確かにボクの希望と合致しますね」

「あぁ、だが人が集まるということはどうしてもソラさんには避けて通れないものもある」

「――トラブルですね」

「その通りだ」


 にこやかにラバドゥーンのことを語っていたミラーさんの表情が一気に真剣味を帯びる。


「ソラさんの光魔法の腕前はラバドゥーンの治療院でもトップレベルなのは間違いない。

 むしろ治療院のお歴々すらも凌駕している可能性の方が高いかもしれないほどだ。

 アッドのあれほどの怪我をほんの短時間で完治させてしまうほどの技量。

 多くの村人をほとんど休憩もなしに治療してしまえる魔力量。

 この2つだけでもほんの少し魔法に明るいものであれば十分以上に理解できる」


 確認の意味も込めてわざわざ説明してくれているミラーさんに無言で先を促すと、突き出るような人間とは少し違う口が開き続きが紡がれる。


「最低限の治療費の請求という王国法が存在しているように、光魔法使いは他の魔法使いと比べて優遇されている。

 他の魔法では怪我や病気が治せないのだから当然ではあるのだがな。

 ぶっちゃけてしまえば光魔法は希少であり、()になる」


 『魔法:光』は金の成る木。

 お金の大事さはボクもよくわかる。そして危うさも。


「例え未熟なLvでさえ、光魔法が使えるというだけで治療院で高い収入を得ることができるし、冒険者としても引っ張りだこだ。

 貴族や王族のお抱えになるにはソレ相応に使えるようにならなければならないが、それだって未熟じゃない程度であれば高待遇間違いなしだ。

 ましてやソラさんほどの使い手となれば……」

「引き込むのに手段を選ばないようになるってことですね」


 それまでまっすぐにボクを見て話していたミラーさんが視線を逸らして言葉を濁した。

 でもボクはまっすぐに彼を見てなんでもないように濁された言葉を口にする。


 ボクの見た目は可憐で儚い美少女だ。

 中身はそんなものでは決してないけれど、まだまだ付き合いの短い彼にはそんなことはわからない。

 まぁ短いながらもこれまでの言動でこの程度のことでは怯まないことくらいはわかっているだろうけれどね。

 これは彼の優しさだ。ほんと、黎明の雷の人は良い人ばっかりだなぁ。


「……あぁ。

 実際にやつらは手段を選ばない。

 自分達の思い通りにならなければどんな手段にでも訴えるだろう。

 それは貴族や王族に限ったことじゃない。力のないやつは蹂躙されるだけだ」


 視線を逸らしたままのミラーさんが悔しそうに吐き捨てる。

 残りの3人も皆同じように悔しそうな表情を浮かべている。

 彼らも何かしらの被害を受けたことがあるのだろう。だからこそ恩があるボクがそんなやつらの餌食になるのは絶対に阻止したいのだろうね。


「気づいていると思うが、オレ達も被害を受けたことがあるんだ。

 今後ラバドゥーンを拠点にするしないはともかく、ソラさんにとって逃れることが難しいことであるのはわかってもらえたと思う」

「そうですね……」

「だが安心してほしい。

 今のオレ達がいるのも助けてくれた人がいるからなんだ。

 おそらく……いや、確実にその人はソラさんも助けてくれる」

「たぶん俺達よりもずっと優遇してくれると思うぜ?」


 逸らしていた視線が戻り、そこには力強い光を宿した瞳がボクをまっすぐに見据えている。

 よほどその人のことを信頼しているのだろう。事実助けられて今の彼らがいるように、確固たる信頼が黎明の雷からは感じられる。


「アッドのいうとおりだ。

 ソラさんほどの人物ならオレ達よりも確実に優遇してもらえる。

 どうだろうか、ソラさんのことを紹介させてもらえないだろうか?」


 ニルギル村で黎明の雷に会わなければ知らずにそのままラバドゥーンまで行って、事前準備もなしに色々とトラブルに巻き込まれただろうことは想像に容易い。


 ……異世界物小説の主人公なら当然かもしれないけれど、残念ながらボクは願い下げだ。


 それを思えば実際に助けられている彼らの言葉は前向きな1つの要素として捉えられる。

 黎明の雷の良い人っぷりはもう十分見せてもらっているし、彼らがボクを嵌めるというのは考え難い。


「わかりました。

 それで、その人はどういった人なんでしょう?」

「ありがとう、ソラさん。

 紹介する人物は――リトリス王国最大規模の冒険者ギルド、ラバドゥーン支部のギルドマスターだ」







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 冒険者ギルド。

 その名の通りに冒険者の互助組織だ。

 主な仕事は冒険者への仕事の斡旋、仲介。

 個人から国単位まで、様々な依頼が冒険者ギルドに集まり、冒険者へと斡旋、仲介される。


 よくある異世界物小説では国を跨いだ独立した強力な組織とされているが、この世界――ミジェスギラでは少し違う。

 様々な国に存在して、ある程度連携してはいるが、その組織力はまちまちだ。

 場所場所により力が大きく違い、迷宮都市ラバドゥーンという冒険者が人口の大半を占める場所ではとてつもない権力をもっている。


 迷宮都市ラバドゥーンは様々な迷宮が集まる特異な場所でもあり、王直轄領となっているが王自体は王都があるようにラバドゥーンにいるわけではなく、代理の領主が置かれている。

 しかし代理とはいえ、王都を凌ぐほどの活気と経済力をもつ街なのでその権力は他の貴族の追随を許さないレベルにある。

 そんなその他の貴族とは一線を画す領主と冒険者ギルドラバドゥーン支部のギルドマスターは同等(・・)とされているほどの権力を有しているそうだ。


 一介のギルドマスター風情が貴族の頂点と言ってもおかしくないほどの人物と同等の権力を有しているという事実は、リトリス王国及び周辺各国を見てもラバドゥーンでしか見られない珍しい例だ。


 ギルドマスターがボクの後ろ盾となった場合は、この権力に物を言わせて治療院、貴族王族からの強引な勧誘から守ってもらえる。

 冒険者からも勧誘はあるだろうが、そこは冒険者ギルドの長の特権を使えば簡単だ。

 何せギルドマスターなのだからね。

 これで降りかかってくるだろうトラブルの大半は問題なくなってしまうだろう。

 残りは権力ではどうにもならない類のものだけれど、その辺は冒険者という武力を動かせるギルドマスター。なんとかなると思われる。


 そんなギルドマスターの人物評は、一言で言うと狸爺。

 決して清廉潔白な人物ではないが、悪人というわけでもなく冒険者ギルドと迷宮都市ラバドゥーンを真に愛する人物である。


 それ故に見所のある人物には便宜を図り優遇する。

 黎明の雷がそうであるように。


 ボクの『魔法:光』の腕前は彼のギルドマスターに最大級の便宜を図らせるには十分であるとミラーさん達からお墨付きをいただくほどだ。

 彼らからギルドマスターの話を詳しく聞いた上で、ボクはギルドマスターに会うことを決めている。


 まだ会うことを決めただけなので、ギルドマスターの庇護に入るかどうかは実際に会って話してみなければ決められない。

 そのことについては黎明の雷の皆も納得してくれている。


 もしギルドマスターに後ろ盾を断られたり――まず有り得ないだろうとは言われたけど――、ボクの方から断ることになっても彼らはボクに力を貸し続けてくれるそうだ。


 冒険者ギルドについても黎明の雷から色々聞いてみたけれど彼らも無茶振りされたりしたことはないし、それどころかメリットばかりだったようにも思える。

 まぁ冒険者である彼らはしっかりと依頼をこなし、ギルドマスターに目をかけられるだけの実力があると証明しているのでそう思えるのかもしれないけれど。


「そんなに心配しないでも大丈夫よ。

 ギルドマスターは確かに狸爺だけど、良い人だから」

「そうだぜ、ソラさん。あの爺はたまにむかつくけど基本的には善人だ」

「そうね……たまに隙を見せるとお尻を触られるのは問題だけど良い人よ」

「アージェもやられたの? 私もよ……」

「えぇ……ティニーもなの?」

「「「まったくあのスケベ爺は……」」」


 黎明の雷の残りのメンバー――宴のために討伐依頼で倒したオークの肉を取りに行っていた――が戻ってきてギルドマスターについて聞いていたら……こんな話も出てきていた。


 ……今のボクは美少女だし、気をつけなければ……。



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