第八話。革命的ソウル。
革命というのはいつだって犠牲を産む。
それは敵にも味方にもだ。
そう言う意味で勝海舟は凄い。
結局、西南戦争は起きてしまったのだけれども。
今グラシリスが存在する時代において最も革新的な生き物は恐らく、『哺乳類』だろう。
爬虫類の未熟児から進化したという小賢しさと活発さ、臆病さが売りの新進気鋭の生物群である。
まずは燃費が悪い代わりに気温の変化を受けにくい恒温性。
認知できる色彩の幅は狭く視野も狭いがその分遠近感に優れた眼。
本能による供え付きの能力は低い代わりに其れなりに高い学習能力。
生体的な下位位置に存在することにより自分より弱いものを敏感に見つける嗅覚。
親が仔を育てるのが一般的であるがゆえに弱い世代では守られ、
いざ活動するとなるころにはそこそこ成長しているという利点。
そして筋力こそ低いものの骨格の数や筋肉の分化によるサイズスケールにおける高めのスピードと瞬発力。
そう、そのスピードこそが、速さこそが、
何よりも、そう情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さよりも高い哺乳類生物のメリットなのである。
…まぁ結局その速ささえもその後に出てきた翼を持つもの、鳥類には敵わなかったが。
そんな褒められているようで散々けなされている哺乳類ではあるが、
まぁ身動きに不自由する昆虫の蛹や幼虫よりは強いものもいるのだ。
幼虫の中にもヤゴのモンスターのように強いものもいるし、
幼虫にすら勝てない脆弱な哺乳類も多い。
実際古代期のトンボ系モンスターで有名なクロノウラの『暴食の王』ミダスなどはヤゴの頃から水中で猛威を振るっていたようだ。
其れに敗れたカワウソのようなモンスターの成体など数えるのも面倒くさいほどいたという。
しかしそれは特殊な例だ。
ミダスは最終的に『大罪の魔王』にまで上り詰めた個体であるし、
ヤゴは普通に戦える幼虫だ。
グラシリスはアクアワスプという寄生型の幼虫だ。
単純な戦闘力はそう高くない。
そんなグラシリスを狙っていたカワウソのようなモンスターがいた。カストーロカウーダだ。
哺乳類にしては眼光の鋭いモンスターで爬虫類から派生しつつも爬虫類があまり重視しなかったニッチをかなり追求したモンスターだ。
臆病者が多い哺乳類にしては割と好戦的な種である。
虐げられる側の哺乳類が虐げる側の昆虫に立ち向かったこと自体は称賛に値するが、
相手はまだ幼虫だ。イジメ、カッコ悪い。
だがそんなことはカストーロカウーダもグラシリスも考えてはいなかった。
「じぶんでもかてるあいてをねらう。なるほど、あんぜんにいきのこるためにはゆうこうなかんがえです。
それをわたしはぶじょくともくつじょくともとりません。よわいわたしとそれをねらうしかないあなた。
えぇ、りそうてきなしょくもつれんさかいぐんのありかたですね。」
にじりよるカストロカウーダからゆっくりと後ろに下がることで距離をとるグラシリス。
後方はまだ開けており息詰まる心配はなさそうだ。
しかし前方に泳ぐカストロカウーダと水底を後ろに下がるグラシリスではその速度に差が発生し、
その距離は徐々に縮められていった。
そしてカストーロカウーダの間合いにグラシリスが入った時、
カストロカウーダは飛び掛かった。
グラシリスをカストーロカウーダの顎が捕える寸前の事だった。
グラシリスの後ろから伸びるリボンのような尾が『部位延長』によってさらに伸び、
『硬化』されその先が『刃化』。カストーロカウーダの眉間に突き刺さった。
「きせいちゅうってなんで『きせい』ちゅうっていわれるかしってます?」
グラシリスはその刃の先から微弱な毒素と共に、寄生による被支配因子を混入させる。
カストーロカウーダの眼は次第に濁りグラシリスを移さなくなっていった。
例えどんな未来をカストーロカウーダが描いていても、
もう助からない、そんなものだとよぎった時夢は力を失くしてしまう。
それを感じ取ったグラシリスは――――
「あたらしい、きせいさきがみつかりました。」
そう言ってグラシリスがカストーロカウーダに入り込もうとした時であった。
カストーロカウーダの眼が再び景色を移し始めたのだ。
今までに散ったカストーロカウーダ達の英霊が力を貸したのか、
それとも彼自身の魂が再び燃焼し始めたのかはわからない。
その兆候を冷静な観察により発見したグラシリスは、
カストーロカウーダの意識が完全に戻る前に嗤いながらその場を去った。
グラシリスが嘲ったのがなんだったのかは彼女にしかわからない。




