第二十話。出オチな私。
スペルヴィアの前に現れたその虫は、
空気だけでなく水の中でも活動できる強靭かつしなやかな淡い水色の翅、
蜂族の中でもワスプ系によく見られる寄生の為の細長い尾。
そして何よりも蜂族でありながら慢心とは無縁そうな表情を浮かべる自称庶民的な王族種は、
彼女のよく知る虫であった。
「しりす…さん。」
水をスプレー状に吹きかけ目晦ましをかけたところで、
厭らしくも先程ギガースラプトルにつけた傷を抉るように更に翅で肉を刻み込むグラシリス。
そんなグラシリスがスペルヴィア達に返した一言は、
「ちょっとファデータさん達、ぼーっとしてないで助けて下さい。
助けに来たのに私だけで戦えとかあんまりな仕打ちです。」
ファデータとスペルヴィアが知る通りというか、
成虫になっても彼女らが知るグラシリスと何ら変わりがない今迄通りと言えばあまりにも今迄通りな返事に、
ファデータは思わず呆け、スペルヴィアは苦笑していた。
「いや、笑ってる場合じゃないですから。そんなことより早く助けて下さい。」
そんな必死なグラシリスにようやくファデータが参戦を決める。
スペルヴィアは成虫のオス蜂に護られながら観戦を決めた。
「ふふっ、相変わらずね。」
アラバスタ―ヴェスパ 王族種・成虫 RANK A+++
個体名 ファデータ
アラバスタ―ヴェスパ。
それは非常にに特殊な条件下で発生する土属性を兼ね備えたヴェスパ。
その姿は蜂族においてもなお美しく現存する蜂族の種では一握りにも相当する。
雪花石膏とも呼ばれるその肌質は衝撃には弱く崩れやすいがすぐに再生する。
また、火や電気などの特殊攻撃には非常に強い特殊体である。
新たに戦闘に紛れ込んだファデータを最大の障害と判断したギガースラプトルはその障害を打ち砕かんと、
爪を振り上げて突貫した。
それを見たファデータは薄く嗤い、
地に降り立ったままで翅を激しく地面を打ちつけた。
その翅は全て砕け、砕けた翅の破片が薄く地面を覆う。
そして砕けたと同時に再び生え変わった翅を再び打ち付けて砕き、
それを幾度か繰り返した時、完全に周囲一帯は白に包まれた光景に変化した。
木々が、岩が、地面が、そしてギガースラプトルの表面が白く染まった。
ギガースラプトルは動こうとするがうまく体が動かない。
周囲の石膏が再び結合して硬化しているのだ。
「GYAAAAASSSUU!!!!!」
特に脚などは地団太を踏むたびに地面の石膏が付着して、
本来強じんであるはずのその脚力でさえも機能しないほどに石化していく。
通常の石膏だけであればその中身まで石化することはない。
表面に付き、全身ギプスと化した石膏が砕けることもあったかもしれない。
しかしアラバスタ―ヴェスパの『毒』は付着したものの細胞さえも『石膏のようななにか』へと変える。
「GYA…SU……。」
やがて完全に彫刻と化したギガースラプトルに対し、
「同じ石化とはいえ、私は砕けても大丈夫ですが、あなたはどうでしょうね?
それでは、さようなら―――――――――あっ、いけませんわね。
そういえばこれってルヴィアの遠足でしたね。
ルヴィア、というわけでやってしまって?」
「……あっ、はい。」
文字通り強く叩けば砕けてしまいそうな姉の意外にも強い戦闘力に当初ボーっとしていたが、
姉の声で正気に戻り、
完全に固まった石膏と化した大地を這いながらギガースラプトルの脚元に来たスペルヴィアは、
なんどもギガースラプトルの脚に体当たりする。
死の一部が欠け始めたあたりからスペルヴィアがぶつかるたびに揺れ始めたギガースラプトルは、
遂に倒れ、バラバラになった。
その中身まではまだ石化していなかったようで、肉は砕け散った石と化したが、
内臓は生のままで飛び散った。
因みにこれが今回のスペルヴィアの遠足の『成果』となるが、
本虫が納得しなかったため、後日遠足をやり直し、一匹でキノドンを狩ったスペルヴィアはご満悦で獲物を見せびらかした後、
疲れたのか睡魔が襲ってきた後そのまま蛹になった。
ちなみに、ファデータの戦闘力を目のあたりにしたグラシリスは思った。
アレ?私、要らなかったんじゃないでしょうか?




