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機甲猟竜DF  作者: 結日時生
第三話「〝いただきます〟の意味」
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第三話「〝いただきます〟の意味」〈1〉

 マイクロ波フィールドの使用により希人の暮らす町は死の町と化した。


 残された無惨な光景に言葉を失う希人。

 告げられる、《DFの正体》と自分が助けた恐竜が産み出された理由。


 事態は彼に選択を迫っていた。

 そして希人は人造恐竜・アルバートサウルスの親になる道を選ぶ……

 目の前に広がる澄み渡る青空。背中に感じる地面と芝生の感触。


「よくやったレモン! よーし、もういっちょう走るか!」

 人造恐竜のブリーダー・木野修大が、彼の受持ちである肉食恐竜・カルノタウルスの幼体を呼ぶ声が聞こえる。明るく爽やかな彼の人柄は声にまで出ている様で、空高く響いている様にさえ感じられた。

 頭部の上顎部と腰から尾の先までを染める鮮やかなイエローの体色から、『レモン』と名づけらたカルノタウルス。まだ柴犬程の大きさではあるが、エネルギッシュに動き回り、修大の後を追いかけていく。


「なに? お前も走りたいって? スマン……ちょっと俺の体力はもう限界だ。悪いな、サラ」

「グウゥウン……」

 地面に仰向けになりながら希人は、自分の受持ちであるアルバートアサウルスに話しかける。

 紅白の更紗模様から『サラ』と名づけられたその仔恐竜は、不満と退屈、そして寂しさが入り混じったような視線を希人に向けていた。


 パンゲア基地・休憩室。

 東京湾に浮かぶ人工島の浸水部には、内部から海の中を観察できる窓のついた休憩室がある。そこで希人は一人昼食を取っていた。

 昼の休憩時間。多くの職員は食堂で仲間たちと食事をしている。

 しかし生憎希人には、食卓を共にする「友人」や「親しい同僚」という相手がいない。同じ部署の修大は同僚ではある。ただ彼は既に他の職員たちと親交があるようだし、なにより希人は彼のことがあまり好きではない。


「はぁ……」

 溜息交じりにサンドイッチを口に含む。馴染めない食堂の空気の中で食べるよりはマシだと考えこの場を選んだのだが、何もない静けさが彼の心を抉る。

 希人は今、自分とほぼ同時期に入隊した修大のことを考えていた。

 実際、なんとなく反りが合わないとは言え、恐竜に対するトレーニング技術に関しては修大の方が希人のはるか上を行く。

 加えて彼は、恐竜たちを扱う上で必要不可欠な持久力も具えている。また他の職員たちともすぐに打ち解ける明るさや社交性も持ち合わせていた。

 

 いち早く実戦に投入できる様、凄まじいスピードで成長を遂げる人造恐竜。

 裏を返すとそれは、邪竜と戦う為の教育を限られた時間内で行わなければならず、希人がトレーナーとしての技術を向上させるまでの時間を待ってはくれない事を意味していた。

 現に希人が取り出した時は人間のゼロ歳児ほどの大きさだったサラも、たった2週間弱の間に中型犬ほどの大きさまで成長していた。もう既に体力的には希人を上回っているだろう。

 このままでは修大に差をつけられるばかりか、自分の職務を全うできるのかどうかも不安だ。



 そんな劣等感と焦燥に苛まれながら、彼はぼんやりと窓を眺めていた。

 鮮やかなアクアブルーをバックに、ウェットスーツ姿の女性が手を振っている。水中メガネとシュノーケルに覆われていて顔立ちや表情は見えないが、どこか楽しげな雰囲気だ。

 希人も手を振り返すと、彼女の背後から迫る別の影が目に入った。


 鋭く光る二つの眼光。

 イルカやシャチをも凌ぐ巨体。

 そして口の中にびっしりと生えた鋭い牙。


 海蛇のような細長い体をくねらせ、女性に猛スピードで近づく。

 「危ない!」と希人が叫ぼうとした次の瞬間、




 その巨体はワニの様な頭部の吻端を彼女にしきりに摺り寄せていた。

 甘えるような素振りを見せる海トカゲを優しく撫でると、彼女は片手を上げる。それは希人へ「上に上がるよう」促がすサインだ。

 指示に従い、希人は水上部へ上がる。周囲を人工島の陸地で囲われいる海は、まるでプールの様だ。

 そのプールサイドとも言える場所に出ると、水面から先ほどの女性が顔を上げた。水中メガネを外して現れたのは、明るい茶髪をした妙齢の女性だ。活発な雰囲気が漂う彼女は、イメージのままの快活な笑顔を向けて希人に話しかける。


「ぷっはー! ごめんねぇ、何だかびっくりさせちゃったみたいで。」

「いえ、大丈夫ですよ」

「……もしかして君、新しく来たブリーダーさん?」

「そうです。篭目希人と申します。宜しくお願いします」

「そっかぁ……じゃあ私の後輩君だね! 私は天貝夕海(あまがい ゆみ)って言います。よろしくね! そしてこっちは私の相棒のティラミス。種類はモササウルスっていう種類です」

 ――ブオオォォォォォオン♪

 象のような声で鳴いているのは、歓迎の合図なのだろう。

 クリーム色の地色とチョコレートブラウンの背部からつけられた〝ティラミス〟という名前。愛らしい名前に似つかわしくない凶悪そうな面構えだが、人懐っこそうな仕草のおかげで愛らしく見えるから不思議である。


「……ところで、なんであんな所で食べてたの?」

「あっ……いやぁ海見ながら食べるのが好きで! たまには水中から見るのもいいかなぁって……だからあそこで食べてました!」

「ふぅん、そうなんだ。確かに海の青って綺麗だよね! でもここの食堂結構美味しいんだよ。もう食べに行った? もしもまだだったら今度一緒に行こうね!」

 〝たまには〟と言った希人に対し、もう食堂に行ったかどうかを尋ねるあたり、彼が一人で昼食を取っていた理由に関して夕海は察しているようだ。

 水に濡れたハニーブラウンの髪が海風に揺れる。柔らかな日差しを一身に受け、彼女は優しく微笑んだ。


「篭目くんさ、」

「なんでしょう?」

「結構大変だよね、恐竜の飼育員。私もだいぶ苦労したなぁ~って思ってね。まぁ色々大変だとは思うけど、恐竜が君を選んだ事にも意味があると私は思うし、今ここにいるって事は君がブリーダーに相応しい人間だからじゃないかな? だから慌てずにまず出来る事からしていけばいいと思うよ」

 夕海のかけた言葉は、希人の中にある不安をすべて見抜いているようだった。少し明るい顔で希人は夕海に礼を言うと、その場を後にした。



 東京都西部某所。夕闇に染まる山々を望む都市部は、平時なら帰りを急ぐ人々で賑わっていたのだろう。だが今、人の影はどこにも見当たらない。

 代わりに街を埋め尽くすのは、おびただしい数の黒い影。警戒に威嚇、そして敵意。様々な意思を秘めた声が、黒い影の群れから上げられている。

 この場に生きる全てのものに恐怖を植えつける、甲高い不気味な重奏が響き渡る。

「目標総数は飛翔型の亜成体が五体に、幼体が約三十と言ったところか……数は多いが雑魚ばかりだな。テリジノ、お前の力で刈りきれ!」


 ――フォォオオン!!

 周囲に蔓延していた邪悪な重奏を打ち破ったのは、ひとつの気高い咆哮だった。

 巨大な雄牛が如く力強い唸りをあげ、恐竜は一歩踏み出す。DFを指揮する勇部亘の命令の元、長い鎌のようなカギ爪をもった恐竜は歩き出した。

 一歩一歩、邪竜の群れへ向けて踏み込む恐竜。濃紺の鎧を纏った恐竜の接近を察知し、邪竜たちも一様に動き出した。敵意と憎悪に満ちた咆哮が木霊し、大地を覆う闇はより一層深みを増して行く。


DFという兵器が邪竜に対して有効である理由。

 それは野生的で敏捷な動きが邪竜と渡り合う上で有効というのも大きな要因である。

 ……だが、DFが邪竜との戦闘に置いて最前線に配置される理由はそれだけではない。


 ――ギショオオオ!

 夏の夕方の蒸し返る空気。その空気を凍りつかせる様に呻く声と共に、夥しい邪竜の群れが『大鎌を持ったトカゲ(テリジノサウルス)』目掛けて突進してくる。

 まだ成体になっていないとは言え、それは狂暴な獣の大群である。亜成体など、翼を欠いている点と体の大きさ以外は成体と大差ない。発達途中の幼体にしても、大きさだけなら牛や豚くらいの大きさはある。

 低く唸り、テリジノへの敵意を露わする邪竜達。一際大きな雄叫びの後、一頭の亜成体がテリジノに飛び掛かる。

 青い体毛に覆われた首筋に迫る、邪竜の口腔。まさに今、その毒牙が到達しようとした瞬間――邪竜の首は切り落とされ、息の根を止めた。


 後に続く邪竜の群れも次々とテリジノに襲い掛かるが、傷一つつけられない。それどころか、無残に二枚下ろしにされた邪竜の亡骸が毎秒ごとに溜まっていく。迫りくる邪竜の群れをテリジノは無駄のない機械的な動きで次々と刈っていく。

 だが、無双を続けるテリジノサウルスも完璧ではないようだ。一瞬左側から近づく邪竜に対しての反応が遅れ、邪竜の牙がテリジノの首元に迫る。

 しかし目前に迫った邪竜の目は、テリジノサウルスの後方から伸びた光の針に貫かれた。悲鳴を上げ怯んだ邪竜の隙をテリジノは見逃さず、切りつける。

「何をしている!! 反応が鈍いぞ!」

 光の先では亘が、ビームニードル銃を構えていた。亘はテリジノサウルスに対して激を飛ばす。ただ戦況は未だテリジノの優位を保っている。

 多大な犠牲を出しながらも、邪竜はテリジノサウルスへの進軍を止めない。



 ――それが邪竜との戦闘にDFが駆り出される最大の理由である。

 邪竜という生き物は同種間での絆が非常に強く、集団で協力して生活することも少なくない。

 反面、他種に対しては非常に好戦的で縄張り意識も強い。そのため、テリトリー内にDFが侵入すれば率先してこれを攻撃する。


 既存の機械的な兵器――特に戦闘機や戦車、ミサイル等の接近は、超動物的とも言える感覚で事前に察知し、姿を暗ましてしまう邪竜。

 その邪竜を戦場に引きずり出し、更には撃退する。DFは対邪竜の戦術において重要な位置に君臨していた。

「勇部隊長! こちらから援護します。ミリー、行って!」

 ――キュウウウ!

 ちかげの呼びかけにダチョウ竜・ガリミムスが応えた。

 大地を鮮血に染め、邪竜とDFの戦いは続いていく。辺りを照らしていた夕日も沈みかけ、空は黒く染まりはじめていた。



 ――パンゲア基地・幼竜ケージ前。

「木野くんさ、ちょっといい?」

「んっ? いいけど何だよ。改まってなんか用か?」

「いや、大した事じゃないんだけどさ……君の受け持ってるカルノタウルスいるだろ? その食餌記録や身体データを、サラの分を見る時についでに見せてもらったんだ」

「それで?」

 なにやら含みのある物言いをする希人。それは彼なりに衝突を避けるための処世術なのだが、修大にとってはかえって面白くないようだ。

 しかし修大の方も、それを露わにはしない。彼は彼で、『面倒臭そうな相手とはなるべく関わらない』というスタンスがあったからだ。


「あぁいやね……君のカルノタウルス、ちょっとやせ気味かなって思ってさ。体長は同時期の平均サイズを上回っているのに対し、体重は平均のそれより大分軽いんだ」

「まぁ確かに……」

「それで少し気になって……海外を含むこれまでの人造肉食恐竜の育成記録や資料の中から使えそうなものをここに纏めておいた。だから目を通しておいてくれないかな」

「おぉ……ありがとな。まぁ時間あったら見ておくよ。適当に置いておいてくれ」

 差し出されたファイルとCD‐Rを、修大は礼を言いつつ受け取った。

 だが、その言葉尻は希人の癪に障ったようであ。

「〝時間があったら〟ねぇ……。こうしている間にも恐竜たちは常に成長してるからなぁ」

「……何が言いてぇんだよ」

 僅かに修大の気持ちが昂る。しかし今日の希人は、その事を気にも留めない。寧ろその昂りを受け、彼自身も本音を吐露してしまうまでだ。

「成長期の両生類や爬虫類って、栄養状態や環境に関して結構シビアなんだよね。例えば爬虫類が健康な骨格を形成する為には、充分な日光浴が必要になる。そして日光浴を効果的なものにする為には、充分な栄養素が必要になる訳なんだけど……その辺りの事、考えてる?」


 そこにはこれまでに多くの爬虫両生類を扱ってきた、希人なりのプライドがあった。

 成長期の爬虫類や両生類というのはその成長の為に多様な栄養素や適切な環境を必要とし、それらが不足していた場合、深刻な事態を引き起こすことも珍しくない。


 硬いはずの甲羅がふやけたように柔らかくなったカメ。強靭であるはずの後ろ足を引きずりながら歩くカエル。脱皮不全により体の一部が壊死してしまったヘビ。


 今は希人の元で健康的な生活を送っているコーンスネークのマリアも、恐らくはその様な環境にいたのだろう。だから尻尾の先を失ってしまった。

 ましてや希人たちが今育てているのは愛玩動物などではなく、邪竜を狩る使命を持った『猟竜』である。不健康に育ってしまった個体が、化け物じみた生命力を持つ怪物と戦っていける訳がない。


「そうだね……悪かったよ。だけど俺からも言わせもらっていいかな?」

「いいけど」

「篭目くんはさ……もうちょっと体力つけた方がいいんじゃないのかな? これからアイツらも大きくなれば、重労働も増えるだろ」

「……そうだね」

 痛いところを突かれてしまい、希人は一瞬言葉が出てこなかった。否定できない客観的事実。それが相手にとって不都合であれば、押し黙らせる事もできるだろう。

 不都合な事実を突き付けられ、怯んでしまった希人。そんな彼に、修大は畳みかける。

「正直俺もキツい時はあるんだよね。でもここでバテてちゃいけないって解っているから、俺も頑張れるわけさ。……それとさ、これは俺の方から思ってたんだけど、アルバートサウルスの方の訓練メニューってどうなってる? 今どれくらいの事ができるの?」

「一応、指示ポイントまでの移動や、基本動作の後退バック旋回ターン跳躍ジャンプくらいまでは理解できる様だけど」

「なんとか消化ノルマこなしてるってところだね……今の訓練内容でそれだと、今後ちょっとキツくなるんじゃないか?」

「…………」

 言葉に詰まる希人。黙り込んだ彼の様子を確認した上で、修大は続けて言葉を口にする。

 それは希人の感じている不安を浮き彫りにし、また彼が修大に対して抱いている劣等感を暴き出す。

「これからもっと大きくなって、俺らの手で抑え込む事なんてできなくなる。その時に、この指示は理解できる〝様だけど〟みたいな状態だとまずくないか?」

「確かに……」

「だからちゃんと訓練メニューに関しても考えてくれよな……」

 希人が爬虫類両生類の専門店で働いていた様に、修大もまた以前はドッグトレーナーとして勤務していた経験がある。

 その経験から、碌にしつけも出来ていない犬の危険性は解っていた。また危険な犬がどういった末路を辿るのかも、嫌というほど理解している。犬でそうなのだから、はるかに巨大で危険性の大きい恐竜の場合、もっとシビアだろうとも考えていた。

「そうだね……木野くんの言う通りだ。ありがとう善処するよ」

「あぁ、こっちもわざわざありがとう」


 形上互いに礼を言ってはいたが、彼らの表情はどこか曇っている。

 二人は互いに目を逸らし、それ以上言葉を交わそうとしなかった。


今回登場の夕海&ティラミス(モササウルス)ペアでレギュラーメンバーは出揃う形となります。これからの話に彼女たちがどう絡むのかもご注目ください!

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