<02> -転校生が厨二病すぎてやばい!!-
あの後は散々だった。俺と転校生は両者質問攻め。
「ねえねえ。ミーシャさん伊藤とはどういう関係?」
「おい伊藤。どうなってるんだよ」
こっちが聞きてーよ!!
「オサム様とは………将来を誓い合った仲でして―――」
「―――おいこら。話をややこしくするな!!」
「エスパー伊藤のくせに生意気だ!!」
黄色い声が聞こえるわ、罵声のようなものが聞えるわで散々だった。
「ちょっとこっち来い!!」
痺れを切らした俺は彼女の手を取って、罵声と黄色い声のする教室を後にしたのであった。
さすがにHRが終わっただけなので廊下には生徒が疎らにいて、静かなところなんて無かった。
ここでいいや。と廊下の端で止まった。逆になんか目立ってる気がするが、時間が無いからさっさと済ませよう。
「んで。お前何者だよ」
「わかりませんか?オサム様?」
そもそも彼女の姿が今、鞄に入ってるノートの設定と被っている。将来を誓ったとかは覚えてないが………。
「………」
「あ。二人っきりのときは『ヒョウガ』様とお呼びした方が―――」
「ちょ、ちょっと待て!!なんでその名前を!?」
そうだよ。なんでコイツ、俺の『真名』を知っているんだ!?
一番イタイ頃、中学時代ですらその名前は口にしたことはない。だって『真名』って奴は真実の名前って意味だ。本当に親しい者しか教えない決まりに―――そういう設定になってるはずだ。おい。そこの盗み聞きしてる女子!!「『ひょうが』って何?」って聞こえてるぞ!!
そもそもその真名を知ってる奴なんていないはずだ。それはノートに書いた俺の設定であって、ノートを見た奴しか知らない情報だ。まさか………こいつはノートを見たのか?いや、ありえない。強固の守りを持っているウチの乱度世流さんがこんな生娘程度に屈するはずがない。ですよね!!乱度世流さん!!
「ヒョウガ様もワタクシの事を真名でお呼びください。―――まさか、お忘れになったのでは………」
「………ベ、ベルダンディ」
「やっぱり覚えていらしたんですね」
なんで覚えてるんだよ俺。「知らん」とか言えばこの話は終わってるだろっ!!
なんかもう。
頭がイタイ。今度はなんか男の声で「伊藤の厨二病が再発した!!」「俺は知ってたぞ。あいつまた眼帯つけるようになってたしな」とか嬉しそうな声が聞えたぞ!!ついでに眼帯は蚊に刺されてだってっ!!
ああああああああああああああああああああああああ。
なんか頭が痒い!!むしろ掻きむしって死にたい!!恥ずかしくて死にたい!!いっそ誰か俺を殺して!!
「ヒョウガ様。ワタクシはヒョウガ様にお伝えすることがありまして、この地に参上致しました」
「伝えること?」
急にベルダン―――彼女の表情が真剣になった。
なんだろ。嫌な感じしかしない。
「ヒョウガ様。『ラグナロク』が近づいております!!」
ほら。ほら予想通り!!絶賛厨二病患者ですぜ、この子。さっきまでお祭りムードだった後ろの集団は「え………まさか許婚に『厨二プレイ』要求してんの?」「うわ。伊藤―――いや、ヒョウガ様まじ半端ねえ!!」「許婚に厨二プレイ要求するなんて、なんて奴だ!!」「伊藤の趣味に付き合ってるミーシャさん可愛そう………」とざわついている。
なにこの羞恥プレイ。いや………あのですね皆さん。どちらかというとプレイ要求されてるの俺だから。つか趣味ってなんだよ!!俺はもう厨二病完治してんだよ!!
いい加減キレちまったぜ………。と後ろの連中を追い回してもよかったのだが、予鈴のチャイムが鳴り出した。
ッチ。ゴングに救われたな馬鹿共。鳴ってなかったら俺の邪王炎殺黒龍波で肉片残さず焼き尽くしていただろう………ックックック。
………あれ?俺、本当に再発してない?
* * *
んで結局『ラグナロク』ってなんなんだ?
予鈴が鳴ってしまったので話の途中だったが無理に切って教室に戻った。
ただ、彼女の表情は一刻を争う。そんな切迫した表情だった。
そこら辺にいる厨二病の書いた設定で何かが起きるとは到底思えない。そんなことをしたらこの世に存在する厨二病患者達の作った設定で世界が無茶苦茶になっているはずだ。
俺みたいな奴の設定を再現したところで面白がる奴なんていないだろうに。
俺は立て肘を立て、黒板から横にいるミーシャに視線を向けた。
「ならミーシャさんは伊藤の隣の席だ。分からないことがあった伊藤に聞くように」とあのKY担任は俺に責任を投げ捨てた。だからお前は独身なんだよ、と言ってやりたかったぜ。まったく………。
ミーシャは俺の視線に気づき、ノートを取る手を止め、こちらに小さく手を振って見せた。俺は驚き、すぐさまミーシャから視線を逸らした。くそ、かわいいじゃねーかミーシャ。さすが自分が設定しただけあって、好みを良く知ってらっしゃる。
ふと違和感に気づき、周りを見渡してみると前後左右にいる男子全員がミーシャに視線を向けていた。おい教師、注意しろ。
それを知ってか知らずかミーシャは俺に手を振り続けている。
止めて!!クラス中の殺意を俺に集中させないで!!
おい、そこのミーシャの隣の奴。俺に向かって中指立ててるんじゃねーよ!!ファッ○ユートゥーだ!!
そんなクラスの男子共と視線で戦ってる最中だ。
「すいません。先生」
静寂を断ち切るように手を上げた女子がいた。先生が振り向くなりその女子は立ち上がった。