<01> -昔の俺が厨二病すぎてやばい!!-
それは厨二病が完治してもう三年は経つんでなかろうか。
中学時代の友人からはまだ笑いのネタにされつつあるが、段々とその話題に触れようとする奴も減ってきた。自分としては若気の至りだと、早く忘れてくれないかなと内心ヒヤヒヤだったりする。
いつものように遅刻ギリギリだと母親の罵声で目を覚ました俺は。母親お手製のおにぎりをパクつきながら着替えているときだった。
学ランに袖を通し、ズボンを穿こうと片足立ちすると。「おっとっと―――うわぁ!!」と情けない声を上げてバランスを崩す。
ケツから押入れに崩れたが、別段痛くもなかった。
ここで釘が飛び出て穴が二つになりました。とかのハンプニングは俺には絶対起きない。なぜなら出てきた物がイタイからだ。
「…………」
ヘイヘイ、ジョニー。変なもんを見つけちまったよ。ハハハッ!!嫌な記憶が蘇ってくるぜ。
俺のかわいいヒップの下敷きにされていたのは奥底に封印したはずの『乱度世流』さんだった。乱れる世(俺の熾烈な六年間)を渡っただけあって戦いの傷があちらこちらに刻み込まれていた。そんな傷を癒すわけでもなく、俺のケツをただ守るようにそこに存在していた。
『乱度世流』さんありがとう。そしてさようなら。
何事もなかったようにケツをあげて、クローゼットを閉めた。
『乱度世流』さんを見るだけで俺の封印された恥ずかしい記憶がよみがえってしまう。きれいさっぱり忘れるためには目の毒。いや、それだと『乱度世流』さんに失礼なのですぐしまうのが一番だ。うんうん。
クローゼットの反対側にある机の上に置いたおにぎりをもう一つ摘むために手を伸ばしたときだ。
何かが床にある。
そう。見知った大学ノートだ。
表紙になんか黒いマジックで題名が書いてあって、その下にルビ………。
すぐさま体が反応した。
ノートを丸めて捻って空のゴミ箱に入れた。
そういえば、今日は燃えるゴミの日だ。いつものようにゴミを回収しにきた母が「ん?これは何?」と見て、爆笑し、生きてる限りその話を満面の笑顔で俺の前でするだろう。絶対。
あの親のことだから近所のおばちゃん連中にしゃべりつくしたあげくに、何かと親しくなったうちの担任にもしゃべるに違いない!!
それだけは阻止しないと!!
俺の人生がかかってるのでじっくり考えていたいが、なにぶん真っ当な人生の方も危機だったりする。次遅刻したら単位落とすとか言われたから結構深刻。
腕を組み。口の中をモグモグさせ、とりあえず1分はまだ余裕があるので右足でリズムを刻んで考えた。
持って行く?
いや……それだと誰かに見られるかも。
戻す?
もう見たくないから処理したい。
今考えることじゃなくね?
そうだな。でもこれどうしようか。
うだうだと考えてると
「オサム!!早く行きなさい!!遅刻したらおかあさん、先生に何言われるかわかったもんじゃないでしょ!!」
デデンッデンッデデンッ!!と、どこぞの追跡者じみた気配を感じる。今にもこの部屋の扉を開けて「アイルビーバック!!」とか言いそう。
冗談言ってたらホントに階段登って来た!!ノートを持ちながらワタワタと慌てふためく俺。もう隠す場所なんて手に持った学バンしかない。
やけになった俺は、急いで鞄にノートを入れた。
「オサム!!あんた、今何時だと…………」
「今行くって!!…………ん?」
母さんの視線を追ってみる。『乱度世流』さんがそこで中身をぶち撒いている。
ちょ、ちょっと待ってください!!乱度世流さん!!
そ、それは……中学時代に愛用していた厨二系AV女優、【紅 夕】のDVDやらヘアヌードとかその他モロモロ。
さらにさらに、母さんの視線は俺の下半身に注目していた。
やべぇ。チャック全開じゃねーかっ!!
「あんた……朝っぱらからナニしようと……」
「いや、ナニもしようとしてないぞ!!これは全て偶然で……」
「いいから学校行きなさい!!」
「は、はいぃ!!」
下半身のチャックを閉めながらダッシュでその場から離脱した。下の階から「行ってきます!!」の声が聞こえて一安心した、ため息をつく。
* * *
なんとか走って学校に間に合うことができた。着席と同時に鐘が鳴って一安心した。
しかし。今日の俺は背中に爆弾を抱えている。俺を見る人の目がハンターの目に見えて落ち着かない。これを教室にぶち撒いてみろ。まるで池の鯉のようにワラワラと群がっては軽蔑と爆笑の渦が取り巻くの間違いない。だって中学時代そうだったのだから。
そういえばこの爆弾に人物の設定があったな。
「突然で急だが、今日は転校生を紹介する」
そうそう。高校2年の2学期の終わり間際という変な時期の転校生で。
「すげー美人」「綺麗な長い髪」「すごーい。綺麗な銀髪」「顔小さーい!!かわいいー!!」「日本語上手ー!!」「おい。瞳赤いぞ、外人って感じだな」「眼帯つけてるー」「右腕包帯巻いてるけど怪我………?」
そうそう。その転校生が超絶美少女で、銀髪で、眼帯つけて、開いてる方の目が赤く、そんで片腕に包帯巻いて。
「ミーシャ・蒼炎さんだ」
「ミーシャ・蒼炎です。どうぞミーとお呼び下さい」
そうそう。確かそんな名前だったな。名前はそんとき聞いてたアーティストの名前で、苗字も適当にかっこいいのにしたんだっけ。
そんで自己紹介の一言で。
「ミーシャさん。最後に一言お願いします」
「はい。ワタクシはイトウ オサム様を愛しております」
そうそう。愛の告白―――ん?なにやらクラス中が俺に集中してるようだが………?
「な、なに?」
きょどりながら周りに何が起きたのか尋ねたいがクラスの顔が十人十色。喜んでる奴とか、悲しんだり、怒ってたり………。
あれ?なにやら先生の横にいる彼女の姿に心当たりが……。
あれ?なんかその子が笑顔でこっちに―――。
「よろしくお願いしますね。オサム様」
「え、あ。よ、よろしく……」
何が起きたのか誰か教えて―――っ!!。