表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

chap.2 序章Ⅱ

「あー」という、隆成の相槌にも似た呟きが、張り詰めた空気をすぐに吹き飛ばす。

『聖痕』については、それで終わりだった。今更それについて話すことなどありはしない。



 2026年に突如として現れ、程なくして世界中で確認された奇病。

 正式な日本語名は「原因不明皮膚疾患」だが、その名で呼ばれることはまずない。『聖痕』という呼び方が広く浸透している。

 体のどこかにほくろのような斑点が浮かび上がり、発症して3日から1週間程度で意識を失う。その後は二度と目覚めることなく、正確に72時間後に死亡する。



 この病気が発見された最初期の混乱は、相当なものだったと記録されている。

 何の前触れもなく倒れ、そのまま死亡する人々。新種のウイルスか、バイオテロか。様々な憶測、陰謀論、デマが飛び交い、世界中が不信に陥ってしまったという。


 それでも医療機関は解明に尽力したが、数年後に得られた調査結果は決して希望のあるものではなかった。

 病因物質は不明。罹患者は斑点以外のあらゆる面において異常が検出されず、死の直前ですら肉体的には『正常』である。地球上のあらゆる生命体の中で、唯一ヒトだけが発症を確認されている。地域や年齢に傾向は見られず、それは胎児であっても例外ではない。



『人間という種の終着点というほかない』。調査文書の最後は、諦めの言葉で締めくくられていた。

 だが、その諦めはある意味で人類を救ったともいえる。過度なストレスによって疲弊しきっていた人々は、この『手の打ちようがない』という結論に、どこかほっと胸を撫で下ろした。

 事実、どうしようもないのだ。隔離しようがどこに逃げようが関係ない。子供も大人も、政治家も犯罪者も関係なく、等しく『死』は訪れた。


 ほくろ状の紋様、『聖痕』の出現から少なくとも3日の猶予があることも救いだった。病気そのものよりも、意識喪失による二次被害の方が深刻だったためだ。人々は毎日決まった時間になると、全身をくまなく確認し、そこに『聖痕』がないことに安堵するようになった。

 年間発症確率2%程度という、決して高くはない確率で、『聖痕』は緩やかに人類を死へと導いた。そして2037年現在、地球の総人口は60億程度にまで減少していた。



「良いセンセだったのにねぇ……」


 前髪をくるくると弄りながら、日葵は溜息混じりに呟く。

『聖痕』を発症した時点で、その人間は死んだも同然だ。致死率100%で治療法もないのだから。皆が黒木に向ける感情も、生きている人間に対するそれではない。



「……でどうすんの、次の曲」

いたたまれなかったのか、日葵は無理に話題を変えた。



「鎮魂歌とかどう?」

「プッ……鎮魂って。ダメっしょ詩、女の子がそんなこと言っちゃあ……」

「鎮魂?」

不思議そうに首を傾げる詩。



「ブフッ!!」


 ツボにハマったのか、隆成は勢いよく噴き出した。……が、誰もクスリとすら笑っていない。

 バツが悪そうに咳払いしてから、スマホの画面を皆の方へ向ける。



「どう? これ」

「どうって何が」

「だから次の曲! これ、えるえるの新曲なんだけど凄く良くって……」



 隆成が言い終わるより早く、大翔がわざとらしく欠伸をしてみせた。ムッとした隆成がそれに食って掛かる。



「なんだよ! えるえるをバカにしてんのか!?」

「えるえるじゃなくて、お前に呆れてるんだよ」

「んだとぉ!?」

「あーはいはい、隆成やめな」



 喧嘩になりそうな空気をいち早く察したのか、日葵が二人の間に割って入った。こういう場面での日葵は、非常に上手く立ち回る。どちらの恨みを買うこともなく、かといって八方美人的にもならない。自然と頼りにされるのも納得がいく。



「いやアタシもさ、えるえるの歌声はいいなーって思ってんのよ」

「でしょ!? そうっしょ! えるえるはホント声が良いんだよなー! 心にしみるっていうか、傷ついた心を癒してくれるっていうか? 欠けた部分にスッと嵌まるみたいな……」

「単に見た目が好みなだけだろ?」

大翔が横から口を挟んだ。



「ちょっと大翔ーやめときー? ……でもえるえるってさあ、英語の曲ばっかじゃん? ボーカルアタシ自信ないよー」

「いや、えるえるは英語の曲じゃないんだって! 中国語もスペイン語も、10か国語で自分の曲をセルフカバーしてて……じゃなくて、今度はなんと日本語で歌ってるんだ!」



 そう言うと隆成は(誰も求めていないのだが)、スマホの音量を上げる。隆成イチオシのyoutuberの歌声が部室に響き渡った。



「分かった、分かった」


 日葵が勝手にスマホを触り、音量をミュートに変更する。「何するんだ」と憤る隆成を宥めて、


「その新曲は家帰ってじっ……くり聞かせてもらうから。決めるのはそれからにしよ。ね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ