生きやすく生きていますか?
今日はリリーと昼食の約束をした。
少し早めの時間に到着した。
リリーの事を待ちながら、俺は少し考え事をしていた。
中堅商人だった養父にこう言われた。
「いいか。金持ちの真似をしろ。徹底的に真似ろ。自分の気持ちとか、自分の好みとかはどうでもいい。とにかく金持ちの真似をしろ。そうすれば金持ちになれる」
そう何度も何度も言われた。
始めは疑問があったし、抵抗もあった。
しかし、合理的な部分もあるかもしれない。
そして、真似なら迷わないと思うようになった。
そして今の俺がいる。
養父の助言は正しかったのか、間違っていたのかわからない。
でも確かに周りのお金持ちは同じような連中ばかりだ。
全て同じ型でできた工業製品のようだった。
そして、俺と同じように借金をし、事業を拡大し、利益率は薄いが薄利多売でなんとかやっている。台所事情は厳しいが、周りにはそうは見せない。
見せないのも真似だ。
「白鳥は水面で足をバタバタさせる。真の金持ちも水面で足をバタバタさせる」
そう教わった。
たまに思う。別の道があるのではないかと。
しかし同時にこう思う。別の道に進むのはリスクだと。
リリーのスイートポテトの件、
リリーの孤児の件、
これは誰の真似でもなかった。
正直怖かった。真似じゃないのが怖かった。
お金持ちの真似をしないと、損失を出すのではないかと思い、不安だった。
しかし実際はどうだ。
スイートポテトは高収益。
孤児は辞めない。士気が高い。おまけに勉強熱心だ。
俺は養父の考え方が、少々極端だったのではないかと考え始めた。
真似はたしかに脳を使わないから、楽かもしれない。
脳を使わないで済むなら、それは生きやすいのかもしれない。
しかし、それは奴隷と同じなのではないか。
俺のように借入金の多い経営者は、借金の奴隷だと俺は思う。
身動きが取れないからだ。
一見資金が豊富にあるのは、自由度が高そうだ。
しかし現実は必ずしもそうはいかない。
外部からの監視が強いからだ。
外部が……、
つまり金貸し側が納得できない使い方だと、
融資を引き揚げられる。
もし仮に金貸し側が神のような存在で、
チャンスの是非を完璧に見極められる存在であれば、
金貸し側の意向に沿うのもいいだろう。
しかしそんな存在はいない。
つまり金貸し側の思考能力の限界が、
経営の限界になってしまう。
そう思うのだ。
俺は生きやすく生きているのだろうか。
……
リリーが到着した。
「ごめん。遅くなった?」
とリリーは言った。
「だいじょうぶだ。早く到着しすぎたんだ」
と俺は言った。
「では頼む」
と俺は合図をだす。
合図と共に料理がはこばれる。
トマトとひよこ豆のスープ
ひな鳥の小悪魔風
ターキーのサンドイッチ
ポテトフライ
だ。
リリーは喜んでいる。
「なにこれ。美味しそう鳥肉?」
とリリーは言った。
「そうひな鳥の小悪魔風という料理だ」
と俺は言った。
「なんか悪そうな名前だね」
とリリーは言った。
「そうだろ。でも味は美味い」
と俺は言った。
リリーは楽しそうに食っている。
「リリー。変なことを聞くが、俺は生きやすく生きているのかな」
と俺は尋ねた。
「生きやすく……、生きているか。難しい質問だね」
リリーはそう言いながら、国語辞典をひきだした。
まったくリリーらしい。
こういう様子を見ていると、悩んでいるのがばかばかしくなる。
「生きやすい。生きにくいって言葉はなかったわ。でも生きるっていう言葉の意味として、生命体としてこの世に存在を保つと書かれたあった」
とリリーは言った。
「生命体としてこの世に存在を保つ。なるほど……つまり生きやすくというのは、困難ではなく、生命体としてこの世に存在を保つ という事なのか」
と俺はつぶやいた。
「そうだね。この困難というところが、リラが引っ掛かっているところなんじゃない?困難っていっても、人により困難がずいぶん違うじゃない」
とリリーは言った。
人により困難がずいぶん違う……。これはどういう事だろう。
「人により困難がずいぶん違う……。
それはどういう意味なのかな 」
と俺は尋ねた。
「困難ってのは、解決が難しくて、苦しんだり、悩んだりすることを表す言葉だけど、例えばこの間の孤児の問題で言えば、孤児は働くことはできるけど、働ける場所がなかった。だから苦しんでいた。逆にリラは仕事は用意できるけど、継続して働いてくれる人を探すのが難しかった。だから苦しんでいたってことでしょ」
とリリーは言った。
「なるほど、生きやすい生きにくいというのは、人の立場によって違うということか……」
と俺は言った。
「それでこの間は、リラが動いてくれたことによって、孤児は生きやすくなった。そしてリラも人を探す負担が減って、生きやすくなったって事じゃないかな?」
とリリーは言った。
「たしかに不安は減ったな。これは生きやすくなったと言えるのかもしれない」
と俺は言った。
「私だってそうだよ。リラが拾ってくれたから、生きやすくなった」
とリリーは言った。
「俺もだよ。リリーが来てくれて、ずいぶん生きやすくなった」
と俺は言った。
リリーは少し照れ笑いをした。
俺は思った。生きやすく生きるというのは、生きやすく生きるためのシステムを整える事なんだと。
そして俺はリリーという一人の女性と出会うことで、生きやすいシステムを手に入れたんだと。
そしてリリーも俺という一人の男と出会うことで、生きやすくなったんだなと。
「俺ら、お互い様なのかもな」
と俺は言った。
「そう言われたらウレシイよ。
私、ずっと人に必要とされたいって思っていたから」
とリリーは言った。
「君はかけがいのない人だ」
と俺は言った。
「ありがとう。私にとってもリラはかけがいのない人よ」
とリリーは言った。




