毒虫と毒親
孤児の件から3か月が経った。
50名全員を雇用することができ、全員リラの店に派遣している。
みんな貧民街にいたころより、すこしふっくらしてきた。
始めのころは、働いていても貧血で倒れたりしていたけど、それもなくなった。
イキイキと生活している。
私は孤児のみんなから『ママ』と呼ばれている。
子供はおろか、男の人とキスすらしたことがないのに、ママと呼ばれるのは不思議だ。
今日嫌なことがあった。
母親の勤めている娼館の従業員が店に来た。
こちらを見てニヤニヤ笑っていた。
ヤバイと直感的に感じて、目をそらした。
店を早引けさせてもらい、屋敷に戻ってきた。
孤児の件で、ずいぶん目立ってしまったから、バレたのかもしれない。
どうしよう。
店のみんなに素性がバレる。
せっかくできた居場所なのに……。
胸が苦しくなった。
屋敷の庭でボーっとしていると、ロイが話しかけてきた。
「リリーさん。
どうされたのですか?
珍しい」
ロイはそう言った。
「うううん。別になにもないの。だいじょうぶよ」
と私は言った。自分で解決しなくっちゃ。
「人間というのは、おうおうにして自分で解決しなくっちゃと思っている事ほど、他人からすると、なんでそんな事、早く相談しない……となるものです。
当家の家訓に、困りごとは早急に解決すべき。というものがあります。
リリーさんも当家の一員。さっさと白状しなさい」
とロイは言った。
そっか。家訓なら仕方がない。
「実は私は娼婦の娘なんだ。それで娼館に売られそうになったから家出して、リラに助けてもらったんだけど、母親の勤める娼館の従業員が今日店に来て、私のこと見てニタニタしていたの。私怖くなって逃げてきた。店のみんなに素性がバレたり、居られなくなったら嫌だなと。
そう思って」
と私は言った。
「なるほど。そうですか。そんな事でしたら、たいした事ではございません。安心してお仕事されてください。
リラ様にお伝えし、それで万事うまくいくように取り計らいましょう」
とロイは言った。
「ありがとう。ロイ」
と私は言った。
……
それからしばらくはなにも起きなかった。
うまく対応してくれたんだなと思っていたら、一月が過ぎたころ、屋敷で怒鳴り声が聞こえた。
誰だろう?そう思い覗きに行くと、
屋敷の玄関でリラが誰かに向かって叫んでいる。
誰かと思ってみると、そこには母親とあの従業員の姿があった。
母親は私の姿に気が付く。
「あらリリーじゃない。
こんな所にいたの?さっさと帰るわよ。
あなたには相応しい仕事があるんだから」
と言った。
そして強引に中に入ろうとする。
「おやめください」
とロイは制止する。
私は恐怖で座り込んでしまった。
あぁもう終わったんだ。私はやはり娼婦の娘で、娼婦になることしか許されない女なんだ。
私は呪われた血を恨んだ。
「リリー。諦めなさい。カラスの子はカラス。娼婦の子は娼婦よ」
と母親は言った。
もうやめて。
「あなたは間違ってる」
とリラは言った。
「なにが間違いよ。カラスの子はカラス。娼婦の子は娼婦よ」
と母親は再び言った。
「それを言うならカエルの子はカエルだ」
とリラは言った。
「何を言ってるの。カエルの子はオタマジャクシよ」
と母親は言った。
娼館の従業員の男はゲラゲラ笑っている。
「そうじゃない。カエルの子はカエルと言うのは、子どもの性質や才能、進路が親に似ることを意味することわざだ」
とリラは言った。
「そうよ。そのことわざくらい私も知ってるわよ。カラスも一緒じゃない」
と母親はむくれて言った。
「じゃあ。このことわざはどうだ。鳶が鷹を生む」
とリラは言った。
「鳶が鷹を生むわけないじゃない」
と母親は言った。
「この諺は平凡な親から非常に優れた子どもが生まれることのたとえだ。あんたは鳶のように平凡な女かもしれない。でもなリリーは違う。
鷹なんだ」
とリラは言った。
母親は沈黙した。
「……ずるいじゃない。あんただけこんなに良い男に巡り合えて。そうよずるいのよ。戻ってきなさい。そしてあなたは地獄で生きるの。私と同じように」
と母親は言った。
「なぜ家が地獄なんだ?
なぜ親が地獄の鬼になるんだ?
安心と愛を与えるべき存在が不安と無関心さを与えてどうする?」
とリラは言った。
「だって仕方ないじゃない。母親にそう育てられたのよ。愛なんかなかった。愛を注がれなかった人間が、愛なんて注げるわけないじゃない」
と母親は言った。
「バカなことをいうな。この子はリリーは、あんたに愛を与えられなかったかもしれないけど、見ず知らずの孤児たちに暖かい食事と働く場所を与えた。愛を注げたんだ」
とリラは言った。
「そんなのおかしいわよ。それじゃあ……まるで、私の子じゃないみたい」
と母親は言った
「人は変われる。リリーも変わったんだ」
とリラは言った。
「じゃあ、私も変われるのかな?」
と母親は言った。
「変われるさ。俺も変われたから」
とリラは言った。
「……割り込んで申し訳ないけど、俺も変われるかな」
と娼館の従業員の男は言った。
「変われるさ。変わる気さえあれば……」
とリラは言った。
「姉さん帰ろう。そして俺らも変わろう。リリーを見習って……」
娼館の授業員の男はそういった。
そして二人はとぼとぼ歩いて帰った。
風の噂に聞いた。
母と従業員の男は娼館を辞め、田舎に移り住み、観光客向けの果樹園を始めたそうだ。
商売は順調に行き、孤児を積極的に雇用しているみたい。




