表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

俺に……私に……生きる価値なんてあるのか?

リリーと話をしたことで、毒に蝕まれていた俺の心は解毒されたかに見えた。


しかし、右腕が抜けた穴は大きく、俺に埋められそうにはなかった。


俺はまた自己否定のループにのまれそうになっていた。

奴らはいつも当たり前のような顔をして俺に近づき、そして俺の魂を削り取っていく。

そして、たどり着くのは

『俺に生きる価値なんてあるのか?』

という残酷な命題だ。


俺はまた一人屋敷の執務室にこもっていた。

秘かにリリーを待ちながら。

(こんこんこん……)


「どうぞ」

と俺はぶっきらぼうに答えた。


部屋に入ってきたのは、リリーだった。


リリーは俺の顔をのぞきこみ、

「だいじょうぶ?」

と心配に言った。


「だいじょうぶだ」

と俺は言った。


リリーは俺の顔をじっと見る。

「そっか。だいじょうぶじゃないよね、チェリーパイ焼いたんだ。一緒に食べよ」

とリリーは言った。


「だいじょうぶと言ったじゃないか」

と少し苛立ちながら、俺は言った。


リリーは、じっと俺の目を見つめ、

「顔を見ればわかるわ。

絶望した人の顔をしている」

とリリーは言った。


その言葉は、抵抗なく受け入れることができた。

「そうか……、

なぁリリー。俺に生きる価値なんてあるのか?」

と俺は言った。


リリーは窓の外をみて、

「私も昔よく同じこと考えたなぁ」

とリリーは言った。


「君もか……」

と俺は言った。


「ほら、ずっと娼館に売るって言われ続けていたから。

それ以外に価値がないって、金銭的な価値を生まなければ価値はないって思っていた」

とリリーは言った。


「金銭的な価値を生まなければ価値はないって、それは思うよな」

と俺は言った。


「だよね。私は今もそう思う」

とリリーは言った。


「それは違う。リリーは金銭的な価値を生まなくても、価値はある」

と俺は言った。


「どんな価値?」

とリリーは尋ねた。


「一緒にいると、すべてを投げ出しても構わないと思うほど、幸せな気分になる」

と俺は言った。


リリーは少し戸惑っている。

「……そうなんだ。じゃあもし私が出ていったら?」

とリリーは尋ねた。


「……考えただけで怖い。不安になる」

と俺は言った。


リリーは恥ずかしそうにしている。


「どうかしたか。さっきの質問は?」

と俺は尋ねた。


リリーはちょっと待ってと、

部屋から出ていく。

そして国語辞典を持ってきた。

あのクリストファー教授の国語辞典だ。

「この頁を読んで」

と指さす。


俺は国語辞典を手に取る。

そこには『恋』と書かれていた。

そうか。

このリリーに対する気持ちは恋だったのか。

長く心にあったモヤが晴れた気がした。


そして心が軽やかに動き出した。

「リリー。俺はどうやら君に恋をしているらしい」

と俺は言った。


リリーの顔が紅潮する。

「それ……私も……」

とリリーは小声で言った。


「……リリーも俺に恋をしてくれているのか?」

と俺は尋ねた。


リリーはもじもじしながら、うなづいた。


「そうか。そうか。

あれ……、なんかうれしくなってきた。

なんでだろ」

と俺は言った。


「恋が成就すると、とっても幸せな気持ちになるんだって」

とリリーは言った。


「……じゃあ、リリーも今幸せな気分なのか?」

と俺は尋ねた。


リリーは恥ずかしそうにうなづいた。


沈黙がもどかしく感じた。

何を話していいのか……、

まるでわからない。


「……チェリーパイ食べよ」

とリリーはチェリーパイを差し出す。



「いただきます」

と俺は言った。

一口ほおばると、口の中に甘酸っぱい香りがぱっと広がる。


「美味しい」

と俺は言った。


リリーもチェリーパイを食べている。


「そう。よかった。酸味が強すぎじゃなかった?」

とリリーは言った。


「この甘酸っぱさがタマラナイ。最高だ」

と俺は返した。


「そう。よかった。元気が出てよかった」

とリリーはうれしそうに笑った。


「まだ自分に価値がないなんて思う?」

とリリーは少し心配そうに言った。


俺は考えた。

さっきまで俺の頭の中にいた奴らは、どこかに消えていた。

それどころか、いったいなぜ自分に価値がないなんて、

思い込んでいたのか疑問にさえ感じた。


「いや……、

今は俺にはすごい価値があるって思うよ。

リリーはどう?」

と俺は尋ねた。


「私も、すごい価値があるって思う」

とリリーは言った。


「やっぱり、リリーはすごいや」

と俺は言った。


「リラがすごいのよ」

とリリーは言った。


リリーの顔が紅潮して、可愛く見えた。

心臓の音が激しくなり、胸が苦しくなる。

唇を見ると、キスをしたくなった。


「あのリリー。キス………」

と俺は言った。

していい?の一言が恥ずかしくて聞けなかった。


リリーは恥ずかしそうにうなづく。

顔が近づく。

ドキドキして直視できない。

そして俺はリリーに口づけをした。

リリーの口元からは、

チェリーパイの甘酸っぱい香りがした。


頭がくらくらし、少しボーっとしてきた。

俺はリリーを抱きしめた。


「好きだ。リリー」

俺はそう言った。


「私も好き。リラ」

とリリーは言った。


リリーの身体を抱きしめ、

こんなに華奢な体だったんだと。

俺は思った。

リリーを守りたい。

そう俺は思った。


(こんこんこん)

部屋をノックする音が聞こえた。


扉を開けると、そこにはロイの姿があった。

「国王陛下がスイートポテトをご所望のようです」

とロイは言った。


俺とリリーは目をあわせて笑い出す。



END


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ