表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/48

第一話:目覚めれば、そこは魔王城

ここは魔王領の外れ、草原と畑しかない“地の果て村”。

 カイルはその片隅で、いつも通り鍬を振るっていた。


「ふぅ……今年も石がゴロゴロだなぁ」


 今日は十五歳の誕生日。つまり、神からギフトを授かる「成人の儀」の日だった。

 村の若者たちが緊張と期待で神託所に集まっていたが、カイルの胸中は不安でいっぱいだった。


「神様、僕にも何か使える力をください――」


 祈りを終えたカイルの脳裏に、光の文字が浮かぶ。


 ――ギフト『観察の眼』:相手の名前と戦闘力を視認可能


「……えっ、それだけ!?」


 拍子抜けした気持ちを隠して宴に出るが、内心は沈んだまま。

 そんな夜、ギルドから急報が届く。「新種魔物が村の周囲に出現した」と。


 カイルはギルドの手伝いで、調査隊に同行することに。

 魔物に見つからないよう、枝葉を体に巻きつけて隠密行動を取るが――それが仇となった。


「おい、あれ見ろ! 魔物か!? ……喋ったぞ!?」

「え、違――え、なに!? 捕まるの!?」


 叫ぶ暇もなく、魔族の兵士たちに拘束され、連行されるカイル。


◇◇◇


 連れてこられたのは、異様な静けさと不気味な威圧感を放つ巨大な黒の城――魔王城だった。


「マズい……これ、マジでヤバいやつでは……?」


 牢に入れられたカイルは、縄の切れ目を見つけて、ソッと逃げ出す。

 目指すは外への通路。途中、誰とも会わず進めているのは幸運か不気味か――


 だが、運命は彼を逃がさなかった。


 王宮の奥。装飾が豪華な扉の前で、カイルは“それ”と出会ってしまった。


「……なんだ、お前は?」


 鋭い赤い瞳と漆黒の角を持つ魔族――魔王だった。


「ちょっと待ってください! 僕、村の人間で、誤解で連れてこられたんです!」

「……ほう、喋る…人間か? ちょうどいい」

 ニヤつく魔王。


 魔王は口元を歪め、手を掲げた。


「禁呪・魂交替」


「なっ……!?」


 その言葉と共に、世界が反転し、カイルは気を失った。


◇◇◇


 ――魔王の私室。


 ふかふかの寝台の下、赤いカーペットに突っ伏すように倒れていたカイル。

 だがその体から感じられる“生命力”は、驚くほど弱々しかった。


「……魔王様っ!?」


 扉を開けたメイド長が、血の気を引かせて駆け寄る。

 戦闘力120万を誇る彼女が震えるほど、目の前の“魔王”は、生命力が感じられなかった。


「ど、どういうこと……!? 魔王様のマナが……底を尽きかけてる……!」


「……ミリィを! ヒールの使い手を呼んでくださいっ!!」


(まさか……暗殺?)

(そんな話、聞いてない……!)

(魔王様を狙うなんて、誰がそんなことを……)

(逃げた犯人……まさか、魔王様を討とうとしたのが“あの勇者”……?)

(神技――人類の勇者が使う神術の一撃……?)

(あれなら、魔王様を瀕死に……!?)


 ざわめく空気の中、メイド長は声を張り上げた。

「落ち着いて! まずは魔王様の回復を最優先に!」


 一人のメイドが、回復魔法を発動した。


「《ヒール・イン・エリシア》!」


 光が降り注ぎ、カイルの体に命が戻る。

 うっすらと目を開けたカイルは、ぼんやりと天井を見上げた。


「うぅ……ここは……?」


「魔王様……ご無事で……」

 メイド長は安堵とともに、そっと目元を拭った。


(……え? なんでこんな人が……? あれ、俺、牢から逃げようとして……?)


 まだ混乱する頭の中、カイルは気づいていなかった。


◇◇◇


 その頃――


「ふははっ、完璧だ。俺の計画は大成功だ!」


 人間の姿となった“元・魔王”は、体力全快の状態で、夜の森を駆け抜けていた。


「この体、軽い! いいぞ、これからは自由気ままに生きてやるっ!」


 ――こうして、カイルの知らぬ間に、魔王の“中身”は入れ替わり、

 一人の農村少年が、“国の未来”を背負うことになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
手違いで魔王と魂が入れ替わるという急展開ですが、中々とんでもないですな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ