4 惑星探査
「しかし、こんなところまで来て食料捜しをすることになるとは思わなかったな。本当に大丈夫なんだろうな、ジョン」
未知区域探索用の完全装備ジープを小型調査船の格納庫から外へ走らせると、フェルナンド・ミリオリーニが科学班長にいった。
「ああ、周回軌道からの探査では、この星は生物に満ち溢れているという結果が出ている」ジョン・カウフマンが答えた。「それも我々と同じ炭素型生物なんだ」
「信じられないわね。よりにもよって、誰が造ったのかわかりもしないゲートを抜け出てきた先に、地球型の生命体がいただなんて……。しかも空気は呼吸可能」
エブリン・パーネルが呆れたように呟いた。
「世間と同様、この宇宙も狭いのかしらね?」
「おれはマリー・アントワネット二世号の設計者を呪うね。一体どんなバカが燃料タンクのすぐ近くに食料庫を配置するかね?」ロイ・メルがいった。「せっかく、こちとらが燃料の噴出を食い止めたっていうのに……」
「まあ、そういいなさんな。命が助かっただけでも幸運だったと思えばいいさ」
船長のワイスコップがロイをなだめた。
「それに、あちこち動きまわるよりは一箇所にじっとしていた方が発見されるのも早いだろう」
「そう願いたいですね、船長」
ミリオリーニが同意した。
「船に残ったリーザたちはどうしているかな?」
ワイスコップの尻ポケットで通信機がビーとなった。
「こちらワイスコップだ。リーザか?」
「はい、船長」
「探索の具合はどうなっている? 少しはこの星域の見当がついたかね?」
「いまそれを報告しようと思っていたところです。……船長、現在既知領域とその周辺星域を約一千万年までさかのぼり、あるいは未来写影したところですが、それらしい外観は、まだ見えてきません」
「わかった」
右手で鬚をさすりながらワイスコップが答えた。
「ご苦労だが、きみは引き続きその探索を続けてくれ。何か変わったことがあったら報告を頼む。……おれたちはこれから食料捜しに出かけるところだ」少し考えてから、「ドグ・温からは何かあるかね?」
マリー・アントワネット二世号のブリッジで航路算定士が船医に振り返った。
「あなたから何かないかって、船長が訊いてるけど」
「いまのところはないわ。こちらのモニターではみんな精神・健康ともに異常なしだし……」
でも、と温麗華は思った。惑星の周回軌道に乗ってから感じる、このどことなく気づまりな雰囲気は?
「取り立ててないということですが……」
左手で胸を押さえてから、船医が航路算定士にいった。
「あんまり愛想がないのもなんだから、みんなに、くれぐれも気をつけるようにって伝えてくれる」
「聞こえたよ、船医」ワイスコップが答えた。「ありがとう。充分気をつけるようにしよう。……では、以上だ」
「了解、船長」
プツリと音がして、ワイスコップの手のなかで無線機が切れた。
「一千万年の過去・未来探査でも見つからなかったとすると、我々はゲートを通って別の宇宙に紛れ込んでしまったのかもしれませんね」
ジョン・カウフマンが考え深げに呟いた。
「シリンダーが、もし完全な特異点になるくらいの角速度でまわっていたとすれば……」
「科学班長、考えるのは食い物を見つけてからにしましょうや」
黒人機関士が口を挾んだ。
「そういうことだな」ワイスコップがきっぱりといった。「腹が減っては戦ができぬ。……ところで、先生はどうした?」
「調査船のなかで土壌サンプルの分析をしてます」カウフマンが答えた。
「学者先生ってのはいつもそうだからな」
ロイ・メルが呆れたように、だが半ば尊敬の念を込めた口調でいった。
「なかなか太鼓判を押さないんだ」
「悪いことじゃないさ」科学班長が佐伯を弁護した。
「ふうむ」と船長。
「だが、先生ひとりを残していくわけにもいかんしな」
四人の船員を見まわし、
「エブ、悪いがきみは先生とここに残ってくれないか? 何かあったときの予防策だ」
不服そうな顔のパーネルにミリオリーニがいった。「恨むんなら、先生を恨むんだな」
「うるさいわね、フェル」
無線通信士が一等航宙士を肘で小突いた。
「わかりました、船長。では、ここで待機します」
「任せたよ」とワイスコップ。「それじゃあ、おれたちは出発しよう。無線回路は常時本船と調査船の双方に開いておく。ロイ、フェル、カウフマン、行くぞ」
四人の荒くれ宇宙船乗りたちを乗せた未知区域探索用の完全装備ジープは、小型調査船の着陸した小高い丘を後にして、その眼下に広がる欝蒼と茂った緑の森に向かった。