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30 記憶
その変化は遠い惑星周回軌道上のマリー・アントワネット二世号の温麗華にも現れた。
心の中が急にからっぽになったかと思うと、宇宙船の航行に関する知識が堰を切ったようになだれ込んできたのだ。
「やらなくちゃ!」と温麗華は叫んだ。「えーと、シャトルの向かい入れ準備に必要なのは……」
疲労と困惑から逃れるため、すっぱりと化粧を落した彼女の顔は、佐伯の出会った少女アイリスの面影を宿していた。
「あの人のイメージ」と、ふと仕事の手を休めると彼女は思った。「どうしてかしら? いま思うと、先生とすごく似ている」




