0 プレリュード
時空を超越した存在である〈虫〉は新しい遊びを考えつく。それは自らの風変わりな食欲を満足させる遊びでもある。この前、時空の眠りから目覚めて以来口にしている食べ物『時間発展する秩序』は、どれもあまり美味しくない。風味とコクが欠けているのだ。
風味とコク? 自らいま一度そう問い返し、〈虫〉は、この広い宇宙に遍く存在するちっぽけな生物からすれば無限ともいえる長さの身体を小刻みに震わせて笑う。些細なことに拘るものだ。もうあまり昔のことなので、すっかり忘れてしまったが、自分たちはきっとそんなに古い種族ではないのだろう。もちろん、この宇宙の年齢と比較しての話だが。だから、そういった食味に拘るのだ。
が、まあよい。時間はたっぷりとある。そういった哲学的考究は腹を満たした後の楽しみにとっておこう。
〈虫〉がそう思って今度は大きく身をのけぞらせたとき、一隻の宇宙船が下位の時空を航宙していくのを肌に感じらる。あれにしよう、と〈虫〉は思う。もとより〈虫〉には、細かく取り決めた判断基準など存在しない。思いついた遊びを早く試してみたいという遊び心だけがある。
細長い身体をくねらせると〈虫〉は下位の時空に同化していく。そして、すぐさま計画した楽しい遊びを開始する。