a
「この題名はなんなの」
そう言うとベットの横に設置された窓のふちに両肘を起き、窓の外を逆さに眺めるようにだらしなく寝そべりながら吸いかけの煙草をその口に近づける。切っ先の煙も副流煙も出たそばから窓に吸い込まれていく。キャミソールの上で描かれる夕日とその影の曲線からはついこの間まで抱いていたであろう感情の励起を感じることはなく、ただ写実を欲する美的欲求だけを僕の中に残す。そのことが僕に時間の経過と失うべきでなかったなにかの不可逆な喪失を知らせる。左手にはWinstonの赤い箱が握られている。
「科学も工学も、文学も、あるいは関係性における常識も先人たちの残した技工の上に成り立っている。僕はそのどれも斜に構えて見ている、たぶんそのことを言いたかったのだと思う」
「たぶん?」
「”ジャズも進行があってソロがある。そのとき進行はムードでしか無い。”と聞いたことがある。」
「あんたは捻くれた和音の上に自分についての記録を残した。」
「いえす」
「そのしんこうに従うなら」
「うん」
「たぶんこれだよ」
「何が」
僕が最後の台詞の全ての音節を言い終える前に、右手に持たれたA4のコピー用紙は妖艶な笑みの隣で十数羽の鷲のように力強く風に答えながら、窓の外に吸い込まれていった。
「あんたがこれからすべきこと」