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第二話 国立高等魔法学院

 フェリシアたちの乗った車は、王家に仕えて長いドライバーによって学院に真っ直ぐ向かっていった。


 車の動力は運転者の魔力で、それなりに魔力があれば簡単に動かすことができる。というか、この世界にある大抵の機械は魔力で動かされている。これはこの国に限ったことではない。魔力は生きている限り自動回復なので環境的にも悪くない。画期的……というか、もう当たり前になっているものだ。


「もうすぐ着きます。ご準備ください」


 運転手がそう言い、リードはもう一度フェリシアの身なりを整える。


「王女らしい振る舞いを、お願いしますね」

「わかってる。あたしだって馬鹿じゃない」

「あなたは天才ですから、大丈夫ですね」

「……うん」


 フェリシアはリードの言葉で切り替え、第一王女フェリシアとしての人格を作り出す。


「着きました」

「……ありがとう」


 運転手にお礼を言って、フェリシアは先に降りたリードの手を掴んで車から降りる。


「リードは来なくていいよ、別に」

「そうですか。じゃあ、ラウンジにいるので何かあれば」

「暇なの?」

「あなたの側にいることが仕事なので」

「そっか」


 それもそうか、とフェリシアは納得した。


「というか、ラウンジなんてあるんだ」

「ええ。同行の召使いが待つ部屋とご家族が待つ部屋などがあります。ちょっとした迎賓館ですね」

「へぇ。知らなかった」

「そりゃ、ずっとあなたの側にいましたから」

「確かに」


 しかも、フェリシアはほとんど学院に行っていないので、知らなくても当然といったところだった。


「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


 リードに見送られて、フェリシアは校門をくぐって中に入っていった。



 国立高等魔法学院は、このクラッチフィールド王国で最高峰の魔法学院だ。高等教育施設の中でも最高峰と呼ばれている。その理由は、この国では魔法の技術が絶対的な物差しだからだ。


 先ほどの車のように、魔法が使えないと生活もまともに送れないような環境に置かれることになるこの国で、その魔法の技術というのは大きな基準になる。一人雇おうとして二人応募があれば、より魔法が扱える方を選ぶ。そんな状況。


 その中で、国立高等魔法学院というのは特に魔法の才能がある子供が通う学校だ。誰もが知る憧れの学校。


 フェリシアには、幼い頃から魔法の才能があった。ただでさえ王女という目立つ肩書きを持っているのに、魔法の才能ゆえに天才や神童と呼ばれていた。この学校に通うのは当然のことだったが、フェリシアには通う気が更々なかった。


 それでも学校に行っていない王女など聞いたことがないと怒られ、半年に一回の補習と定期テストだけは行ってちゃんと卒業するというところに落ち着いた。


 いつもどこかにフラフラと出かけ、友達なんかいない。しかも王女として恥ずかしくない振る舞いをしろだなんて言われて……そんな学校はフェリシアにとって苦痛そのもの。


 でも、王家に生まれたからにはという考えもわかるので、父の考えた落としどころを飲んだ。そもそも両親に強く言えないというのもあったが。


 とにかく、今日だけだから。頑張ろう。


 フェリシアはそう自分に言い聞かせ、制服のローブについているフードを深く被って、目立たないように校舎の方に向かった。目立ってしまうと色々と迷惑がかかるためだが、印象はあまりよくないかもしれない。


 その時、フェリシアは危険な気配をどこかから感じた。その方向は校舎の方。厳密にいえば校舎のさらに向こう側からだった。その数秒後、校舎の上を超えるように何かが校門に向けて飛んでくるのが見えた。


「あれは……スタッフ……? に乗った生徒……」


 そう呟いている間に飛翔物はさらに近づいてきていた。


「どいてーっ!!!!」


 そんな男子生徒の声が聞こえ、校舎に向かっていた生徒たちは飛翔物をかわしていく。


 あれは杖に乗った生徒であることは間違いないのだが、なぜそんなことになったのか全く分からない。身長ほどある杖にまたがって飛ぶレースはあるのだが、よっぽど技術がある生徒しか飛ぶことはできないし、そういう生徒が杖を暴走させるなんてことは無いはずだ。だが現実に、暴走している。


 そして杖はフェリシアの横を通っていき、フェリシアのフードが風で脱げてしまった。


「……チッ」


 バレないように舌打ちをした後、フェリシアは杖の方に手を向けて暴走を止め、ゆっくりと地面に下した。


「ふぅ……危なかった……あ、ありがとうござ……」


 暴走杖に乗っていた男子生徒は、止めてくれた魔法の出どころの方に振り返ると、そこにいた人物を見て言葉を失った。


「フェリシア……様……」

「……暴走させるなら乗らないでください。危険です。あなただけじゃなく、周りも巻き込んでいます。自覚してください」


 そう言ってすぐに校舎の方に歩いて行く。長居するのはよくないし、ずっと気が張り詰めた状態は疲れてしまうので早く落ち着ける場所に行きたかった。


 どうにか迷わず補習が行われる部屋にたどり着き、誰もいない講義室の一番後ろの席に座った。


 それから始業の時間まで待っていたが、補習を受ける人は全くいなかった。当たり前か。ここは最高峰の魔法学院。せっかく入学できたのに通わないなんて選択肢は無い。


「すごい後ろに座りますね、あなたしかいないのに」


 講義室に教師が入ってきて、フェリシアの座っている位置を見てそう言った。


「別にいいでしょ? 自由席って書いたのはあなたなんだから」

「そうですけど……まあ、とにかく始めましょう」


 これ以上話すとボロが出そうとでも思ったのか、教師は補習授業を始めた。


「今日は課題を色々やってもらいます。これ、全てです」


 そう言って教師がフェリシアの目の前に、頭より高く積み上げられた紙の山を重い音を立てて置いた。


「こんなに……」

「半年分ですから」

「それもそうですけど……まあ、これで半年分の授業免除ですもんね。やりますよ」


 そう言ってフェリシアは三人掛けの席で一つ隣の席に移り、自分の術式内にしまっていたペンを取り出して一つ目の課題を手に取った。

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