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76.休むのも大事!

(……ん……)


 朝の光を感じ、ぼんやりと意識が浮上した。

 けれど、体が石のように重たくて起き上がれない。力なくしっぽを揺らし、体を抱え込んで丸くなる。


(痛い……)


 胸が、どうしようもないほどに。


 魔王にされてしまった少年。

 ヴィクターと同じ、魔素を体に宿した少年。

 もう取り返しのつかない、はるか昔の出来事なのだと頭ではわかっていても、心が付いていかなかった。


 家族を残酷に殺された上、自身はあんな冷たく恐ろしい牢屋に閉じ込められている。それに、生まれつき心臓だって悪いって言っていたのに……!


「ぱう、ぅ……っ」


「シーナ? 起きたのか」


「! ぱぇぱぁっ」


 跳ねるように体を起こし、差し伸べられた手に飛びついた。すぐに胸に抱き締めてくれたので、私は目を閉じヴィクターの鼓動を感じる。


(痛いよ……。ヴィクター……)


 すん、と小さく鼻をすすった。

 ヴィクターは無言で私の背中を撫で続けてくれる。しばらくして、そっと私を覗き込んだ。


「朝食を取れるか? 辛いのならスープだけでも構わん。ロッテンマイヤーに言って、甘い物を多めに包ませよう」


「ぱえっ」


 こっくりと頷いた。

 そうだ、まずはしっかり食べなくては。彼の生きた道を見届ける、とルーナさんたちと約束したのだから。へばってなんていられない。


(見てなさいよ、ヴァレリー王……!)


 私はあなたから逃げたりなんてしない。

 むしろぶん殴ってやりたいぐらいなんだから!


 勇ましくこぶしを振り回せば、ヴィクターが安堵したように眼差しをやわらげた。私の額を弾き、肩に載せてくれる。


「今日も王都周辺の見回りだ。お前も行くか?」


 もちろんもちろん。

 危険な時は、私がこの手でヴィクターを護るのだ。決意も新たに、キッと前を見据えた。



 ◇



「いやぁ、何ていうか……。本当に魔獣が増えたねぇ」


 カイルさんがうんざりしたみたいに肩をすくめる。

 無理もない。日が暮れるまで街道を回り、十体以上の魔獣を討伐したのだ。


 ヴィクターも肩を回し、小さくため息をついた。


「月の儀式までの我慢かもしれんな。儀式さえ行えば、魔獣の数は大幅に減るらしい。キースがそう言っていた」


「ふぅん。また聖堂の大ぼらじゃなきゃいいけどね」


「さあな。どの道、次の満月――天気さえ良ければ三日後か。その日にははっきりするだろう」


 ヴィクターの発言に、私とカイルさんは「ん?」と顔を見合わせる。ヴィクターは瞬きすると、ああ、と納得したように頷いた。


「儀式は次の満月に行うと決まったらしい。そう神託が下ったと、昨日聖堂でキースから聞いた」


「えええっ? そういうことはオレにもすぐ教えろよ、ヴィクター!」


 わめくカイルさんを迷惑そうに見て、ヴィクターはさっさと王都の門をくぐる。そっかぁ、やっぱりもう決定なんだね。ってことは夢の続きもだけど、ちゃんと舞の練習も頑張らないと……!


 武者震いする私をちらりと見て、ヴィクターは足を早めた。


「早くシーナを休ませたい。俺は団に戻らず直帰する」


「はいはい。じゃあ報告書類等々、後ほど屋敷までお届けにあがります。家で残業頑張れよ!」


「…………」


 見事にやり返され、ヴィクターは凶悪に目を吊り上げる。大丈夫大丈夫、私も横で応援しててあげるよ〜。


(今日は私、何もしてないしね)


 ヴィクターもカイルさんも、そして第三騎士団のみんなも圧倒的に強くて、ありがたいことに私の魔法の出番なんて全くなかったのだ。

 ヴィクターの騎士服の中、ぱえぱえエールを送るだけで終わってしまった。


 ただ戦闘中はヴィクターの魔素がめらめら立ち昇っていたので、魔素の吸収だけはしっかりしておいた。

 以前予想していた通り、殺気立った時の魔素は刺激的な味がした。辛いわけじゃなくて、炭酸水とか弾ける飴みたいなピチピチした刺激感。これはこれで悪くなかった。


「ぱぅえ〜」


(ご馳走様です)


 もふっとお手々を合わせて感謝を伝える。

 さて、お次は本物のごはんだね!


 屋敷に帰って、もりもりと夕食を平らげる。ヴィクターが切り分けてくれた赤身肉のステーキを、パンに載せてパクリ。うぅん、ソースがよく合うわぁ〜。


「……体調は問題なさそうだな」


 注意深く私を観察し、ヴィクターが納得したように頷いた。「野菜も食べろ」とパンの上にレタスを追加する。やっぱりお母さん気質だよねー。


「シーナ様、デザートにケーキもございますからね」


「ぽえぇ〜!」


 しっぽを振る私に、ロッテンマイヤーさんも給仕の使用人さんも、嬉しげに頬をゆるめた。心配かけてたんだなぁ、と改めて反省してしまう。


「よし。それではそろそろ部屋で休……」


「やっほーお届け物でーす」


 カイルさんが颯爽と現れて、ヴィクターがガクッと肩を落とした。その手にはもちろん書類の山。


 カイルさんはせっかくだから夕食を食べて帰ると言うので、私とヴィクターは部屋へと移動する。


「ぽぇあ〜」


(がんばれー)


 机の隅でくるくると月の舞を練習しつつ、ついでにヴィクターを応援してあげる。ヴィクターは目を細めて私を見守ってくれて、その間はもちろん手がお留守になっていた。


「……いかん。このままでは」


 ヴィクターははっとしたように首を振ると、音を立てて立ち上がる。私を抱き上げ、そっとベッドに寝かせてくれた。


「先に寝ていろ。明かりはつけたままでも大丈夫か?」


「ぱえ〜」


 しっぽをひと振りして、丸くなる。

 撫でてくれる温かな手が心地よくて、私はぷああと大あくびした。……うん、大丈夫。


 ヴィクターやカイルさん、お屋敷のみんなのお陰で気力も体力もしっかりと回復した。


 胸に闘志の炎を燃やし、私は再び過去の世界へと旅立っていく――……

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