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3.さて、私は何モノなのか?

「見るな」


 威嚇するみたいな低い声に、びくりと体が跳ねる。


 どうやら一刀両断男の大きな手に包み込まれてしまったようで、チャラモテ男さんの姿が見えなくなってしまった。

 指の隙間から覗こうと身じろぎするが、「動くな」と凄まれ速攻で諦めた。そして再びタオルできっちりと封印されてしまう私。


(うう。()()()より()()()の方が、話が通じそうに見えたのに~!)


 ぷうぅ、と不満の鳴き声が漏れる。


 モテ男さんだったら怖くない気がしたのに。

 なんでだろう。一刀両断男の顔が怖いのは確かだけど、それ以上に恐ろしいのは彼の存在そのもの。熊モドキから助けてくれた命の恩人だというのに、側にいるだけで震えが止まらなくなるのだ。


 ――まるで、生存本能が警鐘を鳴らしているかのように。


 じっと考え込む私をよそに、モテ男さんが能天気な声を上げる。


「え、まさかの独り占め?……ふぅん。全てにおいて無関心なヴィクターにしちゃ、珍しいこともあるもんだ。なになに、そんな可愛い子なの?」


 冷たくあしらわれてるというのに、彼は楽しげな調子を崩さない。おいそこの茶髪、お前ちょっとは空気読めや! あーほら、一刀両断男が舌打ちしてんじゃん!


 男の静かな怒りの波動を感じ取ったせいか、またも私の体が激しく震えだす。寒いんじゃないの? なんて、思いのほか近くからモテ男さんの声がした。


「タオル越しでもわかるぐらいぶるぶるしてる。お腹も減ってんじゃない?」


「…………」


「ヴィクター、お前今まで動物を飼ったことなんてないだろ? オレが世話の仕方を教えてやるから、まずは見せてくれって」


 横取りしたりしないからさ、といたずらっぽく付け足すモテ男さんに、とうとう一刀両断男が諦めたように息を吐いた。

 途端に私もプレッシャーから解放され、体に力が戻ってくる。


 タオルがゆっくりと取り払われて、私はわくわくとモテ男さんを見上げた。モテ男さんも興味深そうに私を見つめる。

 そっと手を伸ばし、慣れた手付きで私の背中を撫でてくれた。


「おっ、真っ白でなかなかいい毛並みだね。うんうん、これは乾けば極上のもこもこになるな」


 そうなのそうなの。

 イケメンってばわかってるぅ。


「毛皮にしたら高値で売れるぞヴィクター」


 おいゴルァ。


 鼻息荒くモテ男の手を叩き落とせば、途端に彼はピタリと動きを止めた。かがみ込んで私に顔を近づけ、困ったように眉根を寄せる。


「えーっと、うさぎだよなこの子。うん、うさぎ……うさ、ぎ? あれ?」


 途方に暮れた様子で一刀両断男を振り仰いだ。

 腕組みして見守っていた一刀両断男は、苦虫を噛み潰したような顔で無言を貫いている。


 モテ男さんはおろおろと私と男を見比べ、ごくりと喉仏を上下させた。


「あ、あのさヴィクター。これ……、この子って、さあ」


 もしかして、と言葉を詰まらせる。


 ぽかんとする私に向かって目を細めると、一刀両断男は深々とため息をついた。


「シーナ・ルー。……月の女神の眷属(けんぞく)だ」


(……しいな?)


 月の女神?

 それに、けんぞく……って、何だっけ?


 男の言葉を胸の中で反芻する私から、モテ男さんがすごい勢いで後ずさっていく。


「ええええ!? シーナ・ルー!? あれって実在してたの!? オレ、伝承の中だけの存在かと思ってた!」


 意味不明に動揺する。

 信じられないものを見る目で見られ、つられて私まで不安になってきた。


(なに? 私、なんかヤバい動物に変身しちゃったの?)


 もしやあの熊モドキ以上に危険とか?

 問答無用で成敗されちゃったらどうしよう。


 こわごわと一刀両断男を見上げるが、彼はモテ男さんと違い落ち着き払っていた。感情のこもらない静かな瞳に、速かった心臓の鼓動が落ち着いてくる。


 ――なんて、胸を撫で下ろしたのも束の間。


「ぽえっ?」


 ぬっとたくましい腕が伸びてきた。


 体をすくい上げられ、私は悲鳴を上げて暴れ出す。いやだって、首、首根っこつかんでるよ!? 動物さんはもっと丁寧に扱おう!?


「おそらく間違いないだろう。魔獣の気配は微塵も感じられない上、存在するどの動物とも見た目が違っている。こいつの尾も耳も、古代より伝えられた通りの姿だ」


「ぱえ、ぱえぇ~っ」


「うぅん、確かに。オレも子どものころ絵本で見たことあるよ。しっぽがふっさふさで可愛かったな」


 モテ男さんも真剣な表情になっている。

 ……や、まず助けてよ!? モテ男の風上にも置けやしないっ!


「ぷ、ぷぅぇ……っ。ぷえぇっ」


 瞳はうるんでも涙は出ない。つまり泣き落としは不可。

 可哀想な私に目もくれず、男たちは喧々諤々と議論を続けている。


「どうする、こっそり飼ってみる? お前って腐っても王子なんだし、バレたって謝っちゃえば平気だろ?」


 長いお耳がぴくっと反応。

 え、なになに。一刀両断男ってば腐った王子なの?


「なぜ俺が飼わねばならない。助けた以上は仕方なく、一時保護しただけの事。こいつが真に月の女神の眷属であるならば、『帰らずの森』に戻したとて己の力で何とかするだろう」


 そんな恐ろしい名称の場所に放置せんといてー!


「いやあ、でもこの子弱っちそうじゃない? 他の魔獣から殺されちゃったら寝覚め悪いでしょ。なあ?」


(そうそう、その通りっ。いいこと言った!)


 モテ男さんから同意を求められ、私は得たりとばかりに何度も首肯する。


「ぱえぱえぱえっ」


『…………』


 なぜか二人が固まった。ありゃ?

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