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24.濡れ衣はご勘弁!

「夢でも見たんじゃないの?」


「そんなわけがあるかっ!」


(……ん……)


 怒声が聞こえ、私はゆるゆると目を開く。

 ふあ、とひとつあくびして、長いお耳をピンと立てる。おおお、私ってばまたシーナちゃんに戻っちゃってる……。


(無事生還、ってとこかな。魂を引っ張ってくれてありがとう、ルーナさん)


 なむなむ。


 もふっとお手々を合わせ、また大あくび。

 まだまだ寝たりないな、死にかけて疲れちゃったのかも。


 もぞもぞ丸まり、ふんわりしっぽを体に巻きつける。これぞ自給自足・セルフもふもふ布団なり~。

 シーナちゃんでいることの利点だよね。なんだか癖になっちゃいそう。


 いい気分で目を閉じたのに、またしても会話が強制的に耳に飛び込んでくる。


「夢じゃないなら尚更ヤバいよ、ヴィクター。シーナちゃんが美少女だったらいいな、だなんて妄想して、幻覚を見ちゃったってことだろー?」


「幻覚でもない! それから決して美少女ではなかった、勝手に人の話を誇張するな!」


 ……あぁん?


 むっとして身を起こす。

 途端にやわらかな毛布に足が取られた。どうやら私は今、ロッテンマイヤーさんお手製のメルヘン巣箱にいるらしい。

 上を見ても目に入るのは天井ばかりで、口論する二人の姿は見えなかった。


(話してるのは、ヴィクターと……カイルさんだよね? まったく失礼なんだから。美()()じゃないのはわかってるけどさー、だってもう二十三だよ私)


 それにしたってその言い草はないだろう、とむくれてしまう。

 私が起きたことに気づいていないのか、ヴィクターたちは喧々諤々と議論を続けている。


「ええ? じゃあ美熟女だったの?」


「違うっ。年の頃は二十そこそこ、顔立ちは可もなく不可もなく至極平凡! 少しも印象に残らん薄い顔だ!」


「ぱぇっぱぁぃっ!!」


 可もなく不可もなく至極平凡かつ薄い顔で悪かったなぁ!!

 こちとら典型的日本人顔なんじゃあっ!!


 叫んだ途端にぴたりと言い争いが止まり、慌ただしく足音が近づいてくる。

 上から巣箱を覗き込んだカイルさんが、ほっとしたように頬をゆるめた。


「シーナちゃん! よかった、死んだみたいに眠ってたから心配したよ。どこも苦しくない?」


 私を抱き上げようと伸ばした手を、ヴィクターが忌々しげにはたき落とした。カイルさんが目を見開く。


「ヴィクター?」


「触るな。こいつは得体がしれない。聖獣に化けた魔獣かもしれん」


「ぱええっ!?」


 魔獣じゃないよ!?


 私はびっくりして固まると同時に、悲しくなってしまう。

 せっかく命がけで人間に戻ったのに、これはない。ヴィクターってばどれだけ石頭なんだろ。


 必死で巣箱をよじ登って壁を越え、ぽふんとお尻から着地する。どうやら机の上みたい。

 ささっと周囲を確認するが、いつものヴィクターの部屋ではなかった。が、今はここがどこかだなんて、どうでもいい。


「ぱぇあ~、ぽえっぽえぇ~!」


(カイルさん、違うの!)


「ぱうぅ、ぽ・え・あ・ぁ~!」


(私は魔獣じゃなくて、に・ん・げ・ん!)


 身振り手振りで訴えれば、カイルさんは真剣な表情で聞き入ってくれた。ややあって、得意満面でヴィクターを振り仰ぐ。


「シーナちゃんは、ヴィクターが幻覚を見たんだって言ってるよ!」


(違ぁうっ!!)


 もうやだシーナちゃん言語ー!

 ぱ行+あ行だけじゃ伝わらねぇーーー!!


 苦悩する私を、カイルさんがよしよしと撫でてくれる。ヴィクターがすかさずその手をひねり上げ、苦りきった顔を私に向ける。


「シーナ、今から俺が聞くことに正直に答えろ。頷くか、首を振るだけで構わん」


「ぱえっ」


 おお、ヴィクターにしてはナイスアイデア!

 私はいそいそと頷いた。


「よし。……では聞く。お前は昨夜、人間の女に化けていたな?」


「…………」


 えっと。


 私はしばし首をひねって考え込む。

 長いことうんうん悩んだ挙げ句、迷いつつもふるふると首を横に振った。

 ヴィクターが直立不動で硬直し、カイルさんはぶはっと噴き出す。


「ほら見ろヴィクター! やっぱりお前の妄想……あ痛っ!」


「妄想でも幻覚でもないと言っているだろう! シーナ、お前も嘘をつくな!」


 怒鳴りつけられ、ふうっと意識が遠くなる。


「ぱ、ぱぺぇ~……」


(い、いやだって、嘘って言われても……!)


 ふらついた私を、カイルさんが大慌てで支えてくれる。ヴィクターが「しまった」というように顔をしかめた。


「ヴィクター! シーナちゃんを怯えさせるなって言ってるだろ!?」


「違う。俺は!」


 ヴィクターが反論しようと口を開きかけた瞬間、バァンッと音を立てて扉が開かれた。


「ヴィクター殿下ァッ! 酷いではありませんか、シーナ・ルー様と同伴出勤なさるなどッ! せっかく、せっかく屋敷を訪ねましたのに、シーナ・ルー様がいらっしゃらず絶望に打ちひしがれたではありませんかッ!」


『…………』


 変態神官キースさんのお出ましだった。

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