レディ・デイジー
初夏というにはまだ早いが抜けるような青空から陽光が燦々と降りそそぐ様は
夏の気配を漂わせていた。
キーファーは王宮の敷地内にある池のほとりに案内された。
大きな天幕が張られていて屋外でも暑さを感じなくて済むのはありがたい。
「王宮にもこのような場所があるのですね。」
「子どもの頃からのお気に入りの場所です。」
王女殿下とのお茶会も3回目となるといきなりの砕けた会話に罪悪感も抱かない。
供されたお茶もよく冷やされていて乾いた喉に染み渡る。
「さて、今日の淑女はどのような方かしら?」
「では、明るい日差しのようなレディ・デイジーのお話をしましょう。」
♡♡♡♡♡
レディ・デイジーはよく話しよく笑う陽気な人柄の淑女です。
派手ではないが品があって男女問わず人を惹きつけるような女性でした。
気のおけない関係が心地よく頻繁ではないが長くお付き合いさせていただきました。
ご子息をとても愛されていて、このような関係では珍しく一緒に遊んであげたりしたものです。
庭園にはトピアリー (樹木を刈り込んで動物や幾何学的な模様をつくった造形物)が配されたり
迷路が形作られたりとご子息を楽しませるための工夫が随所に施されていました。
建物も黄色の外壁に赤い煉瓦のアクセントの入った楽しげな外観で、
飾られている絵は動物の子供や遊びに興じる人々など徹底していました。
3人での晩餐を終え、ご子息が乳母に連れられていくと
レディは優しい母親から妖艶な女に変貌するのです。
「ああデイジー、私は貴女ほど人生を楽しんでいる女性に会ったことがない…」
彼女との逢瀬は常に楽しいものでしたが、まったく別のところで彼女の憂いを知りました。
彼女の夫である伯爵様が別の女性を公の場でエスコートしたのです。
これは夫人にとって酷い侮辱です。
それを確認した足で会いに行きました。
「離縁してしまいましょう。あれは酷い。
彼は入り婿でしょう?
そもそも爵位を持つのは直系男子のみです。
実際の伯爵はご子息であって彼は後見人でしかない。
後見人を貴女に変更するだけで済みます。」
あっという間でしたね。
スキャンダルとして騒がれる前に調子に乗りすぎた伯爵家の入り婿は前子爵の三男に出戻りました。
レディ・デイジーは今は領地で元気に采配をふるっているそうです。
たまに手紙をいただきますがご子息もスクスクと育っている様子が書かれていて微笑ましいです。
♡♡♡♡♡
「えーと、レディ・デイジーに愛人は必要だったのかしら?」
「男女は出会いですから必要不要で考えるものではありませんが、
私が出会う淑女は女性としての自分にもう一度意味を見出したい方ばかりです。
やはり身近な男性に大事にされないというのは傷つくものなのでしょう。
せっかく高貴な生まれで女として美しくあれと磨かれてきたのに
その価値を認めようともしない伴侶との結婚生活は決して楽しいものではないと想像出来ます。」
「キーファー様は淑女の代わりに怒ってくれているのですね。」
「ああ、言われてみれば…なるほど私は怒っていたのか。」
「なぜ、何の関係もないキーファー様が怒るのでしょうか?」
「なぜでしょうか。今自覚したばかりなので私にも分かりません。」
「では次回はキーファー様自身のお話しをしてください。」