レディ・ローズ③
伯爵様の愛人にも男の子供がいて、
その庶子を伯爵家に引き取ろうと画策されているようだと悩んでいらっしゃる。
そこまでならばまだ耐えられるが
愛人も乳母として引き入れようとしているのは我慢ならないということでした。
私は、なんだそんなことかと思いましたね。
「レディ、今の貴女に翻弄されない男はいませんよ。
伯爵様とて男でしょう。
つまらない閨事のマナーに従わなければならなかったのはお子様を作られるまででしたでしょう?
私を惑わすのと同じように伯爵様を惑わしてやればよいのです。
貴女本来の価値を正しく認識させた上でなら
可愛いおねだりくらいいくらでも聞いてくれるはずですよ。
愛人様はご領地のどこか独り身の代官にでも世話してもらえばいいのです。
外のお子様の将来も約束されて誰もが幸せになれるでしょう。」
本当に美しく魅力的な淑女でしたからね。
そもそも生まれた時から磨き上げられてきた貴族女性に平民の女など相手にもならないのです。
しばらくして夜会で見かけた時にはご夫婦で仲睦まじいご様子でした。
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「…ハァ、なんというか大人の世界は凄いのですね。
この窮屈な鳥籠から外に出られるなら大抵のことは耐えられるつもりでしたが
想像を超えていました。」
王女殿下の聞こえてはならない本音がダダ漏れてまたお付きが騒ついた。
キーファーはそろそろ頃合いかということでいとまを告げたが、
最後にあまり聞きたくないお言葉をいただいた。
「次回もキーファー様の武勇伝を楽しみにしております。ごきげんよう。」
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アリシアはベッドの中で眠れぬ夜を過ごしていた。
レディ・キラーに垣間見せられた大人の世界は恐ろしくも魅惑的で、
目を瞑るとガラガラと当たり前の日常が崩れ去り
その向こう側から赤黒く脈動する不可思議なオブジェが林立する世界が迫ってくるようである。
ハッっと身を起こしてドキドキする胸を抑えて悶々とするのであった。
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次の日、キーファーは執事より手渡された王宮よりの書状を見て脱力していた。
次回は3日後…さて、スケジュールを確認して調整しなければ。