レディ・ローズ①
仮の名をレディ・ローズとしましょう。
他の話までするかは分かりませんが身分は全て伯爵夫人としておきます。
私は侯爵家の嫡子なのでなんらかの思惑があり得る方とはお付き合いしません。
だいたいはその辺りの身分ということでご想像ください。
30代でも美貌の衰えの全くない大輪の赤い薔薇のような淑女です。
ある夜会で知己を得る機会に恵まれまして、後日お屋敷に招いていただいたのです。
お屋敷の門扉につる薔薇が絡まり、お庭には薔薇園が、エントランスの花瓶にも薔薇と
薔薇づくしで女主人の主張の強さを見せつけるようでしたが非常に品よく配置されていて
かえってセンスの良さを感じられるものでした。
夕方に訪問したので応接室に通されてご挨拶し軽く雑談して晩餐になりました。
先ほどまでお召しになっていた簡素な黄色のデイドレスも可憐で素敵でしたが
黒地に赤の映えるイブニングドレスを纏ったレディはとても妖艶で蠱惑的でした。
彼女は自分の魅力を十分に理解されていて食事中の一挙手一投足から目が離せませんでしたね。
私はレディ・キラーなんてご大層にも呼ばれておりますがとんでもない、
レディの方が一枚も二枚も上手で未熟な私はいつも翻弄されるばかりです。
晩餐後、ボールルームで二人きりのダンスを楽しんでから、
それぞれ湯浴みして寝室へ…といったところです。
♡♡♡♡♡
「…ふぅ」
大人の話の濃厚さにあてられて息を呑んで聞き入っていた姫君が弛緩した。
お付きの侍女と近衛 (女性)も顔を上気させている。
「なんというか…想像よりもロマンチックですのね。」
「遊戯なのですよ、大人の。恋愛遊戯です。
子供っぽいことをあえてやっているところもあるのです。」
「お話しを聞くだけでもとてもレディ・ローズは魅力的な女性に思えるのですが
伯爵様はどうされているのでしょう?
それとキーファー様の何が彼女を惹きつけたのかも気になります。」
「いい質問です。その2つは無関係ではありません。
アリシア様は「抄録 夜の夫婦生活事始め」という冊子は読んだことがございますでしょうか?」
「ええ、それは閨教育で広く使われているマナー本ですね。
もちろん読んでおります。」
「読んでみてどう思いましたか?」
「少し怖く思いました。
女性は耐える覚悟をもって臨むべきという教えでしたので。」
「一般的な閨のマナー、常識としてはそうなっていますね。
・夫は酒や媚薬などを用いて準備する
・妻は横たわって力を抜いて待つ
・夫は準備が整ったところで香油を塗り事に及ぶ
・妻は身動きせずに大人しく終わるのを待つ
ですが、この「抄録 夜の夫婦生活事始め」の元となっている
「夜の夫婦生活事始め」はそのような意図で書かれていないとしたらどうでしょう?」
「そうなのですか?しかしそのような書籍を見たことがないのですが。」