王女とのお茶会
王宮の庭園に従者を伴い入って来た若い男性を
四阿から見ていたアリシア王女は少し驚いた。
レディ・キラーと呼ばれる件の男は想像よりも若く、
淫美な雰囲気が微塵も感じられなかった。
「キーファー・ラムゼイがアリシア王女殿下にご挨拶申し上げます。
本日はお招き頂きまして光栄の至りです。」
「ラムゼイ卿、お久しぶりですね。
来てくださりありがとうございます。
まずご着席ください。楽になさって。」
お披露目の席で挨拶されたはずだがまるで記憶がない。
大量の貴族からの挨拶を流れ作業で捌いていたのだから当然であるのだが。
少しでも面識のある人には古くからの知人であるかのように振る舞うのが王族貴族のマナーである。
一通り時候の挨拶なども済ませ、
お茶と菓子にも口を付けて型通り感想など述べて落ち着いたところで、
「…」
「…」
「…ラムゼイ卿?あの、何かお気に召しませんでしたか?」
「あ、いいえ、十分満足しております。
いい天気だなぁと庭園の居心地の良さに少し呆けておりました。
私のことはキーファーと呼んでください。
ご令嬢とお話しするのに慣れておりませんので気が回らず申し訳ありません。
王女殿下はどのようなお話しがお望みでしょうか?」
こんなにやる気のない相手は初めてであるので少し面食らってしまった。
かといって、侮られているようでもない。
思うに自分の悪評に自覚があって初手から候補にもならないと考えているのだろう。
気楽な話相手といったところで本来のお茶会として愉しめそうだと
心の中のアリシアがガッツポーズした。
「なるほど、ご令嬢には慣れていない、と。
キーファー様、では私のこともアリシアとお呼びください。
私はレディ・キラーの武勇伝を是非お聞きしたいですわ。」
王女が評判の悪い男に名前を呼ぶことを許すと後ろに控えるお付きが騒ついた。
キーファーも直球で武勇伝を聞かせろと言われたのは初めてのことで少し驚いた。
その手の話は蔑ろには出来ないステータスを持つお相手のことを考えると
興味はあっても深くは聞けないものである。
「おやおや、その巫山戯た二つ名を王女殿下までお聞きお呼びとは面目次第もございません。
ですが、それについてのお話は少々下世話な事柄を含みます。
ご成人されたばかりのお年頃のご令嬢にお茶会の席で話す話題として不適切ではございませんか?」
「是非に、と申しております。
それと私のことはアリシアとお呼びください。」
「失礼いたしました、アリシア様。
では…そうですね、話に出てくる方については仮名とさせていただき、
この場にいらっしゃる方には他言無用ということでお話ししましょう。」