メリッサ・シモンズ①
王宮の敷地奥に佇む小さくとも優美な宮ーアリシアの住む王女宮である。
この宮に立ち入った貴族は侍女などの使用人以外では皆無である。
そこに案内されたキーファーもその意味するところは分かっている。
であるからには話さなければならないだろう、レディ・キラー誕生の物語を。
「キーファー・ラムゼイがアリシア王女殿下にご挨拶申し上げます。
本日はお招き頂きまして光栄の至りです。」
「キーファー様、ここまでお越しいただき、ありがとうございます。
まずご着席ください。楽になさって。」
お茶会の一連が終わり、
「ええと、まず…そういうことですか?」
「ええ、そういうことです。」
「なるほど…
では、お約束の私自身の話をしなければなりませんね。」
♡♡♡♡♡
彼女との出会いは3年前、私が15歳の時、仮面舞踏会ででした。
貴族の男女がひとときの享楽を求めて集うもので、
顔を仮面で覆うことによりただの男と女として大胆な振る舞いが出来るという趣向ですね。
私もまだ子どもでしたから友人に誘われるままに来てしまいましたが、
正直戸惑っていました。
そこでちょっとした騒ぎがあったのです。
近衛騎士の制服を着た男が淑女の手をとり無理矢理引っ張っていこうとしていました。
「おい、観念して大人しく着いてこい。
ちょっとの間、昂ぶった俺の相手をすればいいだけだ。
オマエは例の淫乱女だろう?そそる身体してやがるぜ。
そんな仮面ごときでは隠せやしないんだよ!」
「手を離してください!
私はそんなんじゃありません!」
呆れました。
近衛騎士の制服を仮装で着ることはあり得ない。
近衛騎士を騙ったら重罪ですから。
つまり本物の近衛騎士が淑女に乱暴を働こうとしているところでした。
「おい君、そこの近衛の人!
王家をお守りする立派な騎士様が淑女に乱暴するなんてあってはいけないことだ。
少し酒に酔っているのではないかな?」
剣呑な目を向けられましたが
間抜けにも普段の制服を着ていたことに気づいた暴漢はすぐにその場から立ち去りました。
「お怪我はございませんか?」
「助けていただきましてありがとうございます。
申し訳ありませんが、気分が優れなく帰るところでした。」
「では馬車まで送りましょう。お手をどうぞ。」
彼女は毅然としているようでしたがエスコートのため手をとると細かく震えていました。
馬車に乗せるとようやく落ち着いたのか後日お礼をということで住所をメモ書きして渡されました。
彼女の名前はメリッサ・シモンズ。
前シモンズ男爵の未亡人でした。