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贋作に隠されたもの.6


 アロイの話を聞いて体が硬直する。


 レオンハルト様がここに来ている? 

 今日は王宮で仕事をしているはず。多忙なレオンハルト様が、イネス様に呼ばれてくるような用事。


 自惚れかも知れないけれど、私しか考えられなかった。それなら、どうしてこの部屋を訪れてこないの?


 嫌な予感が全身を走る。

 エステル嬢の家でみた媚薬が頭をよぎった。


 もしかして……


「アロイ、今イネス様……いえ、エステル嬢はどこにいるの?」

「さあ、……俺を迎えてくれたのは使用人だったから。でも、レオンハルト様が来ていらっしゃるなら多分来客用の部屋じゃないかな?」

「それ、どこ? 案内して!!」


 私のただならぬ様子に戸惑いながらも、分かったと頷くと扉へと向かう。


 長い廊下を走り、階段を二階まで駆け上がると、アロイはさらに廊下を奥へと走っていく。

 慣れないヒールは階段の下で脱ぎ捨てた。全力であとを追いかけると、一番奥の扉の前でアロイが待っていてくれた。


「ここ?」


 アロイが頷くのを見て私は息を大きく息を吸い込む。

 そして、ノックをせずに扉を開け放った。


 


 目に映った光景に言葉を失う。


 エステル嬢を組みしだくレオンハルト様の背中を呆然と見つめる。


 ……何故か迷うことなく、媚薬を飲まされていると思った。


 止めなきゃ、

 でもどうやって?

 解毒剤なんて知らないよ!?


 嫌だ。その感情だけははっきり分かる。


 たとえ媚薬のせいでも、レオンハルト様が私以外に触れるのは嫌だ。


「あらあら、いったいどうしたの?」


 強い香水の香りと一緒に艶のある声が背後から聞こえた。

 振り返ればイネス様とそれからもう一人……画商のエバ―ソン様。


「まぁ、これはいったい。……リディ様、申し訳ございません。でも、これが現実なんですよ。エステルから相談を受けていたのですが、二人は以前から心を通わせて……」

「それは嘘です」


 私があまりにもきっぱりと断言したものだから、イネス様は目を見開く。そして扇子で口元を隠し憐れむような視線を向けてくる。


「信じたくない気持ちはわかりますが、ではこの状況をどのように考えていらっしゃるの?」

「どんな状況だろうと真実は変わりません。レオンハルト様はエステル嬢に従兄妹以上の感情は持っていません」


 この数ヶ月、私はずっとレオンハルト様を見て来た。私は自分が見たこと、聞いたことしか信じない。


「あぁ、その通りだ。俺が愛するのはリディだけだからな」


 急に背後から腕が伸びてきて、私の首と肩を抱きしめる。よく知った香水の香りが私を包む。


「レオンハルト様?」

「安心しろ、俺は媚薬を飲んでいない」


 飲んでいない。

 媚薬を……


 いやいや、ちょっと待って。

 それじゃ、媚薬なしであの体勢だったってこと?

 そっちの方が問題じゃない?


「ま、待て、誤解だ。さっきのは媚薬を飲んだ振りをしてエステルから知っていることを聞き出していただけ……って話を聞け。暴れるな」


 必死で腕を振りほどこうにも、力が強くてびくともしない。

 抵抗するほど腕の力が強くなる。


「媚薬について聞き出した?」


 イネス様の言葉に、はっと気づく。そうだ、確かにレオンハルト様は先程そう言っていた。

 

「エステルはお前から媚薬を貰ったと言っていたぞ」

「何のことかしら? あれはエステルが薔薇から作ったもの。是非レオンハルト様に飲んで欲しいと言っていたけれど、それがどうかされたのですか?」


「なるほど、あくまでもシラを切るつもりか。だが不思議に思わないのか? どうして俺が媚薬を飲まなかったのか」


 やっぱりエステル嬢が作っていたのは媚薬だったんだ。

 そしてレオンハルト様は、媚薬の存在を知っていたみたい。


「この国だけでなく、近隣諸国で最近新種の媚薬が出回っていると問題になっていてな。各国で連携を取りたいので仲介役を頼むと国王から依頼があったんだよ。おかげで二週間ほど寝る間もないほど忙しかった」


 二週間。そういえばエステル嬢が居候していた時、レオンハルト様はいつも以上に激務だった。普段は私やダグラス様に仕事を振ってくるのに、それさえされなかった。


「極秘任務だったので、内容を言えなかったんだ」


 まるで私の心を読み取ったかのように耳元で囁かれた。

 もう暴れていないのだからいい加減腕を離して欲しいのに、そのつもりはないみたい。

 

「その時、衛兵が没収した媚薬の匂いを嗅いだ。それと同じ独特な甘ったるい匂いが、エステルが淹れた紅茶からもした」


 そうか、だからレオンハルト様は紅茶を飲まなかったんだ。

 そして、媚薬を飲んだ振りをしてエステル嬢の反応を伺った。

 ……なんだろう、理屈は通っているのに胸がモヤモヤする。


「衛兵を呼ぶので、詳しい話は彼らにしてくれ。俺が飲まなかった媚薬入りの紅茶はクッションに沁み込ませたから、あれも証拠になるだろう」

「レオンハルト様、それならもうすぐ衛兵がきます」


 私の言葉にやっと腕の力が弱まる。その隙に身を屈め、スルリと腕の下からすり抜ける。小柄な身体もたまには役にたつ。


「贋作を描いた人物を見つけました。今、一階で逃げないようエイダが見張っています。衛兵はハンナが呼びに行ったので間もなく来ると思うのですが」


 そこまで言って、衛兵が来るのに時間がかかっている理由に思い至った。

 なんてことはない、レオンハルト様がここにいるからだ。

 でも、ハンナのこと。多少手こずってもどうにかして呼んできてくれるでしょう。執務室にはダグラス様がいるから、代わりに応対してくれるかもしれない。


「贋作の作者が見つかった……」


 初めて聞く低い声の主をみれば、そこには顔をこわばらせたエバーソン様がいた。


全38話になりそうです。まだ推敲しなきゃいけないので次回は火曜日投稿予定です。


お読み頂きありがとうございます。興味を持って下さった方、是非ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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