プロローグ
とある屋敷で、今宵も宴はひっそりと、しかし華やかに開かれる。
小さな弦楽器のキットが軽快な音楽を奏でる。そこに小型ピアノのオルフィカが加わる。
華やかな演奏の中、蜂蜜を溶かしたような金色の髪が宙を舞う。顔半分はベールでよく見えない。醜い傷跡を隠していると専らの噂だが、真実を知るものはいない。
目が覚めるような深い青色の瞳が、くるりとターンするたびに客席に向けられる。目線があったと男達は騒ぎ、再びその瞳に映ろうと身を乗り出す。
一曲終わり、踊り子が客席にやってきた。話すことができない彼女だが、その容姿から男達は隣につかせたがる。
お酌をしようと、ワインを手にした彼女の前に、客は小瓶をちらつかせた。ピンクとも紫ともいえる、淡くキラキラした液体が入ったその小瓶からは、何やら蠱惑的なものを感じる。
「飲んでみないか? 最近流行りの健康薬だ」
青い瞳はじっとそれを見つめたあと、金色の髪をふわりと振って、拒否を示す。
「中々手に入らないない液体さ。ちょっと癖のある甘みだけど、飲めないことはない」
(癖のある味なら、勝手にグラスに注がれることはない)
踊り子はそう思う。
「おい、それ、例の媚薬か?」
「な、何を言うんだ。違うよ、違うからな、こいつの勘違いだ」
不意に後ろから声をかけられ、小瓶を持った男はあからさまに狼狽える。
「隠すな、隠すな。同じ穴の狢」
「なんだ、お前もあいつから買ったのか」
「ここまでの上物は初めてだ。一度使ったら手放せない。その小瓶、俺に売ってくれないか?」
男達は下世話な話に花を咲かせる。
踊り子は新しいグラスを取りに行くふりをして、さりげなくその場を離れた。
雇用主に知らせようと部屋の隅に向かうも、途中で手を掴まれ強引に座らされた。
「先程の踊り、素晴らしかった。異国の人間か?」
踊り子は面倒だから頷いた。
半分正解で半分嘘だ。
しかし、虚構舞う宴の席。嘘が半分なら上出来の部類。
「あの男も異国からきたらしい。なんでも絵を売っているとか」
男が指差した先には、数えきれないぐらいの酔っぱらいがいる。分かったフリをして頷きワインを差し出せば、男は上機嫌に飲んだ。
最近は宴に異国の人間も加わるようになった。どれも胡散臭い人間ばかり。
男の手が太腿に伸びてきたところで、タイミングよく音楽が鳴り始める。
踊り子はその手をさらりと躱し、再び舞台へと向かう。
宴は虚構の世界。
嘘と偽り。
しかし、どこかで現世と繋がる。
この国で、貴族が喉から手が出るほど欲しがる金色の髪と青い瞳。
その二つを持つこの踊り子だけは、虚構の世界の幻として今宵も華麗に舞い続ける。
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