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甘々のアマ

 グラマスの心の内には、怒りでも焦りでもない、何か(・・)が渦巻いていた。勿論、本人はそんなことを知る由もなく、更には気づこうともしない。

 ただ、不思議な感覚だけが、グラマスを包み込んで放さない。

 こんなの初めてだった。


「終わるのは、お前だァ!アサミ・イナバァ!!」


 クラッシュライノスの右腕が最大限まで出せる速度で前へ前へと突き進んでいく。所謂、正拳突きと呼ばれるものだ。勿論ただの正拳突きではなく、全身に熱圧縮エネルギーが行き渡り、更にはヒート・ナックルを装備している。

 つまり、クラッシュライノスの出せる最高火力が今、解き放たれんとしているのだ。

 しかし、今のスノウラビットにそれが効くのか、考えてもいなかった。

 怒りでもなく、焦っているわけでもない。


 ならば、グラマスの内から(みなぎ)って来る()()は何なのか。言ってしまえば、ただただ、『必死』なだけである。


 クラッシュライノスの全力の正拳突きを、スノウラビットは機体ごと回転させながら避ける。ヒート・ナックルの周りを旋回しながらヒート・アサシン・ナイフで切りつける。その回数。わずか数秒ながら20は超えていた。

 そしてヒート・ナックルを切りつけた後、そのままナイフを掌の、熱圧縮弾を発射する発射口に突きつけ、そのまま射し込んだ。そのナイフをスノウラビットはすぐに回収する。

 すると、右腕は真っ赤に燃え上がった後、小さな爆発を何発も連続して引き起こす。


「な、何だと!?」


「さっきまでずっと傷をつけてたの。そしてその傷は内部回路━━あんたのその機体の場合なら熱圧縮の導線すらも傷ついて、そのまま爆発する。そしてその爆発は、掌から通って行って、上腕筋、上腕二頭筋、上腕骨、そして肩の部分まで到達したらどうなるかくらいの想像はできるでしょう?」


「……そういうことか。つまり、腕を伝って胸部にあるコックピットをそのまま爆破させてやろうって魂胆か。だがそれは、甘い考えだったなァ!()()()()()()()んだからなぁ!!」


 そう言ってクラッシュライノスは左手で自らの右腕の肩から先を、そのまま引き千切り投げ捨てた。ふわふわと宇宙空間に浮かんでいく右腕は、小さな爆発をまだ続けている。


「それをドヤ顔でやってのけて、『甘い』、なんて言うところがもう甘々のアマ(・・)なのよッ!!」


 クラッシュライノスが右腕を放り投げていた時には既にスノウラビットは左腕付近に移動しており、今度は左腕の掌にヒート・アサシン・ナイフを射し込む。


「なんのために両腕を攻撃していたと思っているの?そんな荒業をされても対処するために決まってるじゃない。あなた、戦争向いてないわよ」


「ふざッ━━けるな!!アサミ・イナバァ!!まだ終わっていない!!お前との戦いには、俺が終止符を打つッ!!」


 グラマスは、こうなる事など分かっていた。と言うより、スノウラビットがこうなっているという事実に気づいたときから既に、『自分は詰んでいた』ということに気づいていた。言ってしまえば、なんともまぁ長い悪あがきだ。

 左腕が徐々に爆発していっているクラッシュライノスは、その件の左腕でスノウラビットを掴む。スノウラビットの上半身を覆ってしまう程の巨大な掌(ヒート・ナックル)は、やはり強い兵器だとアサミは確信した。


「でも、悪いわね。こんなんじゃ死ねないの」


 スノウラビットがどんな動きをしたのかは分からないが、いつの間にかヒート・ナックルの五指は全て切り刻まれており、スノウラビットはヒート・ナックルから既に逃れていた。

 グラマスはその行動の速さに、叫び声を上げることすら叶わなかった。

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