『いざ尋常に勝負』
グラマスは、自分の感情を抑えられていないことを既に自分の中で感じていた。ただ、目の前に『最強』がいたら、どんな状況でも、挑みたくなってしまうのだ。
それが、グラマス・パナ・ゴーマスという男の生き様である。
「なぁ、イナバシロウサギ……。こういう時って、どういった言葉が正しいか知らねんだよ。何だ?お前名前からして、『ニホンコクセキ』ってやつだろ。だからさ、俺も日本語で話してやりてぇのさ。ただ、勝負開始の正しい言葉遣いってのが分からねぇからさ、まぁ、間違ってても許してくれよ」
「ダラダラ、ダラダラ……。何が言いたいの?」
「まァあれだよ。いざ尋常に勝負ってやつだよッ!!」
結局グラマスが何を言いたかったのかは分からないが、分かる。
グラマスの乗るクラッシュライノスの剛腕がスノウラビットを襲う。しかし、スノウラビットはそれを見切っていたかのようにヒート・アサシン・ナイフを腕にこすり合わせるようにして避けきる。
「うるっせんだよ、『剛腕の死神』!!」
「口悪ィ!!テメェ、女か本当に!?」
口が悪いのはお互い様だ。と言うより、戦場でダラダラと敵とおしゃべりしている方がおかしいのだ。
━━とか言うような話をしている間にも、実はグラマスは拳の突き出しを既に五回はしている。
「クッ、━━あんた、性格悪いって言われない?」
「言われねぇなぁ」
この会話の間にもパンチが二発。
巨体と剛腕からは想像もできない、圧倒的な攻撃速度。物理法則を則っていないその戦い方は、見る人が見れば不自然だが、アサミとしてはそれがむしろ厄介だったりする。
(チィッ、面倒くさいわね……。時間は今……3分24秒……。まだもう少しだけ耐えないと━━)
アサミはコントロールマウスの上にある小型のモニターを見ながら言う。そのモニターには分と秒が記録されており、着々とカウントは進んでいる。
アサミにとってこのカウントは、進むごとに勝ちが近づく、言わば勝利へのカウントアップであった。
━━何かがおかしい。
グラマスは目の前の白いASCOFを殴りながら思う。その殴った拳は正確にはかすめているだけであり、殆どのダメージは入っていない。
(攻撃が全く当たらない……。と言うより、攻撃がずっと躱されてる。それが凄いとかいうそんな単純な問題じゃない。『攻撃してきてない』のか)
グラマスの感じていた違和感。
それは、あの『イナバシロウサギ』ともあろう、とんでもパイロットと機体を持ってして、攻勢の瞬間を見ていないことにあった。
そうだな、強いて言えば━━
時間稼ぎ。
この考えに辿り着いていた時には、グラマスの口は既に動いていた。
「なるほど、時間稼ぎか。なるほど……。しかしだなァ、俺のこのクラッシュライノスは戦艦の主砲を浴びても墜ちない、最強の機体だぜ?ウサギさんがどんな小細工をしようと、俺には勝てないぞ?」
「へぇ、そう。じゃあ、あんた倒した時に、たっぷりとバカにしてやるわ。そんなウサギさんに負けるようなへっぽこサイをね」
アサミとグラマスが出会ってから、5分が経過した。
「5分ッ!私は、アサミ・イナバはこのタイミングを待っていたのよ!」
アサミがそういうと、スノウラビットの手元が赤く光りだした。
いや違う。手が光ってるんじゃあない。握っているヒート・アサシン・ナイフが光っているのだ。そしてこの光は、ASCOFのパイロットであれば知っている光。
熱圧縮装置がオーバーヒートした時の赤い光である。




