決戦前夜
宣戦布告、翌日。
<イカロス>の中は混乱に満ちていたが、その中でも混乱してはいけない━━いや、混乱を自らの手で抑えなければならない者達が、軍人である。
「これから作戦行動の詳細発表をする!一度しか説明しない!聞き逃した者は戦場で死ぬと思え!」
ピーターはまるでキャラを変えたみたいに言う。
ここは<イカロス>軍事基地の広場のような場所である。<イカロス>における軍事関係者たちが集まるには十分な広さであり、実際、その全員がこの場に集っている。
無論、アサミ・イナバもこの中にいる。
「この戦場では、数対数の大規模戦闘が行われると推測する。そう考えた場合、我々の戦力、特にASCOFの数では圧倒的に足りないことが明白である!」
それもそうだ。現在、<イカロス>におけるASCOFの数はスノウラビット、バーストタイガー、クワイエットビーくらいだ。しかも、それぞれがアサミ・イナバのASCOF、テイム・プロスルのASCOF、ラァラ・マリンスノウのASCOF、と、その全てが専用機である。
だから、戦闘力が高いとは決して言えない。少数精鋭なんて言葉があるが、流石に少数が過ぎるだろう。
「しかし、今ここで、発表しようと思う!我が<イカロス>の最先端ASCOF、『キラーアント』を!」
そう言ってピーターの後ろにおもむろにかけてあったカーテンが、バッと横に開いた。すると、真っ黒なASCOFがそこには存在した。
これこそが、キラーアントである。
「キラーアントは<ノア>との共同開発で極秘に作られたものだ。そしてこのASCOFは量産されており、その数、ざっと一万に達するだろう。」
一万、という数を聞いて、多くの兵士たちはその事の重大さと圧倒的兵力に驚きを隠せなかった。多くの学徒兵たちも、ざわつき出す。
「まさか、量産機か?」
「どんだけの量の宇宙獣を狩ったらこうなるんだ?」
「これで俺もASCOFに乗れるってことか!?」
そんな数多くの声を、ピーターは手を上げるとともに抑え込む。
「よって、この量産型ASCOF、キラーアントによる艦隊戦を決行するべく、それぞれ、我が国のエースパイロットを軸としたチームを組んでもらう。アサミ・イナバ、テイム・プロスル率いる、A部隊、ラァラ・マリンスノウの率いる、B部隊、アロマダイト・セロウの率いるC部隊、ローン・ミルカーナ率いるD部隊の、四部隊に構成し、戦闘する!後で部隊担当者から、配置、戦闘作戦を確認するように!」
ピーターは確認事項を言い終わると同時に息を吸って吐き、全員にマイク越しに聞こえるくらいの声量で呟いた。
「最後に、あなた方には死んでいただきたくありません。生きて……。生きて帰ってきて下さい」
そう言い残すと、後ろに下がっていった。下がっていくピーターの目は、少し光っていた。
しかし、アサミにもテイムにも、はたまたマヒルにも理解った。その涙は軍の士気を底上げするただの作り物、演技に過ぎないと。




