<エキドナ>強襲作戦 其の二十一
「ど、どうなっているんだ……」
ガァルはほぼ瀕死の中、絶望の光景を目にする。
目の前で、生まれ育った国が宇宙の闇へと消えていく。それがどれほど辛いことかなんて、他人にはわからないだろう。涙も流れないくらいに疲弊しきったガァルは、抗う術も知らず、ただ眺めるだけであった。
ガァルの心に、一つの思いが現れ、それが増大し、ガァルの決意へと変わった。
「ヘイ、ブン……。お前だけでも、逃げろ」
ヘイブンを、逃がすという決意だ。
「なッ、何を言っているんですか、大佐ァ!大佐こそ、帰投するべきです!大佐が逃げてください!」
「逃げる、だと━━?後ろを、見てみろ、帰る、場所が、どこに、ある?逃げる、場所が、どこにある?」
ガァルが声を絞り出して言う。その声にはどこか、悲哀の感情を、理性が無くなったヘイブンでも感じ取れた。勿論、ヘイブンの後ろには、力なく虚無な宇宙の中に浮いている<エキドナ>だった鉄の塊が、無造作にそこにあるだけである。
「それに、ヘイブン……。お前は、兄貴の命を背負ってるだろ……。お前が逃げるに相応しい」
ガァルは、コックピットのカメラに映る、ヘイブンのヴァリアブルピッグブランが抱える黒い装甲を見つめながらそう言い放った。勿論、その装甲の裏にヘイルがへばりついているわけもない事は、ガァルも理解している。
「ヘイブ、ン……。最、後の、命令、だ……」
「━━大佐ッ……!」
ヘイブンは涙を堪えて、下を俯く。ガァルの顔を、どんな顔をしてみればいいのか分からなかったから。
「り、了解です、大佐……。どうか、ご無事の帰還を、心待ちにしています━━ッ」
ヘイブンの機体は、そう言い残すと、<エキドナ>跡を避けるように後ろに駆け抜けていく。どこか、遠くへ。目的地は無い。
「敵機、一機逃げ出したぞ!追えッ!」
「「了解!」」
バンディックの指示によって、逃げ出したヴァリアブルピッグブランを追うために二機のナイトモスキートがバーニアを吹かす。
しかし、そのナイトモスキート達の前に、ヴァリアブルピッグMK3が立ち塞がる。
「いィ、行かせるかよ……。こっから先にはァ、行かせ、ネェ……」
口元を自らの血で濡らしながら、最後に残った一本のヒート・ソードを構えながら言う。
(ヘイル、俺も今から、地獄に行くからな……)
「構うな!追え!生き残った目の前のコイツは俺とバンディック少佐でやります!━━いいですよね、バンディック少佐?」
「ん?あぁ、ありがとう、モスマン中尉」
━━その後ガァル・アル・ロイヤルは、誰を倒すでもなく、エキドナを背にしながら宇宙の闇の中に葬られた。しかし、ガァル・アル・ロイヤルの努力の賜物とも言っていいのだろう。逃げ出したヘイブン・アローとヴァリアブルピッグブランは72時間もの捜索の末、見つかることはなかった。一体どこへ逃げ隠れたのか、それは<アポロン>の誰も知らない。




