絶望(<エキドナ>強襲作戦 其の二十)
放たれた【ガルガンチュア】は、<エキドナ>を中心から徐々に飲み込んでいくので、逃げるには外側に逃げるしかなかった。
「うわァァァん!うわァァァァァァァん!」
とある家の中、赤子とその母が一緒に暮らしている家である。
赤子が泣きわめくのを、ただ、母はあやすだけである。赤子の直感というやつだろうか。この状況に、助けを求め、泣きわめくという選択肢を取ったのだから。それとも、単純に、悲鳴を上げながら走っていく外の人集りを見て、単純に、本能的に、泣きわめいているのか。
それは赤子ですら分からないが、この赤子も、その母も、もう、残り時間が少ないということは確かである。
母は、泣きわめく赤子を強く抱きしめ、迫りくる死から庇うように赤子を覆いかぶさりながら抱きしめる。
そんな感動的な親子を、無情にも、【ガルガンチュア】の光は飲み込んでいく。
<エキドナ>の住人達はなるべく外側に逃げていく。
ただの一般人でも、中心から死が迫ってきている事は分かり得ることだ。そして、そんな人間の考えることも、大多数が一緒である。
「おい、ここから出してくれッ!街の中心からレーザーみたいなのが迫ってきてるんだ!あんたしかいないんだよ!」
こう言う男とその周りにいる大勢が訴えかけているのは、航宙会社の若い男のパイロットである。
そう。この場所は、<エキドナ>の一番端に位置する旅客機の発進所である。
分かりやすく言えば、小さな滑走路のようなものだ。
「し、しかしっ、そう言われましても、上からの許可がないと発進できないわけで……。勝手な発進は規約違反となってしまいますので……」
「そんな事言ってる場合じゃねぇだろォがよォ!いいから、出せるだけ出せよ!一人でも多く命が救われるんだよ、それで!」
「そんな事言われたって、規則は規則なんです!僕にその規則を捻じ曲げる権利も、勇気もありません!」
パイロットの男は、はっきりと、声を大にして叫んだ。
「第一、ここに旅客機があっても発進できません!今は軍が戦闘機の発進場所としてここを使用しているんです。だから僕には権利がないんです!勘弁してくださいよ!!」
パイロットの男のその声で、一瞬、辺りが静寂に包まれた。
しかし、そんなことを言われたって、死にたくないのはここにいる誰もが一緒だ。だから、周りにいる人集りは圧倒的大多数の意見によってパイロットの男の意見を捻じ曲げ、また騒ぎ出す。
「そもそも、軍が使ってるからなんだ、勝手に戦闘機でも使えば何人かは逃がせられるじゃないか!」
「そうよ!そもそもあなたに動く気がないから、あなたがもっと真面目に動かないから私達がこうして困り果てているんでしょう!?」
「そう言われましても!僕には何も━━」
パイロットの男の周りに人が密集していたため、周りの人間は気づかなかったが、パイロットの男だけはその瞬間を目の当たりにしてしまった。
一番うしろにいた一人の男が、突如そこに現れたレーザーのような光によってドロドロと溶け出したのだ。
その真横に立っていた女は、その光景を見て絶叫した。
「キャァァァァァァァァァァァァァア!!!!!」
その後は、言うまでもない。
パイロットの男の胸ぐらを中心で抗議していた男が掴み、ずっと吠えてくる。
しかし、その遠吠えも虚しく、パイロットの男ごと、赤い光に消却されてしまうのだ。
「ひ、酷い……」
<エキドナ>が【ガルガンチュア】に焼かれていく光景をASCOF越しに見ていたバンディックとモスマンは、開いた口が塞がらなかった。
「どっ、どうなっているんですか、バンディック少佐!こんなの、作戦には聞かされていませんでしたッ!」
「俺も分からんッ!━━ただ、一つ言えるのは━━」
バンディックは涙をこらえながら口にする。
「━━一つ言えるのは……ッ!こんなの、人間がしちゃいけないってことだッ……」




