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<エキドナ>強襲作戦 其の九

 モスマンの戦闘開始という言葉を合図に、ナイトモスキート全機が動かんとする。


「おぉい、ちょっと待てよ」


 しかし、それを静止する声が聞こえた。

 この声、先程聞いた声だ。

 名は確か━━ヘイブン・アロー。


「まぁ、戦うのもいいんだが……。この場に()はいないのか?もしいたら名乗り出てほしいんだよ。そいつを捕まえて、国に持ち帰ってやるからよォ」


「貴様、何を言っている?ヘイブン・アロー。交渉ならこの、モスマン・ファールが応じるぞ?」


「別に交渉ってわけでもないさ。ただ、俺ら<エキドナ>は、この戦いに勝っても負けても損害が大きそうなんでね。女は高く売れるらしいから、いるんだったら名乗り出てほしいんだよ」


 ヘイブンの言っていることはふざけているとしか思えない。

 誰が聞いてもそうだ。

 しかし、この状況下でそんな提案を許さないのは、味方だけでなく、敵も(・・)同じだった。

 そう、ヘイル・アローの声が割り込んできたのである。


「おい、ヘイブン!それ以上はやめておけ。この場にいる全員を捕虜にすれば、そんな事考える意味もないんだぞ。だからこれ以上何も言うな!」


「ハッ、嫌だね。だって、金があったら、俺と兄さんは楽しく暮らせる。それに、国も復興される。━━まぁ、女を一人二人売って金にしたところで、大した金額にはならないと思うがな。ただ、補助としての募金くらいにはなるだろ」


 ヘイブンの声には、どこか何かをバカにするような、あざ笑うような感情がこもっている気がした。


 そんな時だった。


「キ、キヤァァァァァ!!」


 女性の、甲高い、悲鳴が耳の鼓膜を刺激したのだ。

 それは、ナイトモスキート隊の唯一の女性兵、ナタリー・ベイスクの声だ。

 そして、その悲鳴が聞こえた瞬間、後ろで待機していたナタリーのナイトモスキートが真後ろに向かって一直線に逃げ出した。

 ヘイブンの数々の言葉による恐怖が彼女をここまでの状態にしたのである。


「やっと出たか、女ァ!」


 ヘイブンは嬉しそうにコントロールマウスを押し込む。

 ヘイルも、それを横目で追いながら軽く微笑んで言う。


「全く、無茶をする弟だな、ヘイブン」


「━━!?な、まさか、お前ら、今までのはすべて演技だったというのか!?」


 モスマンは信じられないと言わんばかりにコックピットモニターを叩いた。


「当たり前だろ。ヘイルは人を騙すのが得意でな。その演技に俺も乗ってやったってわけさ」


「なッ━━!」


(こんなことってあるか!?敵の口車にまんまと乗せられ、オマケにナタリー少尉までも危険にさらしてしまった!既に俺はもうこの隊の臨時隊長として失格なのかも知れない……。━━いや、まずはそれよりもッ!!)


 考えるのは、後悔するのは、タラレバを言うのは、この後でも遅くない。

 今はただ、ナタリーを助けることが優先である。

 モスマンはコントロールマウスをおしこみ、兎に角、さっきナタリーのナイトモスキートを追っていったヘイブンを、追わなくてはならない。



「モ、モスマン隊長!?」


「俺がナタリー少尉を救い出すッ!他の機体は常にそのヘイル━━黒いヴァリアブルピッグを見張っていろ!」


「そんな事、モスマン中尉にだけ任せられません!」


「あぁ、そうだな、俺らも何機か加勢しに行くぞッ!」


 そう言って、モスマンの後ろに更に二機のナイトモスキートが取り憑く。


「……分かった。ただ、死ぬんじゃないぞ?」


「「了解ッ!」」

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