思想の肯定
やっと毎日投稿復活できるかもしれんぞ、これは……
「な、なんですか?」
思わず聞き返してしまった。
この先を聞いていいのかという不安に駆られるが、それよりも内容が気になって仕方ない。
「私、思うのです。どうせ<イカロス>も<アポロン>も同じような世界を目指すのなら、いっそのこと<アポロン>の思想を肯定してみようかと思いまして」
「「!?」」
これにはアサミだけでなく、マヒルも驚きを隠せない発言だった。
「な、なんで!?あなたは<イカロス>の人間じゃないですか!?」
「ええ、私は<イカロス>で活動をしています。ですが、<イカロス>で住んでいるからと言って、<アポロン>の思想を否定しようとは思いません。だったら、いっそのこと<アポロン>の思想を肯定してみるほうが、楽しめるかと思いまして」
そう言いながら、ピーターは手元のガラスコップに入った水を一口飲む。
それだけの動作で、ピーターはわざわざこれを言いたいためだけにここに呼んだのだと分かった。
そう、これだけのために。
ピーターは席から立ち上がると、言い放った。
「では、私は言いたいことを言い終わったので……まだ話しておきたいことはありますか?」
あぁ、話なんて山ほどある。聞きたいことが、山ほど。
だが、これだけは聞かなくちゃならない。
「━━じゃあ、一つお聞きしますが、何故ピーターさんは、マヒルの事をマヒルさんなんて他人行儀な言い方するんですか?兄弟ですよね━━?」
マヒルの顔が一気に青ざめた。
アサミからすれば、ずっと疑問に思っていたことを聞いただけであったが、この兄弟たちにとってはあまり聞かれたくない話題ではあった。
「そうですねぇ……マヒルさんは確かに兄弟です。ちゃんと血も繋がっています。━━しかし、それ以上に考えが合わない。まるで磁石のS極とS極同士で生まれてきてしまったみたいな感覚です」
ここでマヒルが唐突に口を開いた。まるで、中に溜まっていたものをすべて吐き出すように。
「あぁ、そうだな。兄貴と俺の考えは一切合わない。そんなの、知ってたことだ。今日、お前の話を聞いててもそう思ったよ。お前は、俺と考えが合わなさすぎる。俺は<イカロス>生まれ、<イカロス>育ちの人間だからな、<アポロン>の思想なんて考えたこともなかったよ。━━まぁ、そんなもの考えたところで俺の国への忠誠心は変わらないがな。むしろあれだろ、兄貴のさっきの話をすれば、国家反逆罪だろ?」
マヒル自身も、結構喋ったと思う。
何が、どんな言葉が帰ってくるかもわからないので、マヒルは内心、ビクビクしながらピーターの言葉を待っていた。
「えぇ、そうですか。やはり、兄弟とは思えないほど考えが食い違いますね。逆に面白い」
ピーターは余裕の表情を浮かべていた。
「国家反逆罪、ですか。いいでしょう、訴えてみなさい。もしそれで私が死刑にでもなったら、存分に笑うといいでしょう。━━まぁ、そんなことにはならないと思いますが……」
この自信は一体どこから来るの?
アサミは疑問を隠せなかった。
内容としては、軍から咎められてもおかしくないような内容であるはずなのに、もし訴えられても罪を犯して捕まるどころか、軍の中で贅沢だってできるぞ、みたいな余裕だった。
「それでは、私はこれで。今日は有意義な話ができたと思います。やはりアサミ・イナバ、あなたは面白い」
そう言い残すと、伝票を持ってその席から姿を消した。
アサミとマヒルだけが、その場に取り残されてしまった。やけに入っていた肩の力が抜け、その後はデザートを含め、たくさん食べながら楽しく談笑をした。
ピーターがいるといないとでは、大きな違いが有ることにアサミ自身もビックリしていた。
しかし、その様子を、ピーターは遠目から見ていた。
(私は……あの獣を睨むような眼を、少々見慣れすぎてしまったのかも知れない。敵意を向けられても、何も感じなくなってしまった……)
ピーターはその光景を見ながら、ポケットの中の携帯を取り出し、とある人物に電話をかけた。
電話が繋がった。
「あぁ、もしもし、スミス大将殿。これから飲みにでも行きませんか?」
「んん〜?急にどうした?今家に帰って晩酌でもしようとしていたところなんだが……お前から飲みに誘ってきたんだ。断るわけにはいかないだろう」
「無理しなくてもいいんですよ?スミス大将殿?」
「いいや、行かせてもらうさ!」
ピーターは、このやり取りで、心のどこかで少しホッとしていた。




