狙撃手技術
「階級は准尉……なぜ可愛らしい彼女が新たなASCOFのパイロットに選ばれたんです?」
ニアールが、目の前のスミス・トーレスに聞いた。
彼女をクワイエットビーのパイロットに選んだのは、スミス・トーレスだ。
スミス・トーレスは、アサミが軍に入るときに階級バッジを渡していた人物だ。
この<イカロス>という国においての軍の中では一番の指揮権(ピーターを除く)を持つのが彼だろう。
しかし、そんな彼が何故ラァラ・マリンスノウという、小柄でとてもじゃないが戦えそうにない彼女を選んだのか分かり得なかった。
そんなニアールの考え方を見抜いたのか、次のスミスの言葉でその考え方は覆ることになる。
「小柄で弱そう、なんて感情を抱く気持ちもわかりますが、彼女の戦場はコックピットなのです。体躯の大きさは関係ない、そう覚えておいてください」
「━━確かにそうだな。では、この子が何故准尉階級にも関わらず、特別な存在でもないのに新しいASCOFのパイロットに選ばれたのか、理由を教えていただきたい」
まるで、その話題に誘導したくてたまらなかったかのように、スミスはニヤリと笑った。
「実は今回、軍のパイロット志望の人全員にとあるテストをしたんです。その内容は格闘戦術や銃撃戦にとどまらず、白兵戦時の指揮官としての頭脳など……様々な能力を、どんな機体に乗るためかのテストかは伝えずに、行ってもらいました」
なるほど。
どんなASCOFかの情報を伝えれば、その機体の特徴を生かすように特訓してくる。
しかし、そうさせないために、どんなASCOFなのかは知らせずにテストさせることで、その人間の正しいデータが取れるわけだ。
「それで、彼女、ラァラ・マリンスノウは、異様に狙撃手適性が高かったのです。生身でも、ASCOFでも」
「なるほど、それでラァラ・マリンスノウが今度のスナイパー機体のパイロットに選ばれたというわけか━━」
”キィンッ”
パールスペック:ドラゴンの上部から、薬莢が勢いよく吹き飛んだ。
下げたレバーは、まだ戻さない。
この作戦で、同じ弾をまた使うかは、この後の展開次第なのだから。
だから、ラァラはただ、コックピットの簡易スコープをずっと覗いている。
(しかし……ラァラ・マリンスノウ……本当にあの子が今の狙撃をしたとは到底思えないな……)
ジャイアントパンダの攻撃中、つまりターゲットの動きが定まっていない状況下の中、頭に的確に銃弾をヒットさせたのだ。
十分な狙撃手技術を持ち合わせていることは明らかだ。
小動物に似た可愛さを感じていたが、彼女が本当に小動物ならば、とんでもなく獰猛で、人間にはまるで手の出せない存在。その様になっていただろう。ある意味、ヒトの形をしているだけで安心すら覚える。
だが、そんなことを考えている余裕などなく。
ジャイアントパンダは起き上がる。
何事もなかったかのように。
「うっそでしょ……?」
アサミの顔が青ざめていく。しかし、さっきの狙撃で吹き飛んだ体は、腕の振り回し攻撃の届く範囲ではない。
あの攻撃がないのなら、警戒度も下がるというものだ。
否、それはアサミの判断ミスである。
ジャイアントパンダの攻撃方法は、腕だけではない。
頭の大きさを生かした、突進攻撃である。
「ちょッ、こっち来たァァ!」
その突進攻撃は、等身大サイズのジャイアントパンダであればそこまでの脅威ではなかったかも知れない。
だがしかし、今、目の前に立ちはだかっているのは40m超えの巨大な怪物である。
その巨体から繰り出されるのは、正に破壊の一撃。
この突進攻撃による総被害総額は、49万ドル。
日本円にして、約4900万円にもなる!




