他人
先程まで命の奪い合いをしていたバンディック・ギルミールにあっさりと進路を譲ってもらったテイムは、心残りなどはなく、ただひたすらにアサミの位置情報のもとへ向かっていた。どうやら敵陣の中枢まで潜り込んでいるらしく、探す、となれば自分も敵陣の真ん中まで突っ込むことになる。
━━まぁ、そんな事、覚悟はしていたのだが。
テイムは、高速で位置情報が更新され続けるアサミの下へ向かうのだった。ただ、無事だけを祈って。
”キンキンキンキンキンッ”
「ん?なんの音だ?」
<アポロン>の後方支援艦、『ゴウキュウ』の艦長、トライド・キッソルがどうやら不思議な音を聞いたらしい。
「どうしました、艦長?何も聞こえませんが……?」
「いや、確かに聞こえたんだよ。キンキンって金属音みてーのが……」
「ははっ、疲れてるんじゃないすかね?戦争してる人が幻覚とか幻聴を経験したって記録も過去にあるみたいだし」
「そうか。確かに、そうかもしれな━━━」
突如、艦長の体が無惨にも吹き飛んでいった。その光景が先に目に入った後に、
”ドゴォォォォンッ”
と、爆発音が響き渡る。船員室の宇宙の景色を見渡せる強靭なガラス板が、亀裂のような横一直線の大穴を空け、艦長以外の人間もそのガラス板の奥に吸い込まれていく。まるで外側に吸い込まれていくみたいだが、単に気圧で押し出されているだけである。そして人間単体の力で、この状況から助かる術はない。
ただ、死が艦の外側に出ていき、少し穴を開けただけの『ゴウキュウ』は、ほとんどもぬけの殻となってしまった。
しかしその死神は、もう既にそこには居ない。それは速すぎて、死が訪れる頃にはもう、その場には居ないのだ。
だが、彼女は自分の何か━それこそ感情とか━が抜け落ちていることに気づいていた。悪いのは<アポロン>だ。そう思い続けて、今こうして戦っている。向こうが始めたんだ。だから自分は、<イカロス>は悪くない。そう信じ続けて戦ってきた。だから、他人の、ましてや敵のことなんて考える余地もなかった。
全てを破壊し、その破壊された光景を目に収めることもなく、次をまた壊す。そうして、壊してしまった命を数えなくなった辺りだろうか。
眼の前に障害が現れたのは。
その障害を通り過ぎて、更に敵の艦を壊そうかとも考えたが、なんだか眼の前の敵はそう簡単に通してくれそうもなかったから、アサミはここで停まることを決定し、少しだけなら話でも聞いてやろうという気持ちになった。
「……な、に?ど、いて…くれな、い……?ワタ、シは、そ、こ、を通ッ、て……行かなくっちゃあ…ならないの…ッ。だか、ら、そこを、どい、て……!」
「いぃや、どかない。どく気もない」
感情を失いかけていたアサミは、どこかで聞いたことある声だな、位にしか思わなかった。
━━そもそも、共に過ごした月日が短いことは分かっている。……それでも━━。
「ヷかッ、た……よ。戦って、あげる、から……。おㇱえ、て、く、れな…い?貴方の……名前」
下唇を噛み締めながら、はっきりと、その名前を口にした。
「俺の名前はテイム・プロスル。アサミ・イナバ。━━お前を……。お前を止めに来た━━ッ!」




