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熱を極める者と冷気を極めた者

 自らの決意を叫んだバンディックは、少し頭がスッキリしたのがわかった。冷静になったのだ。その冷静な判断力のまま、コントロールマウスを器用に動かし、武装を展開する。

 バンディックの乗る重武装のキラーアントは、左肩のミサイルポッドを展開し、その中のミサイルを全てバーストタイガーに撃ち込む。

 無論、バーストタイガーはバーニアを噴射させ、そのミサイルを全て避ける。ミサイルがバーストタイガーを追うが、一つのミサイルが他のミサイルに当たり、二つが爆発する。その爆発で更にその(ほか)のミサイルが巻き込まれ、誘爆する。そうしてバーストタイガーは、華麗に全てのミサイルを避けきる。

 全てのミサイルを避けきったことを確認したテイムは、バーストタイガーをその場に停止させる。

 しかし、バンディックはミサイルが避けきられる事さえも狙いだ。


「ここだァァッ!!」


「何ッ!?」


 ミサイルの爆発の煙の中から、突如としてキラーアントが現れる。


「これが狙いか……ッ!」


 テイムは、キラーアントを視覚に入れてから僅か0.007秒でヒート・クローを起動させていた。

 キラーアントも、ヒート・ランス・カスタムを二刀流し、一気にバーストタイガーに近づく。


”ガキィィインッ”


 激しい武装の衝突音。そこから更に力と力のぶつかり合い(鍔迫り合い)になると、テイムは勝手に思っていた。

 しかし、奇妙な事(・・・・)が起こる。


”パキィィン━━”


「なんッ━━だと……!?」


 なんと、ヒート・クローが根本から、まるでガラスのように割れてしまったのだ。

 熱圧縮の武装がぶつかり合うだけではこんな事にはならない。お互いの熱で溶けるのならば分かるのだが、()()()現象など、熱圧縮装置を搭載した武装だけでは起き得ない現象だ。

 つまり、あの武器には何かタネがある。━━というのは、ヒート・クローが割れた時のテイムの思考で、数秒経った今ではその原理が何なのかという答えに辿り着いていた。


「……その()、熱してるんじゃなくて、()()()()()()()()……?」


「流石に『紅蓮の虎』だな。バレるのが早すぎるな。ただ、それが分かったからと言って、どうにかなるわけでもないだろうに……。もう片方の爪も割ってやるよ!」


「馬鹿か、お前!もう初見じゃないんだよ。だから対応できるんだよッ!」


 そう言ってテイムは、突き出されるヒート・ランス・カスタムに対してもう片腕の爪ではなく、自らの機体の「腹」を差し出す。


「何ッ?」


 その光景に、バンディックは一瞬だけ動きを止めてしまった。それが、最大のミスだった。


(クソッ!さっき見たはずなのに、対応が遅れた……ッ!)


 さっき見たもの。それは、バーストタイガーの隠し()


”キュイィィィィィ……”


 バーストタイガーの腹には大きな火球を宿しており、その火球によってヒート・ランス・カスタムの冷却装置によって冷えた冷気が、どんどん蒸発していく。


「まだ片手が空いてるぞォ!!」


 それもまたバンディックが気づいた時には遅かった、というものだ。もう片方の、まだ割れていないヒート・クローでヒート・ランス・カスタムを真っ二つにする。そして、「見えない二撃目」で更にもう片方のヒート・ランス・カスタムも斬り裂く。斬られた断面から爆発し、それに誘爆されないよう、バンディックは急いでその場から離れる。しかし、離れていく途中でコックピットのすぐ上の方の装甲に爪の傷跡がついていることに気がついた。


「クソッ!何故だ、何故そんなに強い……?お前は何でそんなに強くなれたんだ?」


 バンディックの口から思わず率直な疑問が飛び出した。


「何で?何で、か。それはピーターにも言われたことがなかったな。そして考えたこともなかった。強いて言えば国のため、何だが、お前はそんな答えじゃ満足できない、って感じだろ?」


「あぁ、そうだ。分かってるなら話が早い。……国のためか」


 バンディックは笑みが(こぼ)れた。


「良いぜ、用事があるんだろ?行けよ」


「……良いのか?お前は」


「良いんだよ。国のためって言うなら、俺も国のために戦ってる。そして、お前を行かせてやることが、<アポロン>のためだと思ってな」


「まぁ、お前の許可がなくても先に進んではいたがな」


「ハハッ、ブレないな、『紅蓮の虎』。いいから行けよ。ここで俺と喋ってる暇なんて、戦争にはないぞ」


「……。あぁ、ありがとう。どんな心変わりか知らないが、お前の気持ちは汲ませてもらう」


 そう言って、テイムは直ぐ様バーニアを噴出させ、アサミの位置情報が存在する宙域へと向かう。


「……行ったか」


 バンディックの行動は、テイムに譲ったという事実かもしれない。だが、バンディックは自分でも分かっていた。

 自らが行っている戦いに、勝算は無かったと。譲ったのではなく、死ぬのが怖かっただけなのだと。

 しかしそれ以上に、バンディックはどこか心の中で、『<アポロン>は本当に正しいのだろうか』という思いがあったのだろう。それは、【ガルガンチュア】が<エキドナ>を焼き払っている光景を間近で見た時から思っていたことだ。


「ハハッ。馬鹿みたいだな。━━グラマス。お前の言う通り、俺は甘いのかもな。自分にも、他人にも」




 戦場の中枢。

 降伏を意味する白い煙が、一本だけ上がっていた。

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