命の煌き
『言われなくてもなァ!』
バンディックが言うと、周りにいた五機のナイトモスキートの内、三機がこちらに向かってくる。
「しょうがない。すぐに終わらせてやる」
そう言って、
”キィンッ”
両腕のヒート・クローを展開し、熱圧縮装置のスイッチをONにする。
しかし、それすらもお構いなしにナイトモスキート三機は特攻してくる。
そして、完璧な連携が取れた最高の状態で、右から、左からもヒート・スピアーを突き出される。
”ガキィィンッ”
勿論、その攻撃は両腕のヒート・クローでそれぞれ攻撃を受け止める。
━━が、しかし、もう一機こちらに向かってきている。元々三機こちらに向かってきて、二機しか攻撃してこないのはおかしいと思っていたのだ。
両腕を封じさせて、そのまま身体にもう一機が攻撃を仕掛ける。
「良い作戦じゃないか」
テイムは思わず称賛の言葉が漏れた。しかし、その称賛は敵からしてみればただの死ぬ前の戯言でしか無かった。
勝利を確信したもう一機のナイトモスキートのパイロットは叫ぶ。
「しィィずめェェェ!!」
━━テイムの「良い作戦じゃないか」という言葉には続きがある。
その続きを、テイムは静かに呟いた。
「相手が俺じゃなければな」
”キュィィィィィ……”
突如としてバーストタイガーの腹部が光りだす。
それに気づいた中央のナイトモスキートはもう遅く、バーストタイガーの腹部ではなく、ナイトモスキートの腹部に大きな穴が空いた。その穴が空いた場所の周りは、熱を持って非常に赤く燃えている。
「な、何が起きた!?」
動揺している左右のナイトモスキート。
その動揺すら、この戦場では命取りだというのに。
バーストタイガーは、まず右のナイトモスキートを全力で蹴り飛ばした。そして空いた右手のヒート・クローで左側のナイトモスキートの胸部を貫いた。
だが、反対側から先程まで右手を封じていたナイトモスキートがこちらに向かってくるのが分かる。
勿論、テイムなら余裕だ。反応出来ない距離感でも、速さでもない。
「死ねェェ!!『紅蓮の虎』ァ!」
「全く、血気盛んも良いところだぞ」
そう言いながら振り向き、その振り向きざまにヒート・クローを振り下ろす。まるで虎が引っ掻いているような動作だ。
しかし、このナイトモスキートのパイロットは意外にも冷静だった。
「読めてるんだ、よォ!」
なんと、その引っ掻く動作を完全に手前で避けきったのだ。
避けた、というのを頭で理解した瞬間に、このナイトモスキートは勝ち気の特攻をする。
━━だが。
「それの上を俺は行く」
なんと、空振ったはずのヒート・クローの爪痕が、しっかりとナイトモスキートに刻まれていた。ナイトモスキートはその爪痕通りに四分割に時間差で斬り裂かれ、そのまま断面全てから爆発を起こす。
「は、はは。笑えてくるな、こりゃ。20秒もかからずに俺の隊がほぼ全滅したんだが?」
バンディックはこの状況に笑うしか無かった。いや、部下がほとんど全員殺されて笑うっていうのも失礼ではあるが、遥かに強い強者を目の当たりにした時、どうしても笑いたくなってしまうのだ。それほどの威圧感なのである。
だが、笑ってしまうのはどうやらバンディックだけらしい。
「きッ、貴様ァッ!!『紅蓮の虎』ァァァッ!!」
バンディックのナイトモスキートの隣りにいた、控えのもう一機。
そのパイロットが焼けを起こしてバーストタイガーにヒート・スピアーを構えながら特攻する。
「ハンスは!ハンスは良いやつだったんだ!それを貴様、得体の知れない火球で消し炭にしてしまったんだッ!骨すら回収できないじゃないか!?」
「おい待て!早まるな!」
バンディックは流石にそれには焦った。しかし、時すでに遅し、である。
バーストタイガーが腕を振るう。先程のような時間差での爆発ではなく、今度はバンディックもヒート・クローでナイトモスキートが斬り裂かれ、焼かれるのを目撃した。しっかりと爪が貫通していた。
”ドゴォォォォォッ”
今まで面倒を見てきた部下たちが、目の前の恐ろしき虎によって焼け野原へと巻き込まれた。このぶつけようもない気持ちを抱いて動くことの出来ないバンディックのところに、一つの無線通信の声が聞こえてきた。
『さっき、俺が殺した男━━ハンス、という名前を出していた男だ。そいつの名前を教えてくれ』
何を言っているんだ、とは思ったが何とも思わず、彼の名を口にした。
「……ランゲルだ」
『そうか、ハンスとランゲル、だな。ありがとう、もし<アポロン>が残っていたら彼らの故郷に墓でも建てよう』
テイムに悪気はない。本当の親切心でこう言ったのだ。
だが、それはバンディックにとってあまりにも残酷な言葉過ぎた。
ぶつけようのない気持ち。だが、気づいた。この気持ちをぶつける場所が、人間が、目の前にいるのだと。
「『紅蓮の虎』ァァァ!!貴様だけはァ!貴様だけは地獄に送ってやるァァァッッ!!!!!」
気持ち、はいつしか「怒り」に変わっていた。




