超本能強化形態(ビーストオーヴァー)
「自爆する覚悟だったんだぞ……?なァ、他人の覚悟を踏み躙った気分はどうだよ?なァ……?」
グラマスは覚悟していたことが、もうあと一歩の所まで来ていることを実感する。
「悪いとは思ってるよ。でも、あんたの国が<アポロン>だったのがいけない。<イカロス>で会いたかったわ、剛腕の死神、グラマス」
グラマスはニッコリと微笑んだ。敵に悪意のない笑顔を浮かべたのは初めてだった。
クラッシュライノスの小刻みな爆発は既に肩のあたりまで到達しており、グラマスの乗るコックピットも既に、様々なところから火花を散らし始めている。
「━━最後に聞かせてくれ。それはなんだ?」
「……ビーストオーヴァー。━━スノウラビットの奥の手、超本能強化形態よ」
「へぇ、奥の手、か」
グラマスは微笑みをより一層強くした。満足の笑みである。
「じゃあな、イナバシロウサギ」
”ジジッ”
コックピット付近の一番デリケートな、核となる部分に火花が触れた。
”ドゴォォォォォォォォォォォォォンッッ”
スノウラビットの、人と比べれば巨大な身体が、熱を受ける。スノウラビットの背中からは雪のような白い粒が、熱波とともに溶けゆく。
熱と雪。
その場に留まることができるのは、個である雪なのだ。
何処かから来る悲しみの熱波の中、アサミは報告を欠かさない。
「コトブキ艦長へタスク報告あり。応答願います。オーバー」
アサミの声にすぐさま反応し、コトブキは通信に出る。
『こちらコトブキ。報告を許可する。オーバー』
「現在、交戦していた剛腕の死神、RSー411K クラッシュライノスの撃破を確認しました。今後の行動についての命令を受けます。オーバー」
この報告に対し、コトブキは驚きを隠せず、思わず声が出た。
『なッ、剛腕の死神をッ!?━━んっんッ、失礼した。よくやったアサミ・イナバ中尉。しかし、超本能強化形態を使用した形跡がある。システム確認の為にも、一度帰投してほしい。こちらからの要求は帰艦することだ。オーバー』
「すみません、それはできません、まだ余剰エネルギーが残っています。30分間の戦闘の後、リーティフへと帰艦します。それでは、通信を切ります」
『!?待て、アサミ・イナバちゅ━━』
”プツッ”
コトブキが言いかけていたところでアサミは通信を切った。艦長には悪いことをしたと思うが、まだ戻る訳にはいかない。
━━そう、まだ、戦いは終わっていないのだから。
戦闘兼補給艦、ディーネウン。
アサミ・イナバ達の乗るリーティフと同時期に製造された戦艦であり、リーティフが前線で戦うことを目的とした戦艦ならば、ディーネウンはそれを援護する形で製造された戦艦である。
他の艦にはない様々な補給物資があることから、この戦争の主軸の一部となっていることも確かだ。
そして、そんなディーネウンに乗っているのは、アサミたちとも交流のあった、クワイエットビーのパイロット、ラァラ・マリンスノウである。
クワイエットビーは狙撃を得意とする機体であるがゆえに、後続のディーネウンに配備された。
”パァンッ”
”キィィン”
高火力超射程のパールスペック︰ドラゴンの銃身が少し赤くなった後、また鋼色に戻る。ラァラの覗くスコープの中では、中心から爆発するような形で敵艦が撃沈していく。
「ろ、6000メートル先、敵補給艦の撃沈を確認しました」
『よくやった、マリンスノウ准尉。引き続きスポットした敵艦を沈めて行ってくれ。必要ならばこちらでのバックアップも継続する』
この声はディーネウンの艦長の声だ。クワイエットビーは現在、ディーネウンに膝立ちしながらスナイパーライフルを構えている状態だ。
「ありがとうございます、艦長。引き続きスポットの継続、よろしくお願いします」
『了解』
(予定よりも早く始まったこの戦争……。どう考えてもお互いに準備不足な点が露呈してきてる。━━なら、先に準備の整っているディーネウンが後方支援しないと、前線は━━)
その瞬間、先程まで話していた艦長から、また通信が入った。
『マリンスノウ准尉!応答せよ、マリンスノウ准尉!』
「はっ、はい、こちらラァラ・マリンスノウっ……。ど、どうかしましたか?」
『こちらに近づいてくる敵艦を確認した。スポットしたから、そちらでも確認していただきたい』
「了解」
実際にディーネウンと共有しているモニターレーダーを確認すると、確かにこちらに敵艦が近づいてきている。
━━それも三隻。
「時速が速すぎる……。止まる気はない……?というか、最早特攻みたいな速度……、そっ、そういうこと!?」
『これ以上敵艦を近づける訳にはいかない。味方の前線を既に突破している様子だ、早めに片付けたい』
「了解、援護をお願いします」
ラァラはクワイエットビーを操作し、パールスペック︰ドラゴンを構える。




