神の領域
最早何が起きているのかもわからない状況に、グラマスは一つの焦りを見せなかった。なぜなら、グラマスには『一つの活路』があるからだ。
「そいつは、とにかく逃げることだ……!!」
逃げる、というのは、最高にして最善の策だ。逃げれば敵に追いつかれない限り思考する時間や作戦を立て直す時間さえも確保できるのだ。更には、仲間を呼ぶ、なんてこともできるが、そんなことはグラマスの意識外のことである。
グラマスはクラッシュライノスのバーニアを思いっきり吹かし、最高速度まで加速していく。こういう時ほど、広い宇宙での戦闘というものには助けられる。
そして、大きな進展が一つ。
「……音が止んだ……?」
さっきまでのキンキン五月蝿かった金属音は、どこかへ消え去ってしまった。攻撃も受けていない。
ということはやはり、先程までの金属音は攻撃の一種だったということがこれで確定したわけだ。
「てことはつまり、後ろから敵のASCOFが追ってきてるんじゃないか?ハハハッ、滑稽だな。確認してやるか━━……!?」
グラマスは信じられないような光景を一瞬だけ目の当たりにした。
後ろから恐ろしいほどの勢いでスノウラビットがこちらを追いかけてきているのだ。
「なッ、なんだあれ!?やっぱり移動して正解だったな。だが、生きているとは……。しかも速すぎる!クソッ!」
グラマスは口を動かしながらも手を俊敏に動かしていた。コントロールマウスをリズムよく素早く叩き、先程スノウラビットに放った熱圧縮弾をまた食らわせようとする。
しかし、構えた時には既にスノウラビットは姿を消しており、発射までには至らない。
更には、先程まで聞こえていたあの金属音がまた左右から聞こえてくる。
”キンキンキンキンキンキンキンキン”
「ダァーッ、クソッ!速すぎんだろッ!しかもまた姿を消したってことはまさか、クラッシュライノスの周りを肉眼では視認できない、見えない速さで回りながら攻撃してるってことなのか!?」
実際にグラマスのその考察は正しかったのだ。現在、スノウラビットは見えない速さでクラッシュライノスの周りをぐるぐると回りながらヒートアサシンナイフで少しずつ斬り付けていたのだ。
「ありえない……。そんな技術、最早神の領域だぞ!?しかも、そんな速度の中に人間が乗り込んでるってのか!?普通なら過剰なGに耐えきれずにそのまま死ぬはずだ!不死身か、この女!?」
人間というのは、信じられない行為を眼の前で展開されると、恐怖するのが一般的だ。
しかし、グラマス・パナ・ゴーマスという男は違う。
「まだ負けてもいないし、勝てる算段もある!相手は神でもなんでも無い、ただの人間だ!つまり、さっきの左右音合わせ、あれをまだ繰り返していけば━━」
しかし突然、新たな作戦を考えているグラマスの耳元に、違和感の音が一つ届いた。
”カンッ”
「なんッだ、今の音!?さっきまでの音よりも明らかに高い音だった……!」
しかしグラマスは、一度周りを見回してみると同時に、一つの状況に気づいてしまった。
いつからなのか、等に過ぎたことだからそこは気にする必要はないのだが、機体状態を表すモニターは、いつの間にかクラッシュライノスの右腕を真っ赤に染め上げていた。
そう思った瞬間、目の前でスノウラビットが停止し、お互いに目と目が合う。
「グラマス・パナ・ゴーマス!あんたはここで終わりよ」




