記憶(かこ)と現在(いま)
私は、この戦いの記録を、ここに記そうと思う。
この二年間の戦いの記録は、願わくば後世に継がれ、次の世代の教えとなれるよう、残りの余命でこれを書こうと思う。
2311年 2月15日 アサミ・イナバ
22世紀。
人類は宇宙への進出を試みた。正確には、宇宙進出のための準備を始めたというのが正解だろう。
しかし、それは結果的に失敗に終わることとなる。
人類は数々の動物を宇宙へと放ち、生息できるかのデータを取ろうとしたが、その動物達は次々と巨大化し、宇宙空間内でも生きていける体へと発達した、宇宙獣により、人類の宇宙進出は約一世紀も遅れをとることとなる。
23世紀。
そして、遂に完成したのが、『宇宙空間内使用型移動重要塞都市国家船』、通称、ムーブ・パレスの第一号、始まりの地「エキドナ」である。
このエキドナができた頃にはもう既に地球は人が住むに適さない環境となってしまっており、大量に増えた人を移動させる意味も込めて、人類は次々とムーブ・パレスを創造していった。
それから更に半世紀━━━━━━━
「ふあぁぁ…」
私の生活はいつも明るすぎる人工太陽の光と大きな欠伸から始まる。
女性にはあまり似合わない工場用の作業着を着て、長い髪を後ろで束ねてゴムでとめる。
冷ややかな鉄で出来た階段を下り、そのまま一階へと向かった。
一階には既に人がいた。大きな体つきの、私と同じ作業服の男である。その人は、私のよく知っている人である。
その作業着の男はこちらの事を見もせず、ただ口だけを開いた。
「おい、起きるのが5分も遅れてるじゃねぇか、イナバ」
たった5分、と思う私は間違っているのだろうか。
アサミ・イナバ。出身、育ち、共にここ、ムーブ・パレスの〈イカロス〉である。
そして、目の前のぶっきらぼうな男がタツロウ・ミナミだ。
無愛想で素っ気ないが、1人だった私を救ってくれた、良い人ではある、一応。
そしてタツロウ・ミナミは、ここ、ミナミ鉄工所の主人でもある。拾われた私も、このミナミ鉄工所で働いている。
タツロウは言う。勿論、こちらを見ずに。
「まだ顔洗ってねぇだろ。早く終わらせて作業に取り掛かってくれや」
「…はい」
いい人なのは間違いないのだが…
そのまま午前中はずっと、古い車の修理をしていた。
ここ、ミナミ鉄工所は鉄工所と言いながら、実の所ジャンクショップである。日本人がやっている店ということもあり、客足が決して多い訳では無いが、ほぼ毎日のように四~五件の仕事が入る。
今日は三件のオールドタイプの車とバイクの修理を頼まれ、その内の二件を既に終わらせた。
しかし、休み無しで機械とにらめっこしていた為、流石に疲れた。
それをタツロウが察したのか、三件目の仕事の手を止めた。
「しゃあねぇ。昼にするか。チャーハン作ってやるからよ。ちょっと待ってな」
「あっ、ありがとうございます。助かります」
そのままタツロウは狭いキッチンへと向かった。
アサミは一息つこうと、店のシャッターを開けて外に出た。
腕を上げ、体を伸ばすと疲れが体から抜けていく様だった。
体から疲労が一気に出ていく様で、気持ちいい。
すると、左から大きなトラックが一台、走ってくるのが見えた。
(ん?あのトラック、やけに大きいなぁ…)
見た所、十数メートルはあるだろうか。
そう思っていると、そのトラックが店の前、つまりアサミの前で止まったのだ。
心当たりもなくただそれを眺めていたアサミの前に、トラックの助手席から金髪のスーツ姿の男が降り、そのままアサミの前に立ちはだかった。
ワケが分からないと困惑するアサミに、男は口を開いた。
「初めまして。私はピーター・ウィッグネン。ここで是非、ASCOFを作って頂きたいのですが……」
ただ今、2259年です。
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