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第6話 暮らしの知恵(GBさんからいただいたお題「たき火」)


 都会暮らしに嫌気がさして田舎へと軽い気持ちで移住してきた私だったけれど、初めての土いじりで花壇が華やかになったことがきっかけで古家についてきた畑にまで手を出していた。

 長く放置された畑には雑草がはびこり、それらと格闘するのは大層苦労したが、抜いた後の広々とした景色は疲れを吹っ飛ばすだけの効力がある。


 タオルで汗を拭い、こんもりと盛り上がった草の山を畑の端に寄せて火を点けようとけようとしたが上手くいかない。


 なぜだろう?と首を傾げていると近所のおじいちゃんが「抜いたばかりの草は水分が多くて燃えない」のだと教えてくれた。

 なにを言っているのか理解するまで何度も同じ会話を続けざるをえなかったのは申し訳なかったが、ご近所さんは総じて親切でおっとりとした人が多い。


 助かる。


 まあ言われてみればその通りで、根っこが土にあり水分と栄養をたっぷり含んでいる草が簡単に燃えるわけがない。


 乾燥するまで数日放置することにしてその日の作業は終了とした。


 翌日は浮き浮きしながら野菜の苗を買ってきて、さっそく植え付けようとしていたら近所のおばあちゃんがやって来て苗の種類を確認する。「土壌改良する必要がある」と身振り手振りで伝えてくれたが、酸性がどうとかアルカリがどうとか石灰がうんぬんとかいわれてもちんぷんかんぷんだ。

 メモを取り出して書いてもらおうとしたら「老眼なので」と断られ、そのまま立ち去ったおばあちゃんが旦那さんの軽トラに乗って戻ってきて大量のなにかを畑にまいて土と合わせて颯爽と帰って行った。


 ほんと面倒見のいいことだ。


 苗はまだ植えては駄目だとのことなので仕方なく家の中に戻って日の高いうちからビールを飲んで気づいたら寝落ちていた。


 次の日は二日酔いでなにもできず、次の日は雨で作業はお休み。

 しかもこの雨で順調に枯れていたはずの抜いた草が濡れてしまい完全に乾燥するまでの期間がまた伸びた。


 う~ん。

 上手くいかない。


 こうして日々はなんとなく過ぎ、近所の皆さんから野菜やら果物やら頂いたり、なにかしようとしていると絶妙なタイミングで誰かが助けてくれるという生活を続けて。


 気が付けば移住して一年が経っていた。


 よく乾いた木の枝を組んで土台を作りその上によく乾いた草を乗せて新聞紙をねじった物に着火して細い枝へと火を移らせる。空気が通るように組み上げるのが大事で、慣れれば切ったばかりの枝葉や抜いたばかりの雑草だって簡単に燃やすことは可能だ。


 ここへ来た当初「燃えない」と教えてくれたおじいちゃんがたき火をするならとサツマイモを持って来てくれた。

 代わりに都会の友だちが送ってきてくれたお菓子を渡して手を振り別れる。


 田舎暮らしに憧れてやってきた人間が現実と理想との違いに心折れて出て行く人たちが多いと聞くが、どうやら私は当たりを引いたらしい。


 ここは住みやすい。

 人は親切で温かい。


 ちょっと世話焼きが過ぎて困ることもあるけど、それでも私はここを割と気に入っているのだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 構ってあげたいおじいちゃんおばあちゃんと、手助けが素直に嬉しい主人公との距離感が素敵ですね(*´ω`*) 主人公の語りがいい感じにさっぱりしているから、余計にそう感じるのかもしれません。 …
[一言] 周りの干渉を鬱陶しいと感じるか、親切と飲み込めるか。 田舎暮らしは、人とのかかわりが切れないので、そこを苦痛だと思う人には辛いだろうなと思います。 良い関係と程よい距離感を掴めたら、きっとビ…
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