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暁に落ちる  作者: ルファ オーデン
7/7

スカイフォール

   最終章 スカイフォール




 蒼汰はロッカーからタオルを取り出し体を拭いていく。

 シセイに促されシャワールームで血を洗い流してくると、外は暗くなり始めていた。


 着替え終わり、外に出て行くと組織のメンバーたちが忙しく走り回っていた。

 

「そうチャン!おカエりー。」

泥だらけになったジョナケンが迎えてくれる。

 すっかり馴染んだという感じだ。

 

「ただいま。何か手伝えることはある?」

 ジョナケンの背後ではいくつかの塚が出来ていた。

「イマ、仲間ト敵の埋葬がオワッタとこ。」

 肩に担いでいたスコップを下ろしながらそう答える。

 シセイさんや他の仲間たちが黙とうを捧げている。中には泣きながら地面に座り込んでいる姿もある。

 

 それを見てジョナケンと一緒に黙とうを捧げる。


 『・・・・・・』

 

 もしかしたら死ななくてよかったかもしれない人たち。

 名前も知らない人たちに祈りを捧げる。

 どうか安らかに、と。


 


 蒼汰とジョナケンは二人で瓦礫の上に座っていた。

 徐々に月が登り始めていた。


「俺たちこれからどうなるんだろうな。」

「ワカんねーデスよ。」と言いながらジョナケンは近くの小石を蹴る。

 

「つい最近までは普通の高校生してたのにな。」

「楽しかったデス。」

「あの時はまだ、玲奈さんも、はやも一緒だったよな・・・。」

「・・・こんなコトにナルンだったラ玲奈とキスしとケバよかったデスよ。」


 思いのほかジョナケンが普通で笑ってしまう。

 

「あんなイチャイチャしてるのに?キスしてなかったのかよ?」

「うっサイデスよっ!。」

脇腹に肘が刺さる。

「いてぇ。」

「前のプールのカエリにやっとテぇ繋いダンですカラ。」


 結構意外だった。

「奥手だな。」

「オク・・・?なんて意味デス?」

「ピュアっていうか、結構慎重だなって。」

 

 ジョナケンは照れながら

「嫌われたくないデスから。」と答える。

「玲奈さんが目覚めたら最初に何て声かける?」

「モチロン、愛してルデスよっ。」

 すがすがしい答えにこっちが恥ずかしくなってくる。


「ソーいうそうチャンは、咲夜にナニするンですか?」

 ニヤニヤしながら聞いてくる。

 

 少し考え込む。

 咲夜に、俺が出来ることを。

 

 ゼロワンに言われたことが思い出される。

 “お前に資格はない”


 彼女の傍に居たい。これは本心で、紛れもない今自分が最も望むことだった。


「俺は・・・・咲夜の隣に居たい。」


 俺は彼女の抱える痛みを何一つ知らないのだろう。

 でも、これから知ることはできる。

 あの男が言う通り今まで、知らず知らずのうちに彼女を傷つけていたのかもしれない。

 それなら、もう二度と彼女が苦しまないよう最善を尽くそう。

 彼氏とかそういう肩書は要らない。

 まぁ、そうなれれば一番だけど・・・・


「彼女の力になれるなら、それでいい。」


「そうチャン・・・素直にナルの遅すギデスね・・・・。」

笑いながら背中を叩いてくる。

 それにつられ笑ってしまう。


 少し前までの日常に戻った気がした。


「おい、二人とも集合だ。」

シセイが暗闇から現れた。その雰囲気はいつになく真剣だった。




組織に入ってからよく仕事場として割り当てられていた倉庫に仲間たちが集められていた。

 

 今日の昼間までいじっていた黒いボックスがトラックの荷台に乗せられていた。


 入り口から下がった半地下の作業場に四十人ほどの人員が騒めきたっていた。


「意外と少ないんだな・・・。」

 組織というぐらいだから百や二百はいると思っていたのが本音だった。

 

「これで全員ですカ?」

「ボスがいないぐらいだな・・・・。幹部たちは前の方に陣取ってるしな・・・。」

 シセイが顎で前を指して見せる


 前の方には白衣の医者らしき姿の人や、パースさん、大柄の東さん、レミさん、間宮さんと続く。

 だが、どこにも咲夜やアカネさんの姿はなかった。


 上の方から扉が開く音がする。広場の喧騒がそれに合わせてピタリと止まる。

 

 階段を下りてくる仮面の男。

 その後ろにはアカネさん。

 そして咲夜。


 階段の途中で三人は止まり下りてはこない。


 ゼロワンは両腕をゆっくりと広げながら

「諸君。オブビリオンの目標は今夜、達成される。」と静かに力強く宣言する。


「かねてよりの計画“スカイフォール”を開始する!」


 一瞬騒めくが直ぐにそれらが咆哮へ変わる。


「ゼロから一へ!!」

「世界を変えよう!!」

「ゼロワン!!やってやろうぜっ!!」


 ワァァァァァァッと倉庫全体が揺れる。


 それをゼロワンは片手で制する。


「共に世界を変えよう。」

 そう締めくくり組織は計画のために動き出した。


 

 

 隼人は何日もフラフラと街をさまよっていた。

 警察に行くでもなく、家に帰るわけでもなく、ただ目的なく歩いていた。

 アカネさんが撃ってきた。

 あれは本気だった。

 怖い

 怖い

 怖い

 その感情だけが頭をぐるぐる回っていた。

 

 そんな中でも、隼人の脳裏には時折彼女の顔が浮かんでいた。

 

「雪さん・・・・アカネさん・・・・。」


 街中でもセミが五月蠅い。


 夕方の三間区センター街は道行く人で埋まりつつあった。





 咲夜はクレートの上で居心地悪そうに座っていた。

 部屋にはギチっガチャと金属と金属がこすれる鈍い音が響いていた。


 目の前には東が戦闘服を着て作業をしている。

 その隣ではアカネが黙々と銃の弾を一つずつマガジンに込めていた。


 沈黙に耐えきれず

「あのっ・・・何か手伝えることありますか?」と尋ねてしまう。

 

「無い。君は温存しておけ。」

低く東が答える。

 

 ・・・・・二人が作業している姿を眺めるだけの時間が過ぎていく。

 アカネが弾を込め終わると東が受け取り空の物を渡す。

 東が道具を落とすとアカネが拾う。そうしている様子はまるで親子みたいだった。


「・・・家族みたい。」

うっかり声に出してしまう。

 

 東が顔を上げ、こちらをサングラス越しに見てくる。


「あ、その・・・・ごめんなさい・・・。」

 なんとなく謝ってしまう。

 

 東は少し寂しそうな、苦しそうな表情をする。

「いや、いいんだ。・・・・こちらこそ謝らなきゃいけない。」

 

 東は作業を止めてこちらに体を向ける。


「すまない。」

そう言いながら東は頭を深々と下げた。

 意味が分からなかった。

 東に謝罪される理由が咲夜には思い浮かばないからだ。

 

「俺は・・・この施設で君の母親の警護を受け持っていたんだ。・・・でも、事故の時何もできなかった・・・・。』


 今日は本当に色々と驚かされる日だった。


「そう、だったんですか・・・。」

 

 東はその後作業を終えて、ポツポツと母さんの事を語ってくれた。

 

 そのころにはアカネも作業を終え、話を静かに聞いていた。


 

「ありがとうございます、東さん。」

「いや、こちらこそ。君は本当に未希さんにそっくりだね。」

 

 そう言われどこか誇らしい気持ちになる。


 その後すぐに東は無線で呼び出され部屋を出て行ってしまう。

 

 アカネと二人きりになった。


 疑問に思っていたことを聞く。

「ねぇ、アカネ。計画って具体的には何をするの?」


 アカネは人形のような瞳で見つめてくる。

「・・・歌を・・・・歌います。」

「えっ?」

 予想してない答えに咲夜は驚いてしまう。


「歌によって彼の願いをかなえます。」

 

 彼とはゼロワンの事だろうか?

 

「その・・・歌うって何を?」

「好きにしていいと彼が。」


 つまりアカネが好きに歌うのがスカイフォール計画の正体なのか?


「えっと、じゃあ、あの箱とか今日アカネがつけてた装置は?」


「つけてたのは“茨の冠”と間宮が呼ぶものです。あの箱は核です。」


 核?かくとはつまりあの、核兵器の事なのか?

 疑問が増えるばかりだった。

 

「アカネが歌うと・・・何が起きるの?」

「世界中の箱が起動します。」


 アカネは淡々と答える。


 その後いくつか質問を投げかけたが計画についてはよく分からないままだった。


「アカネはこの世界が憎いの?」

 質問を変えてみる

 

「・・・・・いえ。」

 

「じゃあ許せない?」

「・・・いいえ。」

 青い色が晴れていく。

 

「アカネは・・・なんのために歌うの?」

 前で座っているアカネは、どこか懐かしい雪を思い出させた。


「私は・・・・・」

 アカネは言い淀んでる。

 

 答えを待つために咲夜は静かに息をする。

 

 静寂が部屋を包む。

「・・・・・・・・・・私はーーー」


 その言葉は最後まで聞き取れず扉の開く音で遮られる。


 扉を開けた人物をつい睨みつけてしまう。


 アフロ姿のシセイが驚いたような顔で此方を見ていた。


「・・・・お邪魔しちゃった?・・・でも、お嬢様方、出発ですぜ。」



 アカネが立ち上がり、部屋の出口に向かう。

「アカネ。」

 咲夜は立ち上がりながら呼び止める。


 振り返った瞳には水色の炎が揺らいでいた。


「ねぇ、今夜の計画が終わったら、またさっきみたいにお話しよ」


「・・・・何故?」

 その瞳は揺らぎ続けていた。

 

「私、雪とは友達になれたと思うんだけど・・・アカネとはまだだから。」


 胸を張り堂々と宣言する。


「無意味です・・・。」


 咲夜は髪につけていた赤いピンを着けなおす。

「アカネ、悪いけど私これでもあきらめ悪い方なんだよね。」


 そう言いながらアカネに飛びつく。


「なっ何を・・・するんで・・・」

 抵抗する声が次第に小さくなる。


「アカネも雪も私にとっては大切な友達だから。多分、蒼汰や玲奈、ジョナケン・・・皆そうだよ。」


 かつて雪にしてあげたようにきつく抱きしめる。

 

「周りは兵器だとか鍵だとか言うけど、アカネはアカネだよ。」


 

 

 ゆっくりと腕の力を抜いていく。

 少しだけ自分より小さいアカネが見上げてくる。

 そこにはあの淡い水色の瞳があった。




 ベットに横たわる彼女にささやきかける。

「玲奈・・・・」

 ジョナケンは玲奈の手を優しく握る。


 玲奈や他の負傷者、非戦闘員は施設から退避する予定になっていた。

「レイナ・・・・ワタシ、そうチャンと実行部隊にシガンしましタ。」

 あのビルでの事を思い出す。

 金髪の大柄の男。

 今日の襲撃者と同じような格好と銃の男たち。

「一人残ラズ・・・・殺してやりマス。」

 強く自ら神に誓う。

「またネ。」

とつぶやき美しい寝顔の額にキスする。

 

 戦闘服に身を包んでいるジョナケンは立ち上がり、病室を後にした。




「乗車!!」という東の合図と共にトラックやバンに兵士が乗り込んでいく。


 蒼汰もバンに乗り込む。

 運転席にはシセイ、隣にジョナケンが座っていた。

 

「そうチャン、彼女にオワカレすませましたカ?」

 ジョナケンに便乗しシセイが

「帰ったら結婚しましょう!ってかっ。」

 ゲラゲラと笑うシセイを蒼汰は席越しに蹴りつける。

「よっと」

「お邪魔しまぁす。」と車にレミとパースが乗り込んでくる。


「えっ?!一緒に来るんですか?」

 非戦闘員とばかり思っていた二人が乗ってきて少々驚く。

 

「ハハっ!いいね!私だって世界が変わる瞬間を見たいからね!」

 レミさんは笑いながら手に持ったパイプの集合体のようなものを中で掲げる。

 大型車と言っても狭いので中でゴンゴンと当たる。

「今度はぁ誤射しないから、大丈夫よ。」とパースさんはウインクしてくれる。

 若干不安を感じるまま、車列は動き出した。


 ゲートを抜け一気に道を駆け抜けていく。


「どこに向かっているんですか?」

 窓から外を見張りつつシセイに尋ねる。

「そりゃ~お前らのよく知るところだよ。」

 と意味の分からない答えが返ってくる。


「それってどういうーー」

 言い終わらないうちに前を行く車両が隣の車に向けて発砲し始めた。


 パタタタタタタッ


 隣のセダンは一気に穴だらけになっていく。

 

「えっ?!」

「チョット?!」とジョナケンと二人で驚いてしまう。


 するとセダンの後部座席の窓が開き火花が散る。

 ダダダッダダッ


 なんと撃ち返してきたのだ。


「斥候だ!!」

 シセイは叫び自身も窓から拳銃を撃ち始める。


 数分ののち車は沈黙し路肩に落ち停車した。


「東さんの話じゃまだ序盤らしい!気ぃ引き締めていくぞ!」

 シセイが怒鳴る。

 そして数分もしないうちにその話が現実になった。


 今度は後ろから迫ってきた車二台が発砲してきたのだ。

 後ろのトラックを追い抜きながら弾丸をぶつけて来る。

「うおっ」

恐怖から身をかがめる。

 ビシッビシッカンっと車体に当たる音が聞こえてくる。


「大丈夫だ!タイヤも車体も防弾だからなっ痛くもねぇよ!」と叫びシセイはハンドルを勢いよく切る。

 ドカっと敵の車体に体当たりする。

 衝撃で蒼汰もジョナケン、パースさんが車内で転がってしまう。


「シセイ!あいつらの前に出しなっ!」

 レミさんが怒鳴りつける。

 『了解』と言わんばかりにエンジンがうなり車体が揺れる。

「おわあっ」

荒い運転で車体にあちこちぶつかってしまう。


「ノオオおオオオォ!!」とジョナケンは目を両手で覆って恐怖におののいている。


 反対車線にはみ出しながら敵の前方にでる。


 レミさんが蹴りで後部ドアを開けようとする。銃撃で壊れていたのか、怪力のせいか、扉がそのまま飛んでいき車に当たるのがかろうじて見えた。

 それでも怯むことなく車からの銃撃は続く。


 風にあおられシャツにジーパン姿のレミさんの服がバタバタと音を立てる。


「たらふく食べなぁっ!!!!」

 そう叫ぶのと同時にレミさんの抱えていた機械がうなり始め、先についていたパイプが回り始める。

 

 ドドドドドドドドドッッ


 轟音と閃光。

 そして大量の薬莢が勢いよく排出される。


 車は次々に穴が開き、次の瞬間、爆発し吹き飛んだ。


 それでもレミさんは撃つのをやめず、薙ぎ払うように二台目を撃つ。


 キキキキンっと車内に金色の山が築かれていく。

 

 二台目もあっという間に粉砕し、危うく後ろの味方にも当てそうになったところで撃つのをやめる。


「こんなもんかなぁ~。」

撃ち終わったレミさんは何処か満足気だった。



その後何の襲撃も受けることなく車列は坂道を進んでいた。


「・・・・ここって。」


蒼汰はその見覚えのある坂道を知っていた。


「ココ、衣笠学園・・・デスよね・・・。」


ジョナケンの言う通り坂を登り切った車の窓からは懐かしい学園の校舎が見えていた。




学園内に次々に車両が入っていく。


皆車から降り東の指示でそれぞれ防御を固め始める。


その間、間宮さんや他の技術チームは機材を屋上へと運んでいた。


例の黒いボックスは中庭に設置された。





ゼロワンは息を深く吸いこむ。

しかし、限界を迎えつつあった肺がそれを拒み咳き込んでしまう。


そして間宮にサインを出す。



その夜、四年ぶりに世界にその男は姿を現した。




隼人は何をするでもなくビルに取り付けられた巨大な画面を凝視していた。


待ちゆく人々に向けて、ニュースキャスターが今日の気温についてレポートをしている。


すると突如画面が切り替わる。


それに気が付いた人たちは次々に足を止める。


「皆さん、こんばんは。」

そこにはゼロワンの姿が映っていた。隼人はそこがどこか瞬時に理解した。


見慣れたフェンス。毎日寝そべったタイル。

衣笠学園だった。



「かつて私が言ったことを皆さんはどれだけ覚えているでしょうか?忘れた?覚えていない?悪戯だと思った?」


四年前と全く変わらない様子で語りかけてくる。


「そのような甘い考えが、堕落しきった価値観が、私を産みだしたのです。今や情報社会となったのに現実や真実を見極めないで、都合のいい楽な道に進む。そんな人間の愚かさ。何も変わっていない。」


そう言いながら仮面を外し始める。

画面の前には人々が集まりスマホやケータイの画面にも映る仮面の男を皆が注視していた。

「私を産み落とした社会は!醜く歪ませた世界を今夜っっ!!」

現れた痛々しい容貌に人々から悲鳴が漏れる。


「今夜・・・変える!!もう誰にも止めることはできない。世界中に設置した核兵器がこの異常な世界を塗り替えるだろう。」


核兵器と聞き人々はどよめきだす。


「さぁ、共に新たな夜明けを・・・・」

そっと画面に手が差し出される。


次の瞬間には画面は途切れニュースのスタジオが映っていた。


人々は困惑しながらも再び日常に戻っていく。

「さっきの見た?ヤバくない?」

「悪戯?すごくね?」

「え~となんだっけアレ何年か前もあったよね?」

 ざわつきながら人々はいつも通りの生活を続ける。

 

そんな中一人、隼人は立ち上がり走り出していた。

近くの放置自転車の鍵を乱暴に蹴り壊す。

すぐさまそれに跨り全力で漕ぎ始める。


『アカネさんっ』


『蒼汰!咲夜っジョナケン!玲奈さん!!』


人を避けながら全力で走らせる。


死ぬのは怖い

死にたくはない。


でも、玲奈さんみたいに友達が傷つくのはもっと怖い。


隼人はいつの間にか、友たちのいる学園へ全力で向かい始めた。





「このままじゃ世界が滅びちまうぞっ!」

そう怒鳴るブルボンを横目に見ながらセルゲイは銃の状態を確認する。


ガタガタと揺れながら車はフルスピードで日本の学校に向かっていた。


「セルゲイ、女だろうが子供だろうが今度は容赦するなよ!」


「無論だ。」

そう答えつつもセルゲイは、胸の中でブルボンを罵倒していた。


反対したのにもかかわらず敵の拠点に部隊を送り込み半数を失った。

そのあと再び襲撃したが、今度は全滅した。


今や工作部隊はブルボン、セルゲイ以下三名の五人になってしまっていた。


「情報によると他国の部隊も日本のジエイタイも動いているらしい。もっと慎重に動くべきだったな、ブルボン。」

上官に向かって悪態をつく。


「貴様、分かっているのか?!アレが爆発したり、他国に取られてみろっ祖国は滅亡しかねないんだぞ?!」

愛国心の強い老人が苛立ちながら怒鳴り散らす。


お前の言う祖国の不手際がこの状況を産んだのだ。


思っている不満をぶちまけたくなるがどうにか堪える。


「だからこそだっ!さっきの映像を見ただろう!チャンスを待って狙撃すべきだったんだ!」


言い争いをしているうちに車は坂道を登り始める。


「セルゲイ、どうあれ核は安全に回収せねばならない。これは命令だ。」

 腐っても現場指揮官のブルボンは怒りをあらわにしつつも指示を出し、戦闘に備え始めていた。


「了解・・・。」

セルゲイは感情を押さえつつ答え自身も戦闘に向けて集中することにした。




この夜、小高い土地に建つ学園に続々と勢力が集まりつつあった。




校舎の昇降口前に蒼汰と咲夜、ジョナケンは座っていた。


生ぬるい空気が肌を撫でる。


「気持ち悪い風・・・。」

咲夜が呟きながら腕をさすっている。


蒼汰は生暖かい風の中にピリピリと張りつめた雰囲気を感じていた。


「咲夜・・・・その、大丈夫か?」

蒼汰は探るように話しかける。

「・・・?私は大丈夫だよ。」

それは“普段”の咲夜だった。


更に何か言おうとするが言葉が浮かばない。

暗闇でもハッキリとわかる咲夜の黒髪。

それを荒々しく後ろでまとめている。

前髪はすべて横に流され赤いピンで止められていた。

そのせいで額が露になっていて普段より幼く見える。


服はジョナケンや俺と同じ灰色がかった戦闘服だった。



「蒼汰、不安なの?」

咲夜がこちらをのぞき込みながら聞いてくる。

「私さ、学校にまた来れるとは思わなかったもん。」と続ける。


「そう、だな・・・。」

胸にある思いがこみ上げてくる。

言わなくてはならない。


今を逃したらもう二度と言えない気がしてくる。


ジョナケンも咲夜を顎で示す。


「咲夜っ」

緊張から少し声がうわずる。

こみ上げてきた唾液を無理に飲み下す音が脳に響く。



強い風が吹き無言で見つめてくる彼女の体を軽く揺らす。


ずっと言えなかった言葉を

ごまかしてきた思いを


「咲夜、俺は・・・君のことが」


君の傍にいるために


その言葉を紡ごうと口を動かした瞬間

空気を激しく打ち付けるような音が響く


バタバタと重い音が響き渡る。

次第に音は近くなり数も増える。



空気を裂きながら坂から姿を現したのは黒いヘリコプターだった。


ヘリから照射されるライトで一瞬咲夜の姿が消える。


「米軍の攻撃ヘリだ!!」誰かが叫ぶ。


ヘリの下についている筒が回り始める。

蒼汰にはそれが何か直ぐに理解することが出来た。


レミさんの銃と同じだ。


「咲夜!ジョナケン!!隠れろっ!!!」

怒鳴るのと同時に咲夜を玄関側に引きずり込む。

次の瞬間、軽快な音と共に鋼鉄の槍が火を噴いた。


昇降口の柱に隠れた瞬間、ズガガガと弾が地面を舐め、壁を引き裂いていく音が聞こえてくる。

柱が小刻みに揺れる。辺りはコンクリートの破片や粉で視界がよくない。



空を飛ぶ攻撃ヘリは建物手前の仲間に向けて容赦なく弾を打ち込んでいく。

瞬く間に仲間たちは肉塊へと変わっていってしまった。




ヘリで照準を担うパイロットはトリガーから指を離す。

カメラを切り替え煙が立ち込める校舎を確認する。

『本部、こちらヴァイパーワン。入り口は制圧した。』

『こちら本部。よくやった。これより部隊を降下させる。』


パイロットは後ろを飛ぶヘリを確認する。

後ろの二機からロープが垂れ、兵員が下りようとしていた。


正面に顔を向けなおすと屋上に緑色の光が見えた。

慌ててカメラで様子を確認する。

そこには少女が立っていた。


「あれは・・・。」


屋上に佇む少女の髪はヘリのライトで照らされ金色に輝き靡いていた。

その頭には緑色の光を明滅させる銀色のティアラが乗っていた

る。


その近くにもう一人いる。

仮面を着けた男。

作戦において、第一の抹殺目標がそこにいた。


『ほ、本部。目標を発見!四階屋上です!。』

『了解。直ちに殺害せよ。』

『りょ、了解。』


パイロットは照準を男に合わせ始める。

近くの少女に当てないように男だけを狙う。

『攻撃準よし・・。』

 トリガーに指をかける。

その時、男がこちらの方を指さすのが見えた。


その瞬間、ヘリが急に振動子横に振れ、そのまま回転し始める。


「おいっパイロット!どうした!?」

機体は操作不能に陥ったようにぐるぐると回転し続ける。


『メーデー!メーデー!コントロールロスト!!』

制御を失った機体は誰かに操られるように空を舞いながらそのまま後方のへりにぶつかってしまう。

そして二機は互いに炎上しながら墜落し、爆散した。




ゼロワンは墜落したヘリの残骸を一瞥した後、アカネに向き直る。


「上手く作動したみたいだな。」


アカネの頭には緑色の光を放つ冠が光っていた。


「ゼロワン。私はいつでも。」

静かな声が聞こえる。

「よし、やれ。」

ゼロワンは迷わず指示を下す。



アカネは深呼吸をする。


―――ほら、見てよ 空を


あんなにも青くて


眩しい


君は 言ってくれたね 私の瞳も


同じくらい 青いって



夜の学園に歌が響く。

周りの機械は作動音を上げ、冠の光が増し明滅する。


少女は歌う。目の前の男のために。

仮面を着けた男の望みのために。


男は振り返り輝く夜の街を見つめていた。





中庭に設置された箱が歌と同時に起動を始める。


ピピ と電子音が鳴り上部のロックが外れる。




咳き込みながら蒼汰は顔を上げる。肩から建物の破片がパラパラと落ちる。

腕の中には咲夜がいた。


「咲夜、怪我はない?」

咲夜も顔を上げる。

「私は・・・大丈夫。ジョナケンは?」


ジョナケンのいた方を確認する。


「ダイジョブでス。」と親指を立てた拳をジョナケンは突き出す。


蒼汰は二人が無事なことが分かり少しホッとする。


外の様子を確認すると何人もの仲間が銃弾で引き裂かれ地面に転がっていた。


「FIRE!!」


その声と共に炸裂音がする。


その直後ビシバシと柱に銃撃が加えられる。


ゲート付近から複数の兵士が銃撃をしてきたようだった。


「今の英語だったよなぁ!」

叫びながら蒼汰は壁越しに撃ち返す。


「アレ多分、アメリカ人!」とジョナケンも答えながら反撃を始める。


ゲートにいた兵士たちは絶えず射撃をしながら徐々に距離を詰めてきていた。


「早いっ!」

素早く統率のとれた動きの敵に対して咲夜も銃を撃つ。

それと同時に一番近かった兵士が倒れる。


「ひゅ~ヤルぅ!」

ジョナケンはテンションが上がっている様だった。

暫く銃撃戦が繰り広げられる。


するとゲートの奥の坂道から光が見えた。


柱に隠れながら目を凝らす。


そこに姿を現したのは中型の乗用車だった。

猛スピードでゲートめがけ突っ込んでくる。

近くにいた兵士たちを跳ね飛ばし、手前でキキッと止まる。そこに、アメリカ軍が銃撃を浴びせる。

集中砲火が止んだ瞬間中から人が身を出し、四方に向けて銃を乱射し始める。


『敵か?!味方か!?』蒼汰や他のオブビリオンのメンバーたちは一瞬いきなり現れた車に動揺する。


そんな中上からすさまじい音が聞こえてくる。


上から薬莢が降り注ぐ。

慎重に顔を外に出し上を見上げるとレミが窓から身を乗り出し例の武器を撃ちまくっていた。


「レミさん!」

咲夜が呼び掛ける。


するとレミさんが撃ちながらも反応してくれる。


「おおっ生きてたんだねあんた達っ!」

「ほらっもう一踏ん張りだぞっ」と男の声と共に後ろを軽くたたかれる。

振り向くとシセイが笑いながら立っていた。

「あの車、なんだか知らねーが、好都合だっ!」

叫びながら手にしていた球体を敵に投げつけてみせる。

そのあたり一帯が爆音と共に吹き飛ぶ。


米軍はかなりの損害を受けていた。

射撃はしているが少しずつ後退していた。



そんな中、蒼汰も咲夜やジョナケンも米兵も車から降りてきた人たちも一瞬動きを止めてしまう。


「これは・・・歌?」

苛烈な戦闘の中に響いていたのは

とても優しい歌。

『でも、何処か寂しいような・・・。』歌のする上の方を仰ぐ。


バシュッ と空気がはじける音がして直ぐに建物全体が揺れる。

車からは五人ほどの兵士が下りて、学園側に展開をし始める。

肩には大きな筒が担がれそれが火を噴くたびに校舎全体が振動する。


「敵ジャないでスカっ!!」

ジョナケンが半泣き状態で果敢に撃ち続ける。


「食い止めろっ。アカネが歌い終わればこっちの勝ちだっ!」


「アカネが歌い終わる?!」

蒼汰は弾倉を交換しながら聞き返す。


聞こえてくるのはどうやらアカネの歌声らしい。

だとしたら何のために?


「あの歌が新しい世界への鍵だっ!」

興奮気味にシセイが叫んだその瞬間、爆音と閃光に包み込まれる。


―――――――――ィン


蒼汰たちは前にビルで体験したのと同じ現象に見舞われる。


だが今回は、視界と聴覚が奪われたのに加え体中が痛む。


「何が・・・・起きたっ」

蒼汰は咳き込みながら体を起こす。


見ると自分と咲夜が隠れていた柱が粉々になっていた。


周りにはジョナケンや、咲夜が倒れている。

ガラガラと隣で崩れる音がする。

「クソっ・・・・」

シセイが瓦礫から姿を現す。

頭から血を流し片目がつぶれている。そんなひどい状態だった。


「シセイさんっ!」

下半身が埋まり戦えるようには見えなかった。


「新入りぃ・・・おめえ運がいいなぁ・・。」


「シセイさんっ!今、手当てをっ!」


辺りを見回す。

しかし周りには上履きや瓦礫が散乱しているだけで治療に役立つものは見つからない。


その中、咲夜が呻きながら起き上がる。


「咲夜!無事か?!」

シセイさんの治療を試みていると、しっかりとした返事が返ってくる。


シセイが天井を仰ぎハッとする。

「・・・・歌が・・・きこえねぇ。」

その言葉で初めて、さっきまで聞こえていた歌が途絶えていることに気づく。


「上で・・・何かあったんだ・・・。」

咲夜は唖然としながらアカネのいる方を見つめている。

シセイは黙って近くの銃を手繰り寄せ

「ココは、俺が抑える。東さんや他は・・・それぞれの持ち場で踏ん張ってるはずだ・・・。」


「お前ら、アカネやリーダーの・・・・・力になれ・・・。」


そう言い外に向けて銃撃を始める。


後ろの二人の方に振り替えるとジョナケンがぐったりしたまま咲夜に抱き上げられていた。

「ジョナケン!?」

ジョナケンはところどころ怪我をしていたが息はしていた。気絶しているだけのようだった。


「咲夜、アカネ達に何かあったみたいだ。」


咲夜が振り返る。

「助けなきゃ。蒼汰、一緒に来てくれる?」

その顔はところどころ傷ついているが生き生きしていた。

「いこう咲夜。俺は何処でもついていくよ。」


「ジョナケン、無事でね。」

 そういいながらその場に寝かせる。そして咲夜は頷き銃を手に走りだす。

それに蒼汰も続く。



廊下を駆け抜けて階段を目指す。

学園の広い間取りがこの時ばかり恨めしくなる。


階段の手前に着いた瞬間、蒼汰は左の太ももが急に熱くなり力が抜けていくのを感じる。


「蒼汰っ!」

咲夜が振り返り駆け寄ってくれる。


「ガキフタリトマレ。」

ジョナケンよりもひどい訛りだった。


しかも聞こえてきた方向は自分たちが走ってきた方向。


・・・シセイさんが・・・やられたのか・・。

悲しみがこみ上げるが痛みで直ぐに塗りつぶされていく。

蒼汰は這いつくばる姿勢からどうにか立ち上がる。

その瞬間近くを銃弾がかすめていく。


「ウゴクナっ!」


首だけ動かしてみると銃を構えて咲夜と対峙する二人の男が見えた。


一人は大柄で頭に赤いベレー帽をかぶっている。

もう一人は見たことがあった。

短い金髪で巨大な体躯。

あのビルで話しかけてきた謎の男だった。


「銃を捨ててくれ。そしたら危害は加えない。」

金髪の男はしっかりとした日本語で投降を呼びかけてくる。


「断ったら・・・?」

咲夜は銃を構えたまま聞き返す。


再び発砲音がして今度は耳に激痛が走る。


「あぁがっ!」

 痛みに蒼汰は顔を歪める。

耳を押さえると手がぬるっとした。

耳を撃ち抜かれたのだ。


「このッ」

咲夜が撃とうとするが、ベレー帽の男が

「ツギハアタマダ。」と言い放つ。


咲夜は相手を睨みつつ言葉に従う。

ゆっくりと銃が床に置かれる。


「ぁああ、咲夜、逃げろッ・・。」

痛みに耐えながらどうにか絞り出す。


しかし咲夜は首を振り動こうとしない。


ベレー帽の男はニヤリと笑い、また拳銃を発砲する。

咲夜の右側の髪が散る。


「このッ!」

耳を押さえながら叫び立ち上がろうとする。


しかし足に激痛が走り前に倒れこんでしまう。見ると足に血が滲んでいた。最初に撃たれた傷は浅くないようだった。


男が再び引き金を引く。

咲夜の髪の毛が再び何本か散る。


―――やめろ。


金髪の男がロシア語で男に怒鳴りつける。


しかし銃を向けられ男は黙り込んでしまう。


「オイ、オンナ。核ノバショハドコダ?」


咲夜黙ったまま男を睨みつけている。


「コタエロォッ!!」


苛立つ男の拳銃が火を噴く。

額の近くを弾丸がかすめ衝撃で朱色の髪留めが宙を舞う。


―――やめてくれ。


男は『クソっ』と毒づき引き金を絞り込む。


咲夜は瞳を閉じ深呼吸をしている。


その照準はしっかりと額に定まっていた。


「やめろぉおおおおおおッ!!」


無慈悲にも乾いた炸裂音がする。


服がこすれドサッと倒れこむ音がする。

『あぁやめてくれ』

『頼むから俺から奪わないでくれ』

蒼汰は絶望しきったまま蒼汰は恐る恐る顔を上げる。


そこには咲夜が変わらぬ姿で立っている。


「・・・私・・・生きてる・・?」


咲夜も目を開け瞬きを何度かした後、直ぐに駆け寄ってくれる。

助け起こされてやっと何が起きたか分かった。

金髪の男がベレー帽の男を撃ったのだ。


その後も、執拗に体に弾を打ち込んでいる。


「・・・・助けてくれたのか・・・?」


男は撃ち終わって弾倉を交換するとこちらに向き直る。


咲夜と一緒に身構える。


「どうしてその人を撃ったの?」

咲夜は蒼汰に肩をかしつつ問いただす。


「君を撃とうとしたからだ。」

その言い方はまるで彼女を守りたいかのように聞こえる。


「確かビルで会ったよね。敵なんでしょ。」

「確かに敵だ。だが、敵の敵は味方と言うだろう。」

男は窓から外の様子を確認している。


「信じていいの?」

「私は君が望むならどんな命令でもこなそう。」


男はしっかりとした眼差しで見つめてくる。


「・・・・信用していいのか?」

辛うじて立っている蒼汰は再度問う。


「ああ。」

男は強くうなずく。


外では米軍が再び勢いを取り戻し攻勢をかけてきていた。

 銃声とともに壁に次々に穴が空いていく


少し離れた位置で男は壁に身を隠しながら応戦し始める。


それに向けて咲夜は

「ねぇ!名前は!」と叫ぶ。


男は激しい銃弾の雨に身をかがめながら


「俺はセルゲイ!セルゲイトミオカ!」

「セルゲイさん!さっきはありがとう!」


「君は?!」


「私は咲夜!吉田咲夜!」






セルゲイは敵に撃ち込みつつ、『咲夜』とつぶやく。


いい名前だと思った。

さっきの彼女は今まで見てきたどの女性とも違う。

真の強さがあった。何がっても朽ちることない意志が、彼女の瞳から見えた。


ますます惚れるな・・・・。


「おっと」

米軍も負けずと勢いを取り返しつつあった。

二人の子供たちの方を素早く確認する。


隣の男は友人だろうか?

それとも恋人?


戦闘中だがセルゲイは余計なことを色々考えていた。


「咲夜、ここは私が抑える。君は君の役割を果たしなさい。」


叫びながらポーチから爆発物を取り出す。


「分かった。セルゲイさんも。」

そう言いながら階段に体を向ける。耳と足を怪我したもう一人も何とか走る準備を整える。


その間セルゲイは最初見たあの日から言いたかった思いを彼女に伝える。


「咲夜、私は君に一目ぼれしたんだ。協力する理由がそれだ。」

サラッと彼女に告白する。


「えっ・・・」

彼女はキョトンとした様子でこちらを見てくる。


「答えはお互い生き残ったらでいいっ!」

そう怒鳴り、外を確認する。

「よし、今だっ!走れ!!」

セルゲイは叫ぶと同時に爆発物を外に投げつける。


彼女ともう一人は困惑しつつも階段に走り出す。


振り返ることなく登り切るのを確認する。


そして再び外に向けて発砲する。


「・・・・っはははははは。」

セルゲイは興奮していた。


まるで映画の主人公になったかのような気分だった。

彼女を助けることが出来た。

名前を知ることが出来た。

思いを伝えることが出来た。


最高の気分だった。

 しかし


「グっ・・・」


突如腹部が熱くなる。

 視線を落とすと防弾ベストの隙間から血が滲んでいた。


「・・・ッ・・玲奈の仇デース・・・。」

 

 横には壁にもたれるようにして銃を構える男の姿があった。


 茶髪で、全身ボロボロの子共だった。


「・・・・咲夜と一緒にいた子の・・・一人か・・・。」


 セルゲイはその場に倒れこんでしまう。


 ・・・・ああ、

 ・・・・・・・映画みたいには・・・いかないな。

 セルゲイはそのままゆっくりと瞼を閉じた。


 

「れ、レイナぁ・・・私やりマシタ・・・・。」

 そのままジョナケンも壁伝いに崩れ落ちる。


「ぅ・・・ぁ・・・みなサンの所に・・・・。」

 ジョナケンはそう呟きその場に倒れこんだ。





「あ~いってぇ・・・・。」

 無精ひげを撫でながらあたりを見回す。


 学園の裏口には緑のまだら模様の兵士と仲間の死体が入り乱れていた。


 男は小さいころ軍隊にあこがれていたことを思い出していた。

「やっぱ銃ってろくでもねぇわ・・・。」

 腹部や肩は血で染まり、呼吸も痛くて苦しいぐらいだった。


 新手が奥から現れる。


「前方―敵!発砲開始!」


 銃弾が隠れている壁に当たる。


「・・・さすがに二度目は警告なしか・・。」

 敵の肩に白に赤丸の模様が見て取れ、心が痛む。


「・・・すまんなぁ・・・。」

 ボタンをカチカチと鳴らす。


 その瞬間、奥から爆発音が聞こえてくる。

 

 爆風と暫くの静寂。


 それからまた少しして足音が聞こえてくる。


「・・・・そろそろ、お暇するかね・・・。」


 仲間を全て失い、万策尽きた男は咳き込みながらつぶやく。


 足音が隣で止まる。


「・・・先生!?」

 懐かしい声がした。

「・・・あ~お前かぁ・・・・」

 目の前には悪ガキがひとり。

「先生・・・怪我して・・・」

 と言いかけるのを遮り、「何でここにいる?」と問いただす。

「友達を・・・・」

 

「そうか・・・・・。」

 すげぇなコイツ。友達のために、たかが“友達”のためにこんな戦場に来たのか・・・。


「気を付けていけ・・・よ。死んだらあっちで補習な・・・。」

 ギリギリ動く手で上を指さす。


「・・・それは嫌っすね。」

 生徒が笑ってくれる。


 段々と視界がぼやける中、生徒を見送る。

 ―――課題の答え・・・聞き忘れてたなぁ。

 『俺は・・・いい先生に・・・』


 


 二段飛ばしで階段を駆け上がる。

 咲夜は屋上の扉を捉えつつあった。

 少し遅れて蒼汰もついてきている。足の怪我のせいでかなりきつそうだ。

「蒼汰、足大丈夫?」

振り返りつつ心配する。

「ああ、どうにか・・・。」

 息も荒く咲夜は見ていてつらい気持ちになる。


 扉の前にたどり着く。

 開けようとドアノブを押すと扉は歪んでいて開かなくなっていた。


 アカネとゼロワンは無事だろうか。

 戦闘中は気が付かなかったが、階段を上がっている間、ずっとあちこちから銃声や爆発音が響いていた。


 蒼汰も扉の前にたどり着く。

 耳たぶは丸く肉が弾けて、血まみれ状態だった。


「ここを咲夜が蹴るのはあの時以来?」

 それでも蒼汰が笑いながら冗談を言ってくれる。


 本当に強いと咲夜は思う。

 あの日の夕暮れの中で、蒼汰が言った通りついてきてくれた。

 足に傷を負っても隣に立とうとしてくれる。


 階段下でセルゲイが言った言葉が頭をよぎる。


 一目ぼれ。


 その一言で命を懸けてくれるセルゲイに咲夜は申し訳ないと思ってしまう。


 今まで告白してきた男同様に咲夜の中ではセルゲイに告げる言葉は決まっていた。


「蒼汰、いくよっ」


 咲夜は力一杯ドアを蹴る。


 轟音と共に扉は吹き飛んでくれた。文字通り枠から外れて。

 外から吹き吹き込んできた風は苦くむせ返るほど乾いたものだった。




 咲夜が蹴破ったその先の屋上はフェンスがひしゃげ、床もところどころ崩れている有様だった。


 二人は屋上で折り重なるように倒れていた。

 ゼロワンがアカネをかばったのが一目でわかった。


「アカネっ!ゼロワン!」

 咲夜が叫び、二人のもとに駆け寄る。

 蒼汰も足を引きずりつつ後を追う。

「ぅっ」

 下にいるアカネが呻く。


 ゼロワンの背中は赤黒い火傷を負いいくつもの破片が刺さっていた。

 

 蒼汰は咲夜とゼロワンを横にずらす。

 

「蒼汰っゼロワンをお願い!」


「分かった」と蒼汰は返事を返しゼロワンの容態を確認する。

 ・・・息はしていた。

 ただとても消耗していて瀕死の状態だった。

「ま、まず破片を取り除かないと・・・。」

 ゼロワンの隣に蒼汰も座り慎重に破片を抜いていく。

 『・・・』

 背中が焼けきり、破片をとっても出血しないぐらいの酷い火傷だった。


「咲夜・・・?」

 アカネが目を覚ましたらしい。

 淡い瞳がフラフラと焦点が定まっていない。


「あぅ・・ヤマ・・・と・・・」

 徐々に目に光がともっていく。


「・・・・ゼロワンッ!!」

 咲夜の腕の中からガバッとアカネが身を起こしゼロワンに駆け寄ってくる。


「ゼロワンッゼロワンッ!!」

 

 アカネは叫びながら割れた仮面の男の傍に座り込む。


「ヤマト・・・・お願い・・・」

 アカネがゼロワンにそう呼びかけながら膝に頭を抱きかかえる。


「ぁあぁ、何故・・・・その名を・・君が・・・」

 

 ゼロワンは擦れた声で呟く。


「ゼロワンっ無茶しないでっ」

咲夜も顔を寄せる。


 ゼロワンは浅く弱々しい呼吸をしながら蒼汰の方を見る。


「蒼汰・・・体を仰向けに・・・」

 その言葉に一瞬、驚いてしまう。初めて名前を呼んでもらえた気がした。


 直ぐに我に返りゼロワンの体をゆっくりと仰向けにする。


 ・・・・・・・軽い。

 想像しているよりも何倍も男は軽かった。

 雰囲気や立場に反してその男は痩せて脆い体をしていた。


「アカネ・・・無事か・・・?」

「・・はい。」

「私の・・名前・・・知っていたのか・・?」

「・・・・はい。」

 

 アカネは今にも泣きそうな顔でゼロワンを見つめている。

 

「ああ、いいものが最後に・・・・見れた。」

 ゼロワンの声は弱くも満足そうだった。


 あっけないと思った。

 世界を変えるといった男が


 こんなにも儚い終わり方をするのか。


「・・・ゼロワン。」

 呼びかけずにはいられなかった。

「あんたそれでいいのかよ。」

 問わずにはいられなかった。

 

 学園をめちゃくちゃにして 

 咲夜を引き込んで

 俺たちを巻き込んだ奴が


 アカネの表情一つで満足して死のうとしている。


「計画とか・・・はっいいのかよ!」


 思わず叫んでしまう。


 正門で薙ぎ払われた仲間。

 ボロボロになったシセイさんやジョナケン。

 どこかで戦っている東さん、パースさん、レミさん・・・・

 助けてくれたセルゲイさん。

 ・・・恋敵だけど。


 皆が命を懸けた計画を。

 

 見届けずにいくのは余りにも


 悲しく無責任ではないか。


 ゼロワンは目を細め、無言で指を指す。

 指の先には銀色のティアラが転がっていた。


 咲夜がそれを慎重に拾い上げる。


「それを・・・・アカネ・・・に。」


 咲夜はそれをアカネに被せる。

 クリーム色の髪にそれは良く似合った。


「ゼロワン・・・」

アカネが呟く。


「ヤマト・・・で・・いい。いつから・・・・知っていた・・?」


「あなたが助けてくれた時から。・・・貴方が私に名前をくれた時から・・・。」

 アカネの声はどんどん小さくなっていく。

「あなたが・・・ヤマトが育ててくれた時も・・・・撫でてくれた時も・・・・知っていた・・・・・。」

 淡い水色の瞳からいくつも水滴が落ちる。


 それが仮面に当たり、表面を伝いながら落ちていく。


「あなたが見えなくなっても・・・・・その名前はおぼ・・・・え・・ていた。」


 アカネは泣いていた。

 その美しい瞳に確かな炎を宿らせながらも、大粒の涙を、こぼしていた。


 ゼロワンは再び嬉しそうに目を細める。


「・・・・咲夜、蒼汰・・・ありがとう。」


 蒼汰はその言葉にビクリと体を震わせてしまう。


 俺が何をしたというのか。


「君たちが・・・・彼女を・・・鍵へと変えた。」

ゼロワンは手を伸ばし傍らで倒れている機械のスイッチを押していく。


「君たちが・・・・兵器から・・人に変えたんだ・・・・。」


 アカネのティアラに緑色の光が灯る。


「ぁあ・・・未希さん・・・・。ごめんなさい・・・・。」


 そう呟くゼロワンは母親に謝る幼子のようだった。


「アカネ・・・・私のために・・・」

 

 “歌を”


 すでにゼロワンの眼から光が失われていた。


 咲夜が優しく瞼を閉じてやる。


 アカネは俯いている。


 だが、アカネの頭の装置はその光を増していた。


 咲夜がアカネを優しく抱き寄せる。

「アカネ・・・・・。」


 アカネはゼロワンを膝に抱いたまま顔を上げる。


 周囲からは銃声や爆発音が続いていた。


「咲夜、ありがとう。」

 アカネの瞳には今までにない輝きがあった。

 淡く蒼い炎が

 その瞳にともってキラキラと揺らいでいた。

 

「――――――――ッ」


 アカネは深く息を吸いゆっくりと吐く。


「・・・貴方の願いを・・・・。」

 小さく呟き


ほら 見てよ 空を あんなにも青くて

眩しい 君は 言ってくれたね 私の瞳も同じくらい 青いって 


詠うその姿からは神々しさと儚さを感じる。


でも もう今は 君は何処にもいないね

君はきっと 私のことを覚えていない

でも私は 君の事を覚えている


緑色の光がさらに増す。 

 

空を見上げるたびに 君がほめて 

私の頭を 撫でてくれたことを・・・



「・・・・綺麗・・・。」

 咲夜はそう呟く。

「ああ、綺麗で・・・・とても悲しげな・・・。」

 蒼汰には分かった。

 分かってしまったのだ。

 この歌がどんな気持ちで彼に捧げられているのかを。


 ほら 見てよ 私を こんなにも大きく

 成長したの 君は 言ってくれたね 


優しく悲しい歌声は徐々にはっきりとしていく


私は兵器と同じくらい 強いって

 でも もう今は 私は弱いんだ

 でも私は 君を守りたい


  光は鋭さを増しアカネの頭を包み込む。その様子はまるで

  まるでそれは

  茨の冠のようだった。


 変わろうとも 変わらない

 君の傍で 戦うってことを・・・・ 

 

 

 

 中庭の箱の上部から球体が姿を現す。

 箱から徐々に出て同時に大きく膨らんでいく。


 それなりの大きさになった球体は宙に浮かび徐々に上昇していく。



 中庭で交戦していた各兵士たちは動きを止めて見上げてしまう。



 巨大な風船の下には黒い箱がついている。



 何人かの兵士が恐れて撃ち落とそうとする。


「やめろっ!撃つな!!」

 各国の指揮官が怒鳴る。


「あれは核かもしれないんだぞ!」

 

 そう叫んだのは何処の国の部隊かは分からない。

 だが、オブビリオンのメンバー以外は戦闘を一斉にやめ、銃を投げ捨て一目散に走り出す。



  歌が広がっていった。


 学園中へ


 君が 壊したかったのは 

 こんなにも 美しい セカイ

私を 弱くしてしまったのは

 

  電波にのってあらゆる機器を侵食していく。

  音波と電波が混ざり合って響き渡っていく。


ほかでもない この 世界

君を私から奪ったのは

 ここにある 醜いただ一つの せかい

 罪を 重ねる せかい

 その罪を 人々は 知らない



 歌は響き世界を駆け巡る。世界を覆うネットワークを伝い世界へと。

 とあるアメリカの廃墟の屋上にたどり着く。そしてそこに置かれた箱が目を覚ます。

 天板が開き球体が育ち宙に飛び立つ。

 

 砂漠の中を駆け抜ける。

 そして砂漠の中の箱に。

 箱は息を吹き返し、小さな箱を空へ送り出す。

 氷の大地と、雪の大陸に置かれた箱にも歌は届く。

 そして空に向け小さな箱を吐き出す。 

 


 それこそ 私たちの 世界

 君と 出会えた この セカイ

 

 

 


 



「・・・・・」


 アカネは歌い終わった後、静かに目を閉じていた。


 『・・・・』

 咲夜も俺も彼女を見守っていた。


 銃声はいつの間にか止み辺りは静寂に満ちていた。


 アカネは力を使い切ったのか横に倒れこむ。

 それを咲夜が素早く支える。

「アカネ・・・大丈夫・・?」

 アカネは朦朧としている。

「世界中の箱の起動を確認・・・。」

 

 中庭を確認すると小さな気球が箱を持ち上げ浮き上がっているところだった。


「アレが箱の中身?」

蒼汰は屋根の縁に駆け寄る。


 ゆっくりと気球は中庭の大木の横を通り過ぎていく。


 そしてさらに上へ


 上がらなかった。



 気球からのびてるロープの一つが切れ、大木に引っかかっていた。


「これって良くないよな・・・・」

 どうすればいいか分からず当たり前の事を蒼汰は呟いてしまう。

「それをっ早く空に・・・・」

 そう言いながら立ち上がろうとしたアカネはその場に崩れ落ちる。


「アカネ!」

 咲夜がギリギリのところで受け止める。

 

 空は少しずつ明るくなりつつあった。


 箱を見る。気球は空に上がろうとしているが、枝に絡まっているせいで停滞している。


 枝は細く上に向けて撓んでいる。


 『あの枝なら・・・衝撃を与えれば折れるかもしれない・・・・』

 蒼汰は覚悟を決め助走をとろうとする。


 

「私があのロープを切る。」

 その声は咲夜だった。


「ッ・・君がやる必要はない!」

 全力で否定する。

 行かせる気は蒼汰にはなかった。


「いいの、蒼汰。私もこの計画に参加した一人だから・・・・。」


 だとしても、君である必要はない。


「俺が行く。」


 鈍く痛む足を引きずりながらヘリから距離をとる。


「蒼汰っ!やめて!そんな足じゃ無理!」


 咲夜はアカネを抱えたまま叫ぶ。


 咲夜。

 幼馴染。

 俺の大切な人。


「咲夜・・・・」


 蒼汰は落ち着いた声で話しかける。


「ゼロワンに賛同したなら、お前も世界を変えたいんだろ。」

「・・・・・」

咲夜は無言で首を横に振る。


「それを見届けなきゃダメだろ、咲夜。」

 

 『俺は君のためにここにいるのだから』


「足なら大丈夫。気にどうにかしがみつけば死なないから。」


「・・・・蒼汰・・。」

 咲夜は下を俯いている。


「巻き込んだのは私だけど・・・・これ以上傷つかないで欲しい・・・・・。」


 震える声でそう告げられる。


「わがままだなぁ・・・・」

 つい笑ってしまう。


 どんな時でも彼女の傍に居たいと願った。

 彼女を守りたいと

 笑顔を見たいと。


 今すべきことは


 彼女の望むとおり世界を変えること。


「咲夜・・・俺は大丈夫だよ。だから・・・心配するな。」

 笑って胸を張って見せる。


 風が吹き咲夜の髪を揺らす。

 朝焼けに染まる彼女の顔に水滴が光る。


 あぁ、今なら言える。


「咲夜、俺がここまでするのは・・・・・君が好きだから。君を・・・守りたいから。君を笑顔にしたいから。」


「君が好きだよ。咲夜。」


 咲夜は顔を伏せたままだった。


 答えが怖くなって前に向き直る。

 不思議と心と体が軽くなった気がした。


「・・・・・だょ。」

 咲夜が擦れた声で呟く。

「・・・遅すぎだよ・・いまじゃないでしょ・・・・ばか・・。」

 そういいながら頬をぬぐう彼女は嬉しそうに頬を染めている。



 暁に差し掛かり咲夜を赤く染め上げる。


 その様子は今まで一緒にいた十数年間の中で最も美しく、可愛く、 

 こう・・・・胸をえぐられるような。

 身を芯から焼く烈情を抱かせる。


「咲夜、行ってきます」

 挨拶を終え、蒼汰は走り出す。

 一歩足を踏み出すたびに足に激痛が走る。


 あと五メートル。


 ぎちぎちと体が軋む。

 後一メートル。


 『枝さえ折れれば気球は動き出すはず。』そう考えながら四肢に力を籠める。


 『今ッ』


 蒼汰は無事な方の足で思いっきり床を蹴る。


「うおおおおおおおおおおおおっ」


 脚力による浮遊は一瞬で、徐々に木に向かって落下していく。


 バキバキッ  ビシッ バシッ


 枝が次々に体に当たり折れていく。


「ッ・・!」


 ガクッと体が止まる。

「・・どうにか・・・地面は免れた・・・。」


 逆さまになりつつも気球の状態を確認する。


 気球は無事上昇を始めていた。


 しかし、一つ問題があった。

 それは自分自身も上昇していることだった。

 

「このッ!」

 足に絡まったロープを解こうと必死にもがく。

 

 徐々に体が浮き始める。

 落ちてきた方とは逆向きに体が引っ張られる。

 足が引っ張られるれ傷口広がり、皮膚が裂ける。

「ぐッがああぁあっぁあ!」

 懸命にもがき腕を伸ばすが届かない。


 そうしている間にも着実に体は持ち上がっていく。


「蒼汰!!」

咲夜が屋上の縁に駆け寄る。

 

「今助けるから!!」

 そう叫び助走をとろうと下がり始める。


「ダメだッ!!」と叫ぶ


 そもそも咲夜もボロボロだ。それに屋上と同じぐらいまですでに体は浮いていた。


「このぉおッ」

再度、体をくの字にまげロープに手を伸ばす。


 しかし手は闇雲に宙を掴むばかりだった。


 咲夜の何かに驚くような声がする。

 

 パタパタとコンクリートをかける音がした後


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 何かが叫びながら猛スピードで飛んでくる。

 何か重いものが取り付き体が大きく揺さぶられる。


「そうちゃん!俺っ参上!!」

 

 そういいながら体にしがみついているのは、


「隼人?!何でここに?!」


 基地で逃げたと聞かされていた親友がそこにいた。


「怖ええええええええっ」と叫びながら隼人は蒼汰の体をよじ登っていく。


「今助けるぜ。そうちゃん!感謝してくれよっ!」

 そういい隼人はズボンから小型のナイフを取り出しロープに振り下ろす。


「えっちょ・・・・ああああああああああああっ!!!!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおお。」


 容赦なくロープが切断され頭から落ちていく。


 蒼汰は落下する最中、思った。

 持つべきものは最良の友だと。

 そして同時に無謀な友の事を少し憎んだ。



 

 余計な足かせを失った気球は徐々に加速しながら上昇していく。


 暁の空をぐんぐんと登っていく。



 雲を抜け、青い空へ

 次第に空気が薄くなる。

 高度五十キロメートルを超える。

 

高高度に達した箱の中で気圧計が作動する。



ピーと短いアラームと共に電子回路に電流が流れていく。



 突如、激しい閃光と共に空気が焼かれ、夜空を赤く染め上げていく。




 

首都東京は混乱に陥っていた。

 四年ぶりに姿を現した男の演説の後、政府が緊急避難警報を発令した。

 駅や道路は人でごった返した。

東京 某所

「ねぇ・・・ママ、歌が聞こえなくなったよ・・・。」

「マミちゃんッそれどころじゃないでしょ!早く非難しなきゃダメなんだから。」


 交通機関での避難を諦めた人々が国道沿いにぞろぞろと避難していた。


「ママ・・・・お空が・・・。」


 人々の中からどよめきや悲鳴が上がる。



 暁に差し掛かった空に太陽がもう一つ現れた。

 その光は眩い閃光と共に膨れ上がり空を覆いつくしていく。


 熱のないただ眩しいオレンジ色の光が空を飲み込むように広がっていく。



 砂漠を行く人々の空に。

 摩天楼の大都市を行く人々の空に。

 夜のない氷の地の空に

 長き夜空の上に。


 

 地球における五か所の空にその光は広がりそして急に飛散する。




「あーーー俺たちがやったのか?あれ。」

 蒼汰は怪我をした足に布を巻きながらぼやく。

「いてぇ・・・・し。眩しいし・・・。嫌になるよなぁ。」

 隣で隼人が応じる。


「あれで終わりじゃない。」

東さんが後ろで呟く。


 落ちた時、東さんやパースさんが受け止めてなかったら死んでいただろう。


 パースさんがアカネを抱えて下りてくる。

 そして咲夜も。


「蒼汰っ!」

咲夜に飛びつかれ押し倒される。

「Oh~~熱いデスね~~。」

 

 中庭の入り口にはジョナケンが壁にもたれつつ立っていた。

「ジョナケン!!!!」

 隼人のすさまじい抱擁を辛うじて躱しながら笑っている。


「玲奈のカタキ獲ってヤッタですよ。」


 と親指を立て拳を突き出す。


 咲夜に抱き着かれたままの蒼汰も同様に拳を突き出す。


「・・・ぁ。」


 空から軟らかい緑色の光が降り注いでいた。


「オーロラ?!」

隼人は口をあんぐりと開けながら空を見ている。


 皆、感動を口にして空を見上げている。


 日の出の中に緑や紫、青と言った複雑な色が混ざり合った旗が、たなびいていた。

「・・・スカイフォールが成されたな。」

 東が呟く。


「あれっ写真が撮れない?!」

 隼人が黒いままの画面のスマホをつついている。


「無駄よぉ。世界の電子機器は壊れ、衛星も全部鉄くずになったもの。」


 パースは空を見上げながら答える。


「これがスカイフォールの正体なの?」

 咲夜が光を失った街を見ながら尋ねる。


 東がゆっくりと頷く。

「そうだ。これが我々オブビリオンと君が望んだ世界だ。」


 



 

 

 その夏の夜は日本でも、世界でもスカイフォールと呼ばれる事件になった。


 電子機器が壊れたことにより、通信やネットワークが失われ世界は混乱に陥った。


 そして、その日のうちに死亡した人々の数は六百万人にのぼった。

 そして世界は核兵器完全廃絶へと動き出した。同時に、世界中で政府の崩壊が相次いだりもした。


 ジャワジャワジャワ


 セミが五月蠅く鳴いていた。


 日本は他国ほど酷くはないが、輸入が滞り社会が混乱しているのは事実だった。

 そして日本全域に戒厳令が敷かれていた。

 

「ゼロワン。どう?気はすんだ?」


 咲夜は墓標に花を添える。


 隣には白いワンピースに身を包んだアカネもいる。


 日陰ではジョナケンが車椅子を押しながら隼人と楽しくだべっていた。


 車椅子にはその二人を見て笑う玲奈さんの姿があった。


 アカネは黙とうした後、踵を返して歩き始める。

 それに日陰にいた三人が続く。


「咲夜・・・。俺たちがこの世界をこんな風にしたんだよな。」


「私たちはただの人殺しかもね。」



 世界は美しくも醜い。

 

 自分のしていることが正しいかは分からない。

 ただのテロリストともいえる。

 

 だが世界には確かにゼロワンに賛同する人々が増えつつあった。


 社会の本当の姿が、この混乱の中で垣間見えるようになったのだ。

 ネットを介した繋がりが失われ、人々は自分自身で考え行動しなければならなくなった。

 


 

 “その目は何のためにある”


 “その声は何のために”


 “その手は何のために”


 『すべては彼女のために。』


「蒼汰、どうかした?」

咲夜が此方を見つめながら歩き出す。


「いこう、蒼汰。」

 

 差し出された手を握る。


「ああ、行こうか副リーダー殿。」

 そう茶化しながら歩き出す。


 

 

 二人はセミの五月蠅い夏空の下を歩き始めた。


初めまして。私はルファ オーデンと申します。

 今回、『暁に落ちる』を呼んでいただき本当にありがとうございました。

 この作品は私にとっての初投稿作品になります。元々、本や小説が好きでよく読んでいました。そして読むうちに色々自分なりの物語を想像するようになって・・・。気が付いたら書き始めていました。

 文法や基本的な本の書き方など何も勉強せずに、ただただ自分の頭の中にあった世界を文字に起こしただけになりましたが、コレが楽しい。時間を忘れ、寝る間を惜しんで書いてしまいました。

 ただ、深夜テンションで書いた部分も多々あり読み返して死にたくなるような文もあって・・・ね。一人で悶絶したりしました。そんなこんなでどうにか一本書き上げ、このサイトに投げ込むとこまで来ることが出来ました。

 色々と変なところや読みにくい場面があったと思います。それでも呼んでくださった皆さんに改めて感謝を!

この作品の反省点を生かしつつ次回作を作れればな~と思っています!もしまた皆さんとお会いする機会があればどうかよろしくお願いします!


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