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暁に落ちる  作者: ルファ オーデン
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幕間 愛とはとても呼べない

幕間です。読まずに飛ばしてもらっても話の流れが分かるようにはしています。(多分)

   幕間 愛とはとても呼べない



 その子を最初、可哀そうだと思った。

 次に彼女をアカネと名をつけた。

次に彼女を武器だと。

次に優秀な兵士だと。

 次に兵器だと。

 次に鍵だと。

 『愛していると』

 そんな資格はない。あるはずがない。

 『愛とはとても呼べない。』


 東は一ヶ月ぶりに日本の土を踏んでいた。ロシアの武器商人から素晴らしい武器を買い、漁船に偽装した船で日本に持ち帰ってきていた。

 『もうひと踏ん張り』と少し疲労を感じる体に気合を入れなおす。部下に用意させておいた五トントラックに乗り込む。すっかり暗くなった都内を慎重に走り抜け、整備されずに放棄された道に入る。

トラックの荷台が枝や草をはじく音が聞こえる。

 しばらく走ると鎖で施錠された錆きったゲートに着く。ライトを取り出し車内から外に向け規則正しく点滅させる。

すると草陰から武装した男たちが出てきてゲートを開ける。

持っていたライトを消しトラックを再び進める。ドーム状の建物を通り過ぎ、格納庫のような建物に入る。入ると中はさらに掘り下げられており外からは想像もつかない広さを確保している。

トラックを止め、車両から降りると、照明が一斉につく。

まぶしさに一瞬目を細めてしまう。

上から声が聞こえ同時に階段を下りる音が聞こえる。

柔和な顔立ちをした男が下りてくる。

「よぉ東、任務お疲れさん」

下りてきた男は同じ組織の技術顧問として働く間宮という若者だった。

「ちゃんと傷一つなく連れ帰ったぞ」

軽くコンテナを叩く。

間宮は待ちきれないという感じでコンテナに近寄り扉を開ける。

コンテナの中から六つの美しい円錐形の物体が姿を現す。

『おぉお』と間宮が感嘆する。

「東こいつは予想通り、いやそれ以上だ!」

興奮気味に話す。

「このタイプは旧式じゃなくて冷戦末期の実際に打ち合うことを想定したもので、エンジンも改良型だから・・・爆発範囲も恐ろしく広いはずだっ。それにこの数見てよ!こいつはきっと首都に打ち込むクラスタータイプだよ!きっと!」とまくしたてる。

東は押され気味になりつつ

『そ、そうか』と相槌をうつ。

するとそこにもう一つ声が上から降ってくる。

「間宮、肝心なのはそれが役に立つか否か、だよ」

声の主は階段を使わずそこそこの高さを飛び降り、東の隣にストっと着地する。

声の主は仮面をしていて表情が読み取れない。だが、声色から機嫌がいい事が分かった。

間宮は直ぐに興奮状態を押さえ、改まった表情で

「十分です!これなら予定よりも少ない数の設置で済みそうです!」

「そうか。なら早急に取り掛かってくれ。」と東の主は指示を出す。

その隣にはいつの間にか栗色の髪を後ろで結った少女が立っていた。

東は少女に目をやると、少女は無機質な表情のまま軽く会釈をした。


しばらく組織内は慌ただしくバタついていた。東の運んだ武器を解体し、また新たに五個の装置に組み上げる作業が進められていた。

「間宮さん!これはどうすれば?!」

「それはこうだ!」

「間宮さん!」

「バッカそれぐらい自分で考えっ・・やっぱダメだ!」

「主任!これは・・・」

と間宮率いる技術部門が夜通し作業にかかっていた。

 そんな様子を横目に見ながら東は呼び出しを受けた建物へと向かった。




 無線を置き一息つく。今のゼロワンにとっては右腕ともいえる東を呼び出す作業も困難が伴う。

「ゲフォッゴホッ」

咳き込み無線を落としてしまう。

「ほっキャチーセーフ―」

素早く無線機を受け取ったのは組織の医療部門を担う看護師パースだ。

 いかにも褐色美人と言った感じだが出るとこは出て締まるとこは締まるというモデル体型。さらには東ともいい勝負をする高身長。それを看護婦服で包んでいるが、どちらかと言うと夜の店に似合う印象を受ける。


「リーダー、透析終わったらこっち飲んでくださいねぇ。あと点滴するので呼んでくださいよぉ。」とテキパキと隣の机に大小形様々な薬が並んでいく。

「ではっ」

一度お辞儀をしてから部屋を出ていく。

 機械の作動音が静かに響く。

 部屋の隅に少し目をやるとアカネという名のクリーム色の髪をした少女が戦闘服を身に纏い、静かに椅子に座っていた。

 暫くして扉がノックされる。相手がだれか分かっているので『入れ』と入室を促す。

 ドアの向こうから現れたのはサングラスをかけた東の姿だった。

 岩のような印象を持つその男は静かに自身が横たわるベットまで歩いてくる。

「なんのご用件でしょう。」

「あぁ東、命令がある。」擦れた声で指示を出す。

「今作らせている五つの装置の一つは日本に設置される。それは知っているな?」

「はい。他の四つはニューヨーク、イラン、各極点ですね」

「そうだ。実は日本の設置予定地が絞り切れていない。ついては視察任務に就いてもらう。」

と言いながら机に置いておいた資料を渡す。

 東は静かに受け取り素早く書類に目を通していく。

 途中でその手が止まる。

「・・・ここもですか?」


東は衣笠学園と書かれた資料を見せてくる。

「いや、そこは別の者に行かせる。」

「私でないとすると、シセイですか?それともシャーマンの奴ですか?」と組織内の戦闘要員の名前を次々に挙げていく。

「いや、その誰でもない。」

東の顔が『では一体?』と言いたげに曇る。

「アカネを行かせる。」

「・・・」

珍しく東が驚いたような顔をした。この組織では一番古い付き合いの東からこの表情を見たのは“計画”について告げた時以来だった。

「何か問題か?」

咳き込みつつも尋ねる。

『い、いえ。』と引き下がる。

その後は細かな連絡と追加命令を出して部屋から退出させる。


再び機械音だけがする部屋に戻る。

・・・東の奴何故あんなに動揺していたんだ。ゼロワンは不思議に思いつつも体を休めるため目を閉じ眠りについた。




セミがうるさく鳴き夏真っ盛りという時、ゼロワンは一面白塗りの部屋をガラス越しに眺めていた。

『忌々しいこの部屋を今度は自分のために使うとは・・・』皮肉めいた運命を感じゼロワンは軽く不快感を覚える。

「ボス、セットできましたよ。」

「こっちも準備完了っす。」

医療部門で眼鏡姿の有坂医師と間宮がこちらを見てくる。

「そうか、じゃあ初めてくれ」と合図を出す。

ガラスの向こうでは一人の少女が様々な装置に囲まれながら立っていた。少女の頭には銀色に光るティアラのようなものが輝いていた。


少女は合図とともに目をゆっくりと閉じる。

そして唇を開き美しい音階を紡ぎだす。

「Aaa―――」

「第二段階」と指示を出す。


「Aa―――」


少女の周りの装置がうなり始める。

「同期中・・・・ダメです同期率二十二パーセント。なおも減少中。」と間宮。

「バイタルは安定。精神的にも問題ありません。」

「第三段階」と言い放つ。

「了解」と間宮が返事し同時に周りにいた仲間たちがバタバタと走り始める。

有坂医師も「救護班用意!」と無線に怒鳴る。


少女の周りの機械はさらに稼働音を増す。

彼女の頭に輝く装置に緑の光がともる。 


ほら 見てよ 空を あんなにも青くて

眩しい 君は 言ってくれたね 私の瞳も同じくらい 青いって 


少女は唄を紡ぐ。


でも もう今は 君は何処にもいないね

君はきっと 私のことを覚えていない

でも私は 君の事を覚えている 

空を見上げるたびに 君がほめて 

私の頭を 撫でてくれたことを・・・


「同期率五十六パーセント」

「バイタル急変!薬剤投与!」

「混合液半分注入します!」

ゼロワンは仮面とガラス越しに歌い続ける少女を見る。銀色の王冠に緑色の光が明滅する。

「精神不安定状態!救護班準備!」

「ダメだ!感情の到達点が低すぎるうえ、安定性が無い!」と間宮はパソコンに手を叩きつける。

「中止」と短く告げる。

少女はその場に座り込む。冠にはもう緑の輝きは無かった。


その夜ゼロワンは間宮と有坂を自室に呼び出した。

パースが身を起こすのを手伝ってくれる。

起きると同時に点滴の管と背中から延びる何本ものコードがシーツをこする音がする。

「確実に活動時間が短くなっていますな」と有坂が心配そうに告げる。

「時間がないってことか・・・。」と間宮も暗い顔をする。

体が限界を迎えつつあることは理解しているが部下を心配させるために呼び出したわけではない。

「今日の結果はどうだった?」

昼間の実験について尋ねる。

「最大同期率は上がってきています。最初に比べて倍近くになっています。」

「ただ、安定性が悪くこのままでは鍵としての役割は果たせないでしょうな。」

困り切ったような顔をしながら間宮は答える。

「そもそも彼女の精神構造は我々とは違います。感情の起伏もかなり乏しい。」さらに有坂は

「いい兆候としてはボスの狙い通り以前よりは感情に幅が出来ているように感じます。」

「そうか。苦労して学園に編入させたかいがあったか。」

「はい。様々な人間がいるのが学校というものです。刺激されて感情の出し方が分かってくるでしょう。」と書類をパラパラめくりながら考察を述べる。

「間宮、機械の方であとどれぐらいサポートできる?」

「ん~~。二十五パーセントてとこですかね。結局は脳波を読み取って増幅させる仕組みですから。つまるところ彼女しだいですかね。」

「今の“茨の冠”の出力は?」

「機械はあれが限界っす。あとはさっきも言ってるように本人次第っす。」

「もし仮に今の状態の彼女を機械にフォローさせるならアメリカが開発したばかりの最新式広域電波発信機が必要になりますよ。」

肩をすくめながらお手上げポーズをする。

資料を見ていた有坂が

「こうも彼女についてデータが少ないと医師として私にできることは少なそうです。」

申し訳なさそうに言う。

「資料の大部分は事故で喪失してしまっているからな・・・。どうにか俺のデータで対処できないか?」と聞いてみる。

「・・・それが出来たら苦労しませんよ。残っていた資料を見る限りでは貴方と彼女ではそもそものコンセプトが違います。」

資料をさらにめくり

「あなたは第一世代として戦闘特化として作られていますが、運用思想は兵士そのものです。しかし、あの子、アカネは第二世代で人ではなく兵器としてデザインされています。同じデザインチャイルドでもこうもコンセプトが違うと・・・。貴方のデータは全く使い物になりません。」

はっきりと言われてしまう。

「せめて、もう少し資料があれば・・・」と聞こえたとこである男の顔がゼロワンの脳裏に浮かぶ。

「有坂、それなら少し心当たりがある。」

ゼロワンにとっての仮面をつける前の数少ない思い出


『―――困ったら、誰かに頼る。これはカッコ悪いことなんかじゃないんだぜ。』


そう言い頭をなでてくれた男の事を。


そして部下を下がらせまたゼロワンは微睡みへと落ちていくのであった。




東は日本各地を回り任務を終了させ組織の拠点に戻ってきていた。

少し休暇をもらってから、戦闘要員との訓練や装置組み立ての手伝いと日常業務をこなしていた。


『・・・』

ここ数日胃がムカついてまともに食事がとれていない。

「あれ、東さんどうしたんすか?」

アフロが強烈な印象を与えてくるシセイという男が食事を運んできて、東の正面に座る。

夕飯時ということもあり、食堂はそれなりに仲間たちの姿がある。

「夏バテですかー?東さん。」とカレーをぱくつきながら聞いてくる。

「いや、そうじゃない。健康状態には問題ない。」と言い切る。

「そうなんですかね。でも、“計画”もいよいよ終局ですし、メディカルチェック受けたらどうですか?」と勧めてくる。

東もそれについては悩んだ。しかし原因は分かっていたので、わざわざ苦手なパースのとこに行く気がなかった。

原因は分かり切っている。ただ理由が分からない。

「東さん、無理しないでくださいよー俺には替わり務まんないんで。」

 

食堂が少しざわつく


シセイと共に騒ぎを確かめようと周りを見回す。

「あぁ、お嬢がきたんすね。」とつぶやく。

ちょうど入り口の扉から制服姿のアカネが出てくるところだった。

「アカネがここに来るのは珍しいな。」

東の知るアカネはゼロワンの傍にいるところか“第二実験教室”にいるとこしか知らないからだ。

するとシセイはキョトンとしながら

「あれ、東さん知らなかったんですか?お嬢、潜入任務以来、色んなところに顔出すようになったんですよ。」

胃が再び軋む。

「あーそうか、東さん任務で出てましたもんね。」

その後もシセイはアカネについて色々と教えてくれる。

しかし、東はその半部も聞いておらず胸の中を渦巻く何とも言えない感覚を抑え込むのに必死だった。

そう、原因はあの子なのだ。

任務から帰ってきてゼロワンに報告に行ったときアカネに“お帰り“と言われたのがきっかけだった。

言われた時は呆気にとられしばらく動けなかった。おかげでゼロワンが楽しそうに笑ってくれたのがせめてもの救いだった。

潜入任務に出すと聞いたときは驚いた。“計画”の要であり、鍵である彼女を何故監視下から外すのか、と。

どうもシセイによると彼女が変わり始めたのはそのころかららしい。

確かに、ここ最近のアカネは東を動揺させてばかりいた。戦闘訓練をした時、すれ違う時、誰かと話している姿、現に今も東を驚かせてばかりいる。


「東」

鈴の音のような声で呼ばれる。


「・・・・・」

東は絶句した。周りを常に把握するのが東という男だが、この時ばかりはアカネの接近はおろか、シセイが不思議そうにこちらに顔を寄せている事にも気付かなかったからだ。

慌てて反応する。

「ぉ、あぁ、どうした、アカネ」

出来る限り平静を装いながら答える。

「東、変。」と言いながらアカネが手をこちらに伸ばす。

「ぉぁ」と間抜けな声が出てしまう。


アカネはゼロワンと東、パースが育てたといっても過言ではない。

十二歳ぐらいの少女をゼロワンは彼女に関係する言葉からアカネと言う名をつけた。

言葉を喋らない彼女にパースは根気よく教え、東が訓練した。

気がつけば組織は大きくなり、彼女もまた強く賢く育ち組織の要になっていた。


アカネの手がゆっくりと東の首筋に延びる。


こんなに近くでアカネを見るのはいつ以来だ・・・。

知らぬ間に伸びている身長。いつもの戦闘服ではなく制服。その装いのせいで成長したのは背丈だけではないと思い知らされる。


急に胃の少し上が熱くなる。


アカネの指先がついに東の首筋に触れる。

「・・・」

動悸が激しい。体温が上がっていくのが分かる。息が出来ないほど、のどの奥が締まる感覚。

「脈が少し早い?・・・それに体温も。」

「な、何?」

思わず聞き返してしまう。

すると、アカネは

「東が最近食欲が無く、体調が悪そうだと聞きました。」

そう言いながら厨房を指さす。

厨房ではレミ料理長がこちらを見ながら満足そうに親指を立てた拳を突き出してくる。


「あぁ、いや、俺は大丈夫だ。た、多分任務で少し疲れただけだろう」と場を繕う。


「そうですか・・・無茶しないで下さいね」

そう言い残しレミの方へと歩いていく。


「なぁ、シセイ。俺はメディカルチェック受けてくる。」

言いながら東は席を立ち食堂を後にする。

「東さんみたいな人でも体調崩すんですね」と感心しながらシセイは食べ終わった食器を返却しに向かった。




ゼロワンは一人、教室のような部屋にたたずんでいた。入り口には擦れてほとんど読めなくなった字で第二実験教室と書かれている。

画面に浮かんだ通話ボタンを押せずにいた。

そうこうしているうちに、仲間の一人からの通話を示す画面に切り替わる。慌てて通話ボタンを押し要件を尋ねる。

「・・・ついに動き出したか」


通話の内容はロシア国籍の工作員と思われる人員が日本や周辺各国に送られつつあること。それとそれを察知した他国も探りを入れ始めているというものだった。

「想定よりは遅いぐらいだ。お前も気をつけてくれ。」

そう伝え通話を切る。

急いで無線を取り出し東を呼び出す。

それと同時に、躊躇している暇はないと思い直す。

中々反応がなかった無線からやっと返事が返ってくる。

「・・・メディカルチェック中?」

奇妙なこともあるものだとゼロワンは思った。




古びた廊下の奥にある医務室で

「ん~~~。異常は特に無いかなぁ」

パースはわざとらしく考え込むふりをする。

なにかと大げさに表現するパースの本心が読めないため、東はパースの事が昔から少し苦手だった。

「本当か?ここのところ落ち着かない。もっとよく調べてくれ。」と念を押す。

「ん~~、血液、髄液共に異常なし。脳波、脈、呼吸も問題なし。いたってけんこうだけどなぁー」


パラパラとカルテをめくりながら言う。

「あずまんが自主的にメディカルチェック受けるのは初めてだからさ、ちゃんと隅々まで調べてるんだけど、異状ないよ?」

茶目っ気たっぷりに言いながらこちらを見てくる。

「任務から戻ってからどうも変なんだ。アカネを見るたびに、こう、何というか・・・なんと表現すればいいか・・・」と自分自身の胸に渦巻く感覚をうまく言い表せないでいると、

「体じゃなければ心に問題アリかなぁって思ってたんだけど、当たっちゃったか・・・」

「それもアカネちゃんかぁー」とパースは付け足す。


沈黙しているとパースは

「で、アカネと何があったの?喧嘩でもした?」と聞いてくる。

「いや、喧嘩はしていない。ただ最近、あの子の事を見ているとどうも・・・」

「落ち着かない?」

「そう、そうなんだ。」

「あの子が今まで見せたことのない表情をするんだ。」

「あの子が?」とパースが顔を曇らせる。

「あぁ、微笑んだり、悲しそうだったり・・・」

「笑う?!アカネが笑ったの?!」

パースは驚き目を見開く。

「知らないのか?仲間と話したりしているときに微笑んでいるの見たんだ。」

「仲間ってリーダーや間宮以外?」

「ああ、確か尾木って名前の・・・」と言ったところで

「そんなことが・・・・私はほとんど外出ていないから知らなかった」とパースは驚愕している。

その反応は正しいように東は思えた。なぜならゼロワン、東、アカネ、パースとだけで過ごしていた数年間、あの子は一度も泣いたり、笑ったりしなかったからだ。組織が拡大してからも他の仲間と話すどころか出歩くところなど想像もつかなかった。

パースは平静を取り戻しながらも

「でも、あの子、実験後のメディカルチェックではいつも道理ですよぉ」と返す。

再び沈黙が部屋に訪れる。

「特に」と東は切り出す

「特に瞳が、変わった。ように思う」

自信なさげに報告する。

夕食の折アカネが首筋に触れた時、自分をのぞき込むあの蒼い瞳に自分が映っていた。

以前のアカネは、育てているときも、成長して戦闘訓練をするときも、俺と話しているときも、あの瞳は此方を捉えているようで見ていないような・・・そんな感覚があった。

「俺が映っていたように・・・思える」

パースが下唇を噛み何かをこらえるような表情をした後、

「そう・・・・・。」と短く答える。

どうしたのかと思い

「パース・・・」と言いかけたと同時に無線からゼロワンの呼ぶ声がする。

しかし、アカネに続いてパースも見たことのないそぶりを見せるので東は動揺していた。

「リーダーが呼んでるんでしょ、早くいかなきゃ・・・」と促すパースの声は少し震えていた。

一瞬躊躇した後、東は無線に出ながら医務室を後にした。




「珍しいじゃないか、東。何かあったのか?」と教室の中の椅子の一つに座りながらゼロワンは尋ねる。

「いや、何も問題はない。」

いつも通りの調子で答えが返ってくる。

ゼロワンはそれが直ぐに嘘である事を見抜いた。しかし直ぐには追及せず話を始める。

「先ほどロシアを筆頭に我々に対して追っ手が出た。君にはそれを踏まえて戦闘要員に指示を出しておいてほしい。」

そして『それと』と付け加え

「しばらくはアカネの護衛を頼みたい。もちろん陰ながらね。」

そこで今まで変わらぬ様子で話を聞いていた東がピクリと反応する。

やはりな・・・

“計画”のためにアカネを学園に送り込んだ後、徐々に彼女が変わりつつあるのをゼロワンは良く知っている。

最初は口数が増えたところから、表情の種類が増え、時間が空いているときは拠点内を出歩くようになった。

それはまさに思惑通りなのだが、東にはかなりの影響を与えているようだ。

「東、いったいどうした。何か問題があるなら報告しろ。」と問いただす。


一瞬東が考え込むようなそぶりをした後、

「ゼロワン、最近アカネの様子がおかしいんだ。」

「アカネが別人のように思える。それに、その様子を見ているとこう・・・何とも言えない感覚に襲われるんだ・・・。」と胸の少し下を掴みながら言う。

 ゼロワンは一瞬、面白いと思ってしまう。自分よりも格段に体格のいい男が今は縮んで見える。

 また同時に納得もする。東はもう三十過ぎになるとゼロワンは記憶していた。

 

 ――――娘がいてもおかしくない歳だ。


「・・・東、お前はアカネを愛しているんだな。」



 東が建物から出て言ったことを確認してからゼロワンは医務室へと向かう。

 アルコールの匂いが漂う錆だらけの通路を抜け扉を開ける。

「はぁい、いらっしゃい。ってリーダー?!」

口に手を当てながらパースは驚く。

「どうしたんですかぁ?」

「・・・アカネの件で話がある。」




「じゃあ、あの子はますます普通の子みたいになるってことですかぁ?」

「そうだ。そうなることで、彼女は鍵として完成する。」

「てことは・・・ますますあの子可愛くなるんですねーー」

「・・・」 

違和感を感じ黙ってしまう。

「いやー私嬉しいなぁ」

「・・・」

「そう思うとなんか・・・感無量ってやつですねっ」

「パース」

見ていられなくなって目の前の看護師の名を呼ぶ。

「いやぁーリーダもひどいなぁ」

「パース」

今度はより力強く呼ぶ。

「・・・。」

目をそらしつつも黙る。

 『やはりな』と思う。

 パースは恐らくこの組織の誰よりもアカネの事を大事に思っている。

 アカネに名をつけた時も、あの子を“計画”に巻き込むと決めた時も、パースは不服そうな顔をしていた。

 それにアカネに言葉を教え、育て、憐み、慈しんだのは誰でもない彼女だった。

「パース。あまり感情移入しすぎるな。つらくなるのはお前だけじゃないんだぞ。」

 これはかつて自身に言い聞かせた言葉。

「お前の気持ちはよく分かる。だが、いつか後悔することになるぞ」

これは嘘だった。

パースは黙ってしまう。


そのまま、ゼロワンは踵を返し、部屋を後にする。


パースは胸の中に様々な感情が膨れてははじけるのを感じた。

出ていくゼロワンの背中を見ながら、小さくぽつりと、

「相変わらずなんでもお見通しかぁ・・・。それと、嘘の下手さ加減も・・・。」



 

 東は汗をぬぐいながら時計を見る。

 十一時を針は指していた。

「もう一時間はああしているぞ・・・」  

 学校が終わった後もアカネの変化は続いた。

 そして今日はどうも学園の協力者とレジャー施設で遊ぶようだった。護衛を命じられている東は当然のようにアカネを追った。

「ついに入るのか・・・」

 五人だったメンバーが六人に増え一団は移動し始めた。

 東も木の影から出て施設へと歩き出した。

 



 特に問題なく一日は終わろうとしていた。

プールサイドでは変な三人がアカネに絡んでいたが問題なく対処できていた。

「強い者と行動を共にすることはいいことだ。あの民間人、骨が折れていないといいが・・・」とつぶやく。

 アカネによってねじ伏せられた男の腕と指があらぬ方向を向いていたのでふと、心配になったのだ。


 大通りを歩くアカネたちに気づかれないように後を追う。

 以前に主に言われていたことを思い出す。

 

 “東、お前はアカネを愛しているんだな。”


 俺は、アカネを愛しているのか?

 あの子の事は境遇から最初、可哀そうだと思った。だが、成長していくにつれかなり優秀な兵士になると感じた。同時にいつか自分を超える、とも。

 最初“計画”の中のあの子の役割を聞いた時、兵器が鍵に変わった、ただそれだけだと感じた。しかし、今は、アレからあの子になった今はゼロワンの言う鍵という表現は適切でないような気がしてくる。 

 もしもゼロワンの言葉が正しかったとして、俺はあの子に何を求めている?

 恋人のような甘い時間?

 否

 溺れるような肉体的快楽?

 否、そもそも俺は巨乳の方が好みだ。

 ・・・では何を?

 

「パパっ!」と聞こえると同時に左の足に軽い衝撃を感じる。

 ゆっくりと振り向くとそこには見知らぬ幼女がしがみついていた。

 

「・・・・・はぁ?!」

 

 暫く百九十メートルの男と一メートル程度の幼女が見つめあう。


「すみませ~~ん」と少し離れたところから母親らしき女性が駆け寄ってくる。

 女性は何度も謝ったあと「こら、マミ!知らない人に急に抱き着いちゃダメでしょ!」と言いながら去っていった。


  


 見失いそうになって慌てて後を追うと、驚いたことに“あいす屋”にアカネたちは入っていく。

 そこは裏社会ではかなり有名な情報屋だった。急いで身を隠し様子を伺う。

「おいおい・・・なんの冗談だよ。」

 東は自分の眼を疑いたくなった。屈強な外国人達。恐らくロシア人やアメリカ人、中国、イギリス・・・皆情報を買うためにこの店に来たようだ。

 奴ら俺の顔を知っていてもおかしくはない。

 急ぎその場を離れる。

 ・・・思ったより奴らは今回の問題を重くとらえているみたいだぞ。ゼロワン。




 日本現総理大臣、天田 清 総理は信頼のおける閣僚や官僚を呼び集めていた。

 

 特別に用意させた会議室は重く静まり返っていた。

「先ほど・・・アメリカに続き中国から探りの電話をいただきました。」

 ざわめく室内。

「問題は・・・何についての探りか、ですな。」と切り出したのは陸上自衛隊の幕僚長だった。その隣には空自の次期幕僚長の姿もある。

「それが、いまいち的を得ない感じなんです。」と困った風に総理は返す。

 天田総理は日本の総理大臣としては最年少の三十六歳での就任だった。有力政党の国会議員として当選してから数年も経たずに首相に担ぎ上げられたのだ。

 政党内の派閥や有力者の思惑で得た地位を天田は逆に利用した。

 国中にあふれる停滞感、保守的思想や汚職体質を一掃しようと乗り出したのだ。

 結果は、叩けば叩くほど身内からも、野党からも、果ては世界的な大企業からも社会の闇があふれ出るという形になった。

 結果政権はガタガタ、政治の威信は地に落ちたという感じで天田政権は始まったのである。

 今はどうにか人材を補充し、独裁的と言われつつも、少しずつ国民からの支持もとり戻しつつあるところだった。

 その矢先にアメリカ、中国からの『そちらさん、最近忙しそうだけどどさくさに紛れて国際的にマズイことしていない?』という外交的作法や信頼関係という言葉を一瞬で粉々にする電話である。

 そして残念なことに首相には心当たりがあった。

「やはり、例のプロジェクトでしょうか?」と聞いてきたのは公安のトップだった。

「いや、まだ分からない。」

 電話の印象では相手もまだ“日本が何かしている予感がする”程度のものだった。

「我々には今問題が山積している。」

 日本は今、少子高齢化、災害対策、減らない借金、近隣国との領土や歴史問題、更には前政権の汚職の尻拭いと問題には事欠かなかった。

 そのうえ前政権が残した“とても厄介だが、うまく使えば日本を変えれるモノ”まで見つかる始末だった。

「当面は、野党にも呼び掛けて政府の信用回復に尽力します。」と面々に向かって今後の方針を打ち出す。

「米、中の件はしばらくは伏せておきましょう。ただ、他国が一体何に興味を持ったのか、それは早急に確かめる必要があります。」

「お願いできますかな?」と自衛隊と公安の幹部に振る。帰ってきた二つ返事に天田は満足そうにうなずいた。




 拠点内はその日、ざわめいていた。

 最近ただでさえ、怖いという印象から可愛いや可憐といった印象に変わりつつあった彼女が 組織内では一切しないような普通の恰好をしていたからだ。


「おい、見ろよアカネさんだぜ。」

「お嬢って怖い人だと思ってた。」

「俺なんて最近握手してもらったんだぜ」

 などと男たちが遠巻きに見つつ盛り上がっている。そこにサングラスをかけた大男が現れ男たちは急いで持ち場に戻る。

 

「ア、アカネっ」と呼び止める。

 振り向き此方を見つめてくる瞳は東のよく知る色をしていた。

「どうかしましたか、東。」

 どこか物足りなさを感じ、胸がチクリと痛む。

「あ、あのだな・・・」

 呼び止めたものの言葉に詰まる。

 アカネがどうかしたかという顔で此方を見てくる。

「あ~いや、その恰好はどうしたんだ?」と言いたいことと違うことを口走る。

 アカネは自分自身の体を見回し

「学園の協力者と今日街に出るのですが、パースがこれを着て行けと・・・変ですか?」と聞き返してくる。

 ・・・パースの仕業か。ここ最近パースがアカネと一緒にいるといううわさを聞いていたのを思い出す。

「いや、変ではない。と思う。」

 だが、

 だがその装いはまるで

 “ただの”女の子の様ではないか


 アカネは最近見せるようになった安堵したような様子でまた歩き始めようとする。

「待ってくれっアカネ!こ、これを渡そうと思っていてだな・・・その・・・民間人に溶け込むのに役に立つと思う。」

 そう早口で言いながらコートの中から淡い水色のひし形の髪留めを取り出す。“あいす屋”から離れた後、商店で目につきつい買ってしまったものだった。

 アカネは一瞬キョトンとしたが

「ありがとう、東。」と言いながら素直に受け取る。

 そしてそのまま片側の髪を耳にかけそこを髪留めでとめる。

「視界の確保が楽になりました。」と髪留めをさすりながら東を見る。


「ああ、似合っているよ。」

東は自然とその言葉を口走っていた。

 

 アカネはまたキョトンとした表情を浮かべるが直ぐに元に戻る。軽く会釈をした後、背を向け歩き出してしまう。

 その場にはカン カン カンという建物の床の鉄板を踏む足音だけが響く。


 東は自分が口にした言葉に驚きつつ心の内からこみ上げてくる感情に必死に耐えていた。

 サングラス越しの暗い世界が一瞬滲みキラキラとぼやける。

 東は唇を強く強く噛む。『つっ』口から血が零れる。

 あぁ、あの子は、

いつの間にか、あの子は大きくなっていたんだな。

 自分の中でとてつもなく大きな存在に

 なっていたんだな。

 

 サングラスを外す。


 今、彼女の瞳を見たらどのような色に見えるのだろう。

 どれほど淡く儚く綺麗なのだろう。

 あの子は今、恐らく脆い。と東は思った。

 感情は弱点になる。

 心とは人を脆弱に、不安定にする。


 今の俺のように。


 胸の蟠りは、言いようのない苦しさは消えてはいない。

 だが、ゼロワンの言った“愛しているんだな”という言葉の意味は分かった気がした。


 また同時にゼロワンを憎む気持ちが少し芽生えた。




その後どうにか気持ちを落ち着かせ、急ぎアカネの護衛の準備をする。


護衛自体はいつも通り簡単だった。後を慎重に追い辺りを監視する。

一つ問題があるのならば、金髪で自身をもしのぐ体躯を持つ男がアカネ達を尾行し始めたことだ。


ロシア人か・・・・。


幸い俺には気づいていない。

アカネ達は店にいる。ちょうど近くには工事中のビルがある。

襲撃にはもってこいだと思う。

・・・さっき無線で何かやり取りしていたな。『仲間が複数近くにいるな』と考える。

東も首元の無線機に振れ指示を出す。

「こちら東、各班応答せよ。」

無線からはシセイやシャーマンなど腕の立つ奴らが無線に応じる。

「至急第七ビル建設現場に五人ほど人員を送ってくれ。」

返事と共に武装について尋ねてくる。

「強襲用だ。あと街中での戦闘になる。消音機はつけていけ。」

そう指示を出し無線を切る。

「・・・っ」

急に視線を感じ、潜んでいた路地の暗がりからあたりを警戒する。


パチりと音がした。


そう思うほど完全に店の中にいるアカネと目が合う。

此方を見る目は不安そうだった。

「・・・・くっ」

一瞬心がぐらつく。

彼女を使うべきか?それとも無視して行動し続けるか?東は冷静さを欠いていた。

金髪の男が無線機らしきものを鞄から取り出そうとするのが目に映る。

まずい。こちらに気付いたか?

時は一刻を争うと判断した東は素早くハンドサインで『敵 複数 此方から 攻撃 開 始 スル』

“敵”と合図した時点でアカネは走り出していた。

急いで東は走り出す。 

数分とかけずに作りかけのビルに侵入する。


恐らく敵はアカネにつられるだろうと考え、彼女に三階に行くよう指示する。


 そして東は四階へと向かう。

 

 四階にたどり着いたその後すぐに目的の男が現れる。

 まんまと強襲ポイントに来た男を東は特製のマチェーテで襲う。


・・・意外にいい腕をしている。だが、甘い・・・

最初の一撃に続き肩に刃を叩きこむ。

確実に皮を裂き肉を断つ感覚が刃から手に伝わってくる。

しかし、そこで東は予想していない事態が進行していることに気づく。

部屋の奥にアカネと共に五人の民間人がいることに気づいたのだ。


そこからは最悪な事件の連続だった。

一瞬アカネに命令を下すべきかどうか迷った後、背後からの気配を感じ仕方なく金髪の男を排除するように命令する。

そして予想通りロシア人が二人、最新のサブマシンガンを構え現れたのである。激しい銃撃戦の中、アカネに銃を渡し共に応戦する。

仲間の到着を無線が知らせると、見極めたかのように三人が後退し始めた。

シュシュッと下で撃ち合う音が聞こえる。


東はアカネの状態を確認する。

パースが仕立てた服装はところどころ擦り切れボロボロになっていた。

今朝あげた髪留めは傷がついていたものの、アカネのクリーム色の髪の上でしっかりと輝いている。


「レイナっ!!」と背後で声がする。

そこで民間人を巻き込んでいたことを思い出す。

声の方を見ると民間人の中の一人が地面に倒れていた。恐らく銃撃戦の中、流れ弾に当たったのだろう。

「ロシア軍共もまさか民間人がいるとは思わなかったんだろうな・・・。」

気の毒だが何もしてやれることはない。

今の東に出来ることは先ほどから起動させていた妨害電波を止め、救急車を呼べるようにする事だけだった。


「アカネ。撤収するぞ。ここは直ぐに騒がしくなる。」そう冷たく告げる。


しかし、アカネはその場から動こうとせず先ほどから懸命に止血を試みる民間人を眺めている。

「アカネ。」と再び名をよび腕をつかむ。


そこには東の知るその子の姿は無かった。

東が買った髪留めよりも淡い色の輝く

蒼い碧い宝石のような瞳が水滴で滲んで

キラキラしていた。

見たことのない、今にも泣きそうな

ただの子供がそこにいた。


東はその子を強く抱きしめ

涙を拭き慰めたくなる気持ちを必死に抑える。


「東」名前を呼んだあとその唇は“たすけて”と動く。ただその声は擦れてほとんど東の耳には届かない。


だが東はその足を、もうすでに倒れて死にかけている子供の方へと向かっていた。




東は車に乗り込み少し力を抜く。

後ろに首を動かし医療部門の仲間に少女の容態を聞く。

かえってきた答えは出血多量でかなり危険な状態にあるということだった。車内で輸血を行っても持って二十分前後だという。

仲間に他の子供たちを車に乗せるよう指示する。

そして無線をゼロワンにつなげる。

「ゼロワン。アカネと一緒に居た民間人を巻き込んでしまった。一人は瀕死だ。」

 

無線に聞こえてきたのは意外にも子供たちの排除ではなく連れてきて治療を受けさせろと言うものだった。それと話をしたいとも。


「何を考えている。ゼロワン。」

そう呟きながら車を出させる。


何故いつも社会のひずみのツケを子供たちが払うのか、と東は心の中で呟く。

そしてアカネの見せたあの姿を思い出す。


 その子を最初、可哀そうだと思った。

 次に彼女をアカネと名をつけた。

次に彼女を武器だと。

次に優秀な兵士だと。

 次に兵器だと。

 次に鍵だと。

 『愛していると』

 そんな資格はない。あるはずがない。

 『愛とはとても呼べない。』

 あの子を思うこの気持ちを

「愛と呼ぶ資格は俺にはない」






男は黄色いバイクに跨り都心を猛スピードで疾走していた。


「あいつ・・・」

自分の過去がここまで何かに影響するとは思っていなかった。

 

バタバタと風で外套が暴れる。


かつての教え子たちが何かをしている。

そして、今の教え子たちが何かに巻き込まれている。


「手のかかるバカ共が・・・まだ俺はてめえらの課題の答え聞いてねぇぞっ」

そう言いながら法律などは無視したスピードを出し、数年間近づこうともしなかった施設へと向かった。


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