第一話
「いいかい。言い伝えとはいえ軽く考えてはいけないよ。私達はいつでも『お役目』を行える様に精進しているんだ。お前も私達と同じ気持ちでいるんだよ。」
広大な畑の前で鍬を背負い 赤土の付いた頬をタオルで拭きながら祖父が私を見つめる。いつもは優しく細まるその瞳には今日は力を感じる。祖父が大事なことを話す時のいつもの目だ。
「分かってる。おじいちゃんが『お役目』に選ばれてもいつもと変わらない。大丈夫だよ。」
胸元に右手を添えて大きく頷くと祖父は口角を上げて「うんうん」と答える。『お役目』の話しをする時の祖父の表情が何よりも好きな私は物心がついた時から いつか祖父が『お役目』に呼ばれる事を待っている。祖父の語る『お役目』とはこの国に伝わる言い伝えに出てくる導師の事だ。
言い伝えによると、国の危機を迎えた時に救世主を呼び出す。その為には選ばれた4人の敬虔な信者が必要であるが信者はどのように現れるかは分からない。しかし信者が現れた時には導師の身体に印が出現し信者に導くとされている。また信者と出会うと導師は自身の教えを信者に諭し大事な物を与えてくれる………とされている。
この国には4つの村があり、各々の村に導師の印が出ると言われている。
また印が現れ導師が決まると村長は国王に報告をする事になっており其々の村の情報交換をする事で4人の信者を神殿へと集める時期を決める。
ここで厄介なのは信者が必ずしも導師と同じ村とは限らないという事だ。
前のお役目の時は1つの村から2人も現れた為に導師の印が出現してから4人の信者が集まるまで数年かかったとも言われている。しかもこの言い伝えにはもう1つ困ったことがある。それは言い伝えは全て信者からの話しによるものであり正確な情報とは言えないのだ。
その為、前のお役目の際に国王に各々の村長も招集され有識者会議にて決まったのは、導師と共に活動する書記官を付ける事だった。書記官の決定は数年も生活を共に出来る者として導師が決める事になっている。書記官は導師の行動や生活の援助、信者の判定や諭しの内容、何より信者に手渡す物は………などを詳細に記録する。
前の『お役目』からもう200年は過ぎている。
それでも私は………いや、私達は『お役目』の印を待っている。