第二話 ユキ
そのころ、大騒ぎだった城の中にもたったひとつだけ静かな部屋があった。
その部屋には、立派な彫刻が壁を埋めるように描かれており、天井には、国一の画家が描いた絵が飾ってある。
いかにも貴族らしい部屋だ。
そこにたった一人少女がいた。
・・・その少女が王の養い子「ユキ」だ。
(煩い!この騒ぎいつ終わるのよ!)
ユキは、怒り狂い机を一発殴った。そして心の中で叫ぶ。
あの煩い城のものどもめ、私が王になったら全員解雇してくれる!
その瞬間、机がぼきっ!と派手な音を上げ二つの木片が美しい白の絨毯に崩れ落ちた。
さらにユキは、その絨毯を捲り上げ扉に向かって叩きつける。
「あっっっっのクソ親父!!何考えてんのよーーーー!!」
王女とは思えぬ悪態をつき、ユキはさらに壁に飾られた父王の肖像画に拳を一発。
「何なのよ何なのよ!!私がいつ王にしてくれとたのんだのよーーーーーーー!!」
城のすべてに木霊すような怒鳴り声を上げ、ユキは突然笑いだした。
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
そして、幽霊のようにふらふらとベランダにでた。
ここは、父王の執務室。
つまり王の執務室。
偉い人の執務室。
こわしちゃいけない執務室。
とても立派な執務室。
机1つで家が100件くらいたつ執務室。
とってもすごい執務室。
凡人は一生見れない執務室。
全てあわせて、やっぱり王の執務室。
ユキは、その部屋の惨状をとても楽しそうに見やり一言言葉を紡いだ。
「案外楽しかったわ、おバカな父上。そして、永遠にさようなら・・・・・・」
そして、ユキはベランダから飛び降り10mほど下に猫のように着地した。
そこは、城の外側に突き出た通路。そこには、麻で出来たリュックと手提げが置かれていた。
最後に彼女は、空を見上げ憤然と呟く。
「私を王にしようなんてこの世界が出来る年月があっても足りないくらい早いわ。いいえ、そんな時はこない」
そして、ユキは通路から姿を消した。影も形もなく。
その日、城中の人間が愕然とする出来事が起こる。
『セルン次期国王、ユキ・レイス・ミレーユ・オブ・セルン失踪』