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ボクがお姉様と呼ばれるなんて  作者: ユーリー
18/45

練習試合

 ーーそして翌日。

学園に登校すると、今日は正規騎士同士の練習試合があるという話だった。

昼休み、やはり練習試合の話題になった。、「あの、今日はどなたの試合なんですか?」

「私よ。」

天音さんが答える。

「そうですか。まぁ天音さんなら心配はいらないでしょうけど、怪我しないよう気を付けてくださいね?」

「ええ、わかっているわ。練習試合だろうと私は全力で戦うだけだもの。」

 

そして今日の練習試合が始まる。

天音さんと3年生騎士だ。

今日は実況がないため遥さんと一緒に観戦している。

グラウンドでは2人の挨拶が終わったようだ。

練習試合が始まるまでの少しの間があり、天音さんは相手選手に声をかけた。

「練習試合だからといって、手加減は必要ないわよ?」

「ええ、もちろんよ。『最強の白』相手に手加減なんて必要ないわ。」

余裕の表情をただよわせて腕を振ってガチャリと鎧を鳴らす天音さん。

対して相手はここまで緊張が伝わってきそうなくらい。

そして先生が声をかける。

「それでは、試合はじめ!」

試合開始の笛が鳴る。

本番ではそんなものはないけれど。

相手騎士が天音さんに向かい突進していく。

間合いが詰まると腕を大きく引く。

「先手必勝!」

相手騎士の突きは空振りに終わった。

天音さんがあっさり避けたのだ。

「くっ・・・!」

「あら、それで終わりなのかしら?」

「そんなわけないでしょ!」

相手は素早く突きを放ち天音さんを追い立てる。

突いては手首で戻して、また突く。それをひたすら打ち込む。

その突きはリズムに乗り速度を増していく。

それを観て遥が口を開く。

「すごいのです!あのファランクスみたいな攻撃じゃさすがの天音お姉様でも・・・。」

「ふぅ、あくびが出ちゃいそうな試合ですね。」

私は遥さんに返答する。

「結果のわかっている試合ほどつまらないものはないですね。」

「そ、そうなのですか?で、でも天音お姉様のお相手すごいですよ?」

「遥さんに良いことをお教えしましょう。足元をご覧ください。」

「足元・・・?・・・あっ!?」

対戦相手の騎士の攻撃には隙がないようにみえる。

「あれだと絶対に当たらないのじゃないですか?」

遥さんが気づいたようだ。

「正解です。よく気が付きましたね。偉いです。そうです、あれは攻撃なんてものじゃなく、しいて言えば消極的な防御でしょうか。

「防御・・・。」

「遥さんも気づいたと思いますが、相手は天音さんを警戒しているのか、ただ怯えているのか。まったく踏み込めていません。」

相手はさっきから一歩も前に踏み出せていない。ずっと同じ場所で突きを繰り返しているだけ。

「ですです。あれじゃ、まるで身長の足りない本棚から本を取ろうとしているだけなのですよね。」

「だからさっきから天音さんは軸足を一切動かしてませんよね?」

天音さんは先程から右足を地につけたまま左右に体を傾けて相手の攻撃を避けていた。

後ろに下がる必要すらない。

相手は踏み込んでこないのだから。

「相手は無意識に、それ以上こちらに踏み込まないでっていうおまじない・・・ですからあれは攻撃ではなく心理的な防御なんです。」

「でも攻撃しているのはあちらのお姉様なのですよ?・・・あっ!?」

「そういうことです。」

「負けてるのですっ。精神的に最初から負けてるのです!」

だから攻撃しているように見えて、相手の頭の中じゃいつ天音さんが踏み込んで攻撃をしかけてくるか気が気じゃない。

相手騎士は自分の頭の中にいる天音さんに負ける未来しか見えていない。

「勝負の世界は非情ですよね。最初から勝つビジョンのない相手に勝利は拾えないんですから。」

そしてなお攻撃が続いている。

「もう息があがっているわね。」

「うっ・・・。」

もう相手は天音さんが足の運びを少し変えただけで完全にひるんでいる。

実力差は圧倒的だ。

「ほら、どうしたの?攻めないと勝てないわよ?」

天音さんは攻撃の隙をぬってどんどん身をよせる。

相手はあきらかに距離をとり警戒に警戒を重ねついには場外ぎりぎりまで追い詰められてしまった。

「恥ずかしい試合をしないでちょうだい。下級生だって見てるのだから。」

「なっ!・・ならこれでどう!?」

相手の動きが変わる。

「やあああ!」

相手は完全に攻めに入る。

捨て身の攻撃かと思いきや。

「ええっ!?どうしてなのです!?」

遥さんが叫ぶ。

相手は剣から手を離し天音さんの脇下に捨ててしまう。

「なるほど、彼女、最後に見せ場を作ったのですね。」

天音さんが落ちた剣に一瞬目を奪われる。

「いただきますわ、天音様!」

フェイントだ。

天音さんが武器に目をやった一瞬の隙に相手は突進した。

「あらら、まるでレスリングですね。」

天音さんに、中腰で抱きつく姿を見て私がつぶやく。

「いいアイディアだったわ。」

相手のタックルに天音さんはビクともしない。

「なるほど、タックルで私を倒すのはいい考えなのだけれど、あなた格闘技の心得はないようね。」

天音さんはそう言い放ち剣を地面に突き立てた。

「あなたの作戦に敬意を表して私もあなたにならいましょう。ただし私のはレスリングではないのだけれど。」

そして一気に体を落とす。

「は・・・・?」

腰を低く落とすと、相手の胸元の鎧と腰をつかみ一度強く右側に体を振ったあと、左に体を落とす。

たぶん相手は気がついたら視界の中で空が回っていたことだろう。

そのままグラウンドに投げ飛ばされる。

「きゃあああ・・・っ!」

「剣を捨てた時点であなたの負けよ。次からは何があろうと剣だけは離さないことね。」

天音さんはそう言って剣を引き抜くと、倒れた相手の鎧を軽く突いた。

ーーピィー!

試合終了だ。

「はあ、はあ。まいりました・・・」

結局天音さんは前回同様最後まで一切剣を振るうことなく試合に勝ってしまった。

ただ、相手も投げれれても地面に手をつかなかったのは、さすがは選ばれた騎士だった。

「ご声援ありがとうございます。それではごきげんよう。」

鳴り止まぬ声援の中、天音さんは去っていった。




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